Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    ミヤシロ

    ベイXの短編小説を気まぐれにアップしています。BL要素有なんでも許せる人向けです。

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 32

    ミヤシロ

    ☆quiet follow

    ⚙️が去った後の🐉で桜ネタ。やたら暗い。
    アニメで凄いことになっていますが、彼はこの先どうなってしまうのでしょうか?
    2025/7/18 少しだけ修正しました。古いバージョンはこのページの下の方に乗せておきます。

    桜の下 桜の下には死体が埋まっているという。
     誰が言ったかは忘れたが、そういった話を聞いた記憶がある。おぞましい死体が在るからこそ、桜は美しく咲き乱れるのだ、と。
     人は残酷な一面を持っていて――というより、人間は結局ロクな生き物ではないのだろう――そういった後ろ暗い話に惹かれる面がある。だからこそ馬鹿馬鹿しい言い伝えが流布されるのだ。オレはくだらん、と思う一方、そんな話に興味を抱いてしまう。公園の桜の下に、あるいは河川敷の桜並木の根元に。桜の在る場所に。もしかしたら死体が埋まっているのかもしれない、と。
     オレはあいつの……黒須エクスのことを考える。頂上に立った途端行方をくらましたあいつは今ペルソナに居る。別れて以来、オレはあいつのことばかり考えている。暇さえあれば幾らでも、同じ思考をぐるぐると巡らせた。
     相変わらず寿司ばかり食べているのだろうか。他のメンバーとは上手くやっているのだろうか。あいつは生活能力が皆無な奴で、リーダーとして世話を焼いていたオレから見てかなり危なっかしい気がした。ただ庇護欲をかき立てるのは上手く、放っておけない子供でもある。もしかしたらオレの心配などどこ吹く風で新たな生活を楽しんでいるかもしれない。あいつはベイ以外何も出来ない奴だったが、周りの人間には――自分で言うのもおこがましいが――恵まれていた。
     あいつは、ペルソナに居て幸せなのだろうか。オレのことを、少しは振り返ったりするのだろうか。
     あいつは。
     一方でこうも思う。
    (いっそのこと……、……してしまえばよかった)
     オレの願いを軽く笑って退け、最後に胸を抉る言葉を放ったあいつが。愕然とするオレに構わず笑いながら走り去ったあいつが、時にたまらなく憎い。人は愛すると同時に憎むことが出来る。オレはあいつが愛おしくて憎らしい。手に掛けてしまいたい程に。
    "気を遣ってわざと負けてくれたんだよね?"
    気を遣って、だと。オレは全力であいつと戦って、敗れて、なのに。ああ、なんて奴だ。純粋無垢な心で、平然とオレを踏みにじって。いっそのこと、あの時、あの瞬間に。恐ろしい思考とわかっていながら、オレは思わずにはいられなかった。
    いっそのこと、殺してしまえばよかった、と。
    桜の芽が膨らみ、花開くまであと半月ほどだった。
     毎年見物人を楽しませる桜は、じきに一年ぶりに花を咲かせる。今からでも遅くはない。桜の下にあいつの死体を埋めて肥やしにすればさぞ綺麗な花が咲くだろう。あいつが腐り、とろけ、土に還り、桜の根に吸い上げられれば。この上なく美しい花になっただろう。赤子のようにやわらかい頬の、薄紅がそのまま花弁に宿って。あいつは咲き誇った春の日に、ゆっくりとオレの許に舞い降りる。
     ああ、あのまま行かせなければよかった。
    「殺してしまえばよかった」
     走り去るあいつを追いかけ首に手をかけ、思い切り力を込める。あいつを絞め殺すなど造作もなかった。やってしまえばよかった。いっそのこと。今からでも間に合うだろうか。今は三月半ば。あと少しで桜の花が咲く。それまでにあいつを。
     Xタワーの頂上から見下ろす景色は空虚なもので、どれだけ空が澄んでいようと灰色にしか見えず、高層ビルの群も廃墟か何かに見え。あいつが居なくなってオレの目に映る景色から色がなくなった。あいつが居たからオレは頂上の景色に焦がれて戦ってきたのに。今となっては無意味だった。
     今からでも遅くはない。いっそ。桜の木の下に、あいつの死体を。
     あと少しで桜の花が咲く。

