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    しんした

    @amz2bk
    主に七灰。
    文字のみです。
    原稿進捗とかただの小ネタ、書き上げられるかわからなさそうなものをあげたりします。

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    しんした

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    呪専七灰。
    お付き合いして日が浅いふたりのとある一コマ。
    甘酸っぱい感じです。
    このふたりの仲は高専内で周知されていて、温かい目で見守られています。

    七灰ワンドロワンライ41.『おむかえ』.





    『今日の夕方には帰る』
    七海からそうメールが来たのは、ちょうど午後の授業が始まる頃合いだった。



    高専に入学してから、ほとんどの時間を七海と一緒に過ごしていた。
    教室ではもちろん実習も任務も二人一緒。流石に寮に戻ってからや休日は別々に過ごすことはあったけれど、所謂恋人同士になってからはその時間も一緒にいることが増えていた。
    だからだろうか。数日前、七海が他の術師の人と任務へ行ってから、どうにも落ち着かなかった。
    授業中でもお昼休みでも寮に戻って課題をしている時でも、隣の空間がぽっかりと空いているように感じる。ご飯をお腹いっぱい食べても、何か物足りない。どちらかといえば暑がりだと思っていたのに、いつも開けっぱなしの上着のボタンをいくつか止めてみたり、引き出しの奥から少し分厚いパーカーを出してみたり、掛け布団を鼻先までしっかり上げてみたりと、まるで急に冬が来たような行動をしてしまう。
    この一連の行動の原因が『寂しさ』というものだと気がついたのは、七海におやすみを言えない夜が三度目訪れた時だった。
    すっぽりと包まった布団の中で、七海のことを考える。
    任務上手く進んでるかな。怪我とかしてないかな。ご飯ちゃんと食べてるかな。枕変わると熟睡できないって言ってたけど大丈夫かな。
    ──早く、七海に会いたいな。
    自分にこんな一面があったなんて知らなかった。誰かをこんなにも恋しく思うなんて。
    七海はどうなんだろう。任務だからそれどころじゃないよね。でも、七海も早く会いたいと思ってくれてたら、いいな。
    そうして眠りに着いた、翌日の朝。予定では今日の夜遅くに帰ってくるはずだ。明日も朝から授業であまり夜更かしはできない。けれど、ギリギリまで起きて待っていよう。
    そう思っていたところに、七海からメールが届いたのだ。
    夕方って何時かな。晩ご飯何がいいかも聞かないと。疲れてるだろうけど、寝るまで一緒に居てもいいかな。……それは直接聞いてみよう。
    数日ぶりに七海が帰ってくると思うとソワソワしてしまう。午後の授業は上の空で余計に課題を出されてしまったけれど、正直全く気にならなかった。
    授業が終わり、急いで携帯を確認した。授業の途中に七海からメールの返信があったことは通知の振動で気がついていた。
    ワクワクと一番上のフォルダを開くと、表示されるのはいつも通りの淡々とした七海の文章。
    『帰校予定時刻は午後五時前。晩ご飯は灰原が作るものなら何でもいい。』
    そこまでは予想の範囲内。けれど、続いた言葉に思わず息を呑んでしまった。
    『あと、今日は灰原の部屋で寝てもいいか?』
    ぶわっ、と全身が沸騰したように熱くなる。付き合ってからの日にちはまだ浅く、ようやくハグに慣れてきた頃合いで、キスも片手の指の数くらいしか経験していない。泊まりの任務以外に一緒の部屋で眠ったことはあるけれど、七海の部屋で映画を見ていたら僕が寝落ちて、七海のベッドを占領していたという始末だ(七海は床で寝たらしい)。
    実のところ、ちゃんと一緒に眠る機会はずっと探っていた。だが、まさかこんなふうに七海から踏み込んでくるなんて思っても見なかった。
    今は午後四時半過ぎ。七海が帰ってくるまで三十分弱。
    このまま大人しく寮で待ってなんていられない。今回の任務は補助監督も同行していて移動手段は車だ。どこの出入り口から帰ってくるのかは決まっている。
    教室を飛び出して、高専の出入り口の中で大きめの門の方へと向かった。別に走る必要はないというのに、足が勝手にスピードを上げていた。
    門に着いた時、まだ五分も時間は経っていなかった。弾む息を落ち着かせながら、麓へと続く緩やかな坂道を眺める。メールを返そうかどうか少し迷ったけれど、直接返事をしたくて我慢した。
