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    7月のお題「蛍」で参加させて頂きます。
    #毎月25日はK暁デー

    #毎月25日はK暁デー

    腐草蛍となる 蛍が見れる穴場がある。行ってみないか?そう聞こえた瞬間わぁと上がる若い女2人の歓声とそんな2人を微笑ましい目で見つめながら自分もワクワクを隠しきれない様子の青年を横目に音声が再生されたボイスレコーダーを睨みつけた俺の予想は間違いじゃなかった。

     
     高速を機材を詰んだワンボックスで飛ばし人里離れた山の中に到着。途中サービスエリアで腹ごしらえをした時にみせていた3人分の笑顔はすっかり消え失せている。
     無理もない。もう数時間、都会より大分涼しいとはいえ今は夏、休息と水分補給を交代で行いながら人気のない沢のあたりにわらわら出現したマレビト退治だ。下流の辺りがキャンプ場になっているらしく、昨今のアウトドアブームによって人が集まり、マレビトの数も爆発的に増えてしまったらしい。一時のレジャー体験によって発生したため強くはないが数が多い。
     ひたすら風のエーテルを打ち込みながら千本ノックじゃねえんだぞと悪態をつく。出発時ににこやかに手を振りこちらを見送ったデイルとエド、凛子を思い出し、苛立ちをぶつける為火のエーテルで一掃しようとしたら危ない、山火事が起きたらどうする、それに暑苦しいと一斉にブーイングが起こり舌打ちが出た。碌でもない日だ。まったく。
     
     その内日没にさしかかりマレビトがようやく数を減らし始め、あと少しだ気合い入れろと発破をかける。だんだん周りが薄暗くなる中、汗をしたたらせながら鬼気迫る表情で各々が得意とするエーテルショットを打ち込み続けた。
     

     やがて太陽は姿を隠すが流石に夏の日は長い。あたりは深く暗い青に包まれ夜の虫が鳴いている。持ってきたワークライトを手近な岩の上に置き、麻里か絵梨佳あたりがいつの間にかちゃっかり沢の水で冷やしておいたらしいサイダーの瓶を片手に座った。汗は拭い上だけだが着替えは済ませ、欲を言えばシャワーにサイダーではなくビールがあれば最高なのだが、普段学業にマレビト退治にと忙しい若者たちの一夏の思い出のためだ。
     KKの父性が帰ってから幾らでも楽しめる自らの気晴らしより彼らに今しか体験できない遊びをとKK自身に呼び掛ける。
     いつか父の日だからと3人から贈られたポロシャツの胸ポケットからタバコとライターを取り出し、沢に足をつけはしゃぐ3人にあまりここから離れるなよと釘を刺した。


     ややあって見つけた、という声が麻里からあがった。ここにも、あそこにもと絵梨佳の声が続く。目を凝らすとぽつぽつと明るい黄色が目に入り、後から後から蛍はそこらじゅうを細やかな光を放ち飛び回る。その幻想的な光景になるほど穴場だと腹の中に降り積もっていた不満を忘れるほど感心した。


    「ふぅ、疲れた」
     2人の少女と戯れていたはずの暁人がいつの間にか横にいた。そのまま腰を落ち着ける彼に向こうに混ざらなくていいのかと問うとうんと頷いてサイダーの瓶を口に当てがい傾ける。ワークライトに照らされた、ぽってり濡れた血色のいい唇に思わず引き寄せられそうになるが、すぐ側できゃあきゃあはしゃぐ声に我に帰る。意識を逸らそうとライトを消すと、辺りが一層暗くなった。
    「綺麗だね」
     はっきり見えるようになった蛍を見ている暁人を、横目でみつめる。自分とは違う。張りのある肌、夜闇に負けないほど黒い髪。綺麗な若者だと改めて思う。自分とは、全く違う。
    「どうしたの?」
    「何でもねぇよ、こんなおっさんなんか見てねえで蛍見ろ蛍」
     視線に気づいたのかこちらに振り向く。何となく気まずさを覚えて少々ぶっきらぼうに返してしまった。
     蛍。田舎で爺さんと見飽きるほど見た。子供だった俺も大人になり、自分の番が回ってきたのに仕事にかまけて息子と蛍を見ることは結局なかったな。親や祖父がしてくれた事を俺は息子にしてやれなかった。ずきりと胸が重く痛む。
    「この蛍も綺麗だけど、今はこっちの蛍を見てたいかな」
     俺から目を離さなかった暁人が、人差し指で俺の口元を、そこに咥えられた煙草を指差す。
     
     元に戻らない過去の痛み、行き場のない怒り。それらを隠す事に慣れてしまった俺の気持ちはコイツには、暁人にはバレてしまっているのだろうか。魂を繋げ、心の奥底に押し込んだ子供じみた慟哭すら全身で受け止めた暁人には。
     いやきっと俺の気持ちを知らなくても、それでも暁人は。

     吐き出された煙はゆらめき空へ登り、煙の向こうに蛍がその命を光らせ懸命に飛んでいる。少し離れた場所で絵梨佳と麻里の笑声が聞こえ、目の前では暁人が笑っている。
     過去をやり直すことはできない。後悔はなかった事にはならなず、胸の痛みはきっと消える日は来ない。それでも今の俺にはコイツらがいる。暁人がいる。帰る場所がある。


     いつものようにキザだと笑うだろうか。2人に聞かれて羞恥に顔を赤く染めて怒るだろうか?でもどうしても言いたい、聞いてほしい。聞き届けてくれる存在のいる有り難さは身をもって知っているから。言わなくても分かるだろなんて過ちはもう、2度と繰り返したくない。
     隣にお前がいて良かった。


     


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