    ****

    ↓は古いバージョン

     桜の下には死体が埋まっているという。
     誰が言ったかは忘れたが、そういった話を聞いた記憶がある。おぞましい死体が在るからこそ、桜は美しく咲き乱れるのだ、と。
     人は残酷な一面を持っていて――というより、人間は結局ロクな生き物ではないのだろう――そういった後ろ暗い話に惹かれる面がある。だからこそ馬鹿馬鹿しい言い伝えが流布されるのだ。オレはくだらん、と思う一方、そんな話に興味を抱いてしまう。公園の桜の下に、あるいは河川敷の桜並木の根元に。桜の在る場所に。もしかしたら死体が埋まっているのかもしれない、と。
     オレはあいつの……黒須エクスのことを考える。頂上に立った途端行方をくらましたあいつは、今何処に居るのだろう。
    (いっそのこと)
     あいつと別れて以来、オレはあいつのことばかり考えている。
     腹は空かせていないか。独りで大丈夫なのか。あいつは生活能力が皆無な奴で、とてもあいつ独りではやっていけない気がした。ただ庇護欲を掻き立てるのは上手く、放っておけない子供でもある。もしかしたらオレの心配などどこ吹く風で新たな保護者を得たかもしれない。あいつはベイ以外何も出来ない奴だったが、周りの人間には――自分で言うのも烏滸がましいが――恵まれていた。
     あいつは、エクスはどうしているのだろう。元気にやっているのだろうか。
     あいつは。
    (いっそのこと――してしまえばよかった)
     オレの願いを軽く笑って退け、最後に胸を抉る言葉を放ったあいつは。愕然とするオレに構わず笑いながら走り去ったあいつは。気を遣って、だと。オレは全力であいつと戦って、敗れて、なのに。
    (いっそのこと殺してしまえばよかった)
     桜の下にあいつの死体を埋めて肥やしにすれば、さぞや綺麗な花が咲くだろう。あいつが腐り、とろけ、土に還り、桜の根に吸い上げられれば。この上なく美しい花になっただろう。赤子のようにやわらかい頬の、薄紅がそのまま花弁に宿って。あいつは咲き誇った春の日に、ゆっくりとオレの許に舞い降りる。
    「殺してしまえばよかった」
     走り去るあいつを追いかけ首に手をかけ、思い切り力を込める。あいつを絞め殺すなど造作もなかった。やってしまえばよかった。いっそのこと。今からでも間に合うだろうか。今は三月半ば。あと半月もすれば桜の花が咲く。それまでに急いで探しだして、あいつを。
     Xタワーの頂上から見下ろす景色は空虚なもので、どれだけ空が澄んでいようと灰色にしか見えず、高層ビルの群も廃墟か何かに見え。あいつが居なくなってオレの目に映る景色から色がなくなった。あいつが居たからオレは頂上の景色に焦がれて戦ってきたのに。今となっては無意味だった。
     今からでも遅くはない。いっそ。桜の木の下に、あいつの死体を。
     あと半月で桜の花が咲く。その日までに、オレは。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    ミヤシロ

    DONE89話『果たすべきこと』を見て思いついた話。🐉と🗡️でこんなやりとりがあったら面白そうだな、と。
    暑い日が続きますね。昨日は二十四節気の大暑でしたし、毎日本当に暑いです。

    追記
    7/19に広告を非表示にし、キャプションの文章を一部変更しました。
    広告がなくなると画面がさっぱりして、いいですね。
    魔龍と刃 暗い裏路地で着信を受けたクロムは、“そうか”と答えるのみであった。
     シエルの願いを受け入れも退けもせず、無感動な一言を掛けてすぐ通話を切った。シエルの声が聞こえなくなると辺りは静まり返り、無音が耳に痛いほどだ。クロムは嫌な静寂が垂れ込める世界に身を置いている。日の光がまともに射さず、彼の居場所は真昼にもかかわらず薄暗い――力を求めるあまり外道に堕ちた彼は、心のみならず身を潜める場所も闇に支配されていた。
     もっともクロムは冷淡に答えるも、彼の胸にはシエルの言葉が突き刺さっている。いじらしい少年はたとえどのような目に遭おうとクロムを慕い、ゆえに彼は少なくない呵責を覚えるのだった。神妙な顔で口を結び、青年は少年の言葉を反芻する。信念に支えられた発言は力強く、青年の帰還を切望する感情に溢れていた。
    2191

    recommended works