    夕方ということもあってか、門の側で待っていると呪術実習や任務へ行っていた学生や術師の乗った車が何台か横をすり抜けていく。この門はほとんど車専用でこんなところで立っているのが珍しいのか、窓の向こうから視線を感じて少し恥ずかしい。それでも、もうすぐ七海が帰ってくるのだと思うと、喜びの方が勝っていた。
    五台目くらいだっただろうか。また車が坂を登ってきた。フロントガラスの向こうをじっと見つめていると、後部座席で窓の方を眺めている七海の姿が目に入った。隣には同行していた術師の人がいるというのに、七海の横顔はムスッとしている。ただ、チラリと視線を落とした先に開けた携帯電話があることに気づいた時、もしかするとメールの返事がなくて落ち込んでいるのではないかと思って胸がキュンと苦しくなった。
    ごめんね。だってちゃんと七海の顔見て言いたかったんだもん。許してくれるよね。
    車はどんどん近づいてくるというのに、七海はなかなか顔を前へ向けない。
    七海、早く気づいてくれないかな。ううん、気づいてもらうんだっ!
    「七海ーっ!」
    そう大きな声を出して、限界まで高く手を挙げた。
    なんでもない顔で運転していた補助監督の人がパチリと目を瞬かせ、それからすぐに七海の隣に座る術師の人も気がついたように顔を覗かせる。ただ、当の七海は上の空といった様子だった。
    「なーなーみぃーっ!!」
    もう一度、今度はジャンプもしてみて存在を主張してみる。すると、ようやく七海が前を向いた。
    ぐぐっと皺の寄っていた眉間が緩んで、代わりに瞳がまん丸くなって、ムスッとしていた口元がポカンと開いていく。
    そうしている間に車は横をすり抜けていったが、門を少し進んだ先でキュッ、と止まった。後部座席から降りてきたのは、もちろん七海だ。
    車の中へ軽く頭を下げた七海が、少し小走りでこちらへやってくる。唇はもう一文字に結ばれていたけれど、いつも下がり気味の口角がムズムズとしているように見えるのはきっと気のせいではないと思った。
    「おかえり七海っ!」
    「ただいま……どうしたんだこんなところで?何かあったのか?」
    「ううんっ、なんにもないよ!早く七海に会いたかったから迎えにきただけ!!」
    「別に寮で待っていたらよかったのに……」
    そう口にしたが、七海の頬はじわじわと赤く染まっていく。付き合いだしてから気づいたことだが、七海は案外喜びを隠すことができないのだ。
    「ありがとう、迎えに来てくれて。でも、結構待っただろ?鞄持ってるってことは教室からそのまま来たのか?今日は確か四時半終わりだろう?そこから待ってたのなら、身体、結構冷えたんじゃないか?」
    頬を染めながらも、七海は矢継ぎ早に質問してきた。その懸命な様子に心がくすぐられ、軽く握っている拳をぎゅっと包み込んでいた。
    「全然待ってないよ!七海が帰ってくる~!って思うと一瞬だった!」
    「……ならよかった」
    ふっ、と目元を綻ばせた七海が握っていた拳を解いて、やんわりと手のひらを合わせてきた。自分では気づいていなかったけれど少し手先は冷えていたようで、いつもより七海の手のひらが温かく感じた。
    手を繋いで寮までの道のりを歩いた。高専の敷地内で手を繋いだことはこれが初めてだった。
    「メール返してなくてごめんね」
    「いいよ、別に」
    「よかった。なんか、直接返事したいなーって思って」
    「そう、か……」
    小さくつぶやいた七海が視線をうろつかせる。
    ここまできて、不安になる必要なんてどこにもないのに。けれど、慎重なようで意外と大胆な。そして、最終的には奥手な七海のことが可愛くてたまらなかった。
    「晩ご飯、お鍋でもいい?」
    「……ああ。今夜は寒くなるみたいだしぴったりだな」
    「だよね!じゃあさ、〆は雑炊かうどんどっちにする?」
    「そうだな……雑炊の気分かな」
    「オッケー!あ、冷凍庫にアイスあったかも!デザートに食べよ!」
    「贅沢だな」
    「だって七海任務お疲れさまだし!……あとね、」
    繋いでいた手のひらを少し緩めて、七海の指へ自分の指を絡めていった。見た目よりもゴツゴツとした指の関節のでこぼこがダイレクトに伝わってきて、自分の心臓が駆け足になっていくのが分かる。
    それでも、ちゃんと七海の目を見て言うんだと、一度きゅっ、と唇を結んでから、ほんの少し丸くなっている綺麗な翠色を見つめて、甘いおねだりへの返事をした。




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