招(よ)ぶ、音。 あ、という表情で視線を彷徨わせた月島に、傍らにいた宇佐美も気付いたらしい。
「どうし……、」
どうしましたか、と問おうとしたのだろう。だが、その言葉は途中で飲み込まれ、あとにはちいさな音
が響く。
響いて、消える。
「風鈴ですね」
ころころ、と転がるような澄んだ音がいくつも、ようやく陽のかげりはじめた蒸し暑い夏の夕べに重なって響いていた。短く、零れ落ちるざわめきのような音はやわらかく、そのおとの因(もと)の素材の涼しさを伝えてくる。
「えらくたくさん響いてくるな、と」
宇佐美と並んで歩きながら、月島はあたりに眼を走らせ、それにたいし、宇佐美は少し進んだ先にある神社の境内を指さしてみせる。
「あそこにある神社、毎年この時期には七夕祭りもかねて、風鈴祭りってのやってるんです」
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