【お題:紅葉】「朝晩は冷えるようになったね、やっと秋がきたかな」
『そうだな、風邪ひくんじゃねぇぞ』
例年より長く続いた猛暑は突然終わりを迎え、漸く秋らしい気候になった。空はすっかり秋空模様へと変わり、朝晩は少し肌寒いものの過ごしやすい気温になった。
「そういえば、近くの公園の紅葉がすごく綺麗なんだって。木霊が教えてくれたよ」
『ほう、紅葉か…四季を楽しむのはいいことだ、散歩がてら行ってみるか』
「うん」
人が少ない時間帯が良いと、出発は夜になった。上着を羽織り、バイクで目的地の公園へと向かう。そこには真っ赤に染まった楓の木々たちがあった。
「少し前までは青々としていたのに、すごいね」
『綺麗に真っ赤になったな、立派なもんだよ』
一際大きな大木の近くには、木霊がこちらを気にかけながらぴょこぴょこと跳ねていた。
「ふふ、木霊も喜んでるのかな?」
暁人が木霊を撫でると、ワサワサと嬉しそうに葉を揺らす。KKが人の形を取り、暁人の横に並んだ。
「KKと紅葉を楽しむだなんて、思いもしなかったよ」
『オレもだよ、野郎と二人でなんてな』
「前はこうして、のんびり自然を眺めることもできなかったからなぁ……」
二人が近くのベンチに腰掛けると、暁人の膝に木霊がちょこんと座る。すっかり暁人に懐いてしまったようだ。
『オマエ、本当に妖怪に好かれやすいな』
「それって、いいことなの?」
『どっちの意味もあるな、だから気をつけろよ』
そういえば、と暁人が何かを思い出して微笑む。
「ほら、桜の木を浄化した時にKKが言ってただろ?赤くなるのは女の頬だけでいい、だっけ?それなら、紅葉も悪くないよね」
『…ああ、そうだな』
暁人、と不意に名前を呼ばれて振り向くと、唇にふわりと触れる感触が伝わる。
『幽霊でもできるもんだな』とKKがニヤリと微笑むと、暁人がじんわりと頬を赤くした。
『赤くなるのはオマエの頬だけでいい、ってやつだな』
KKが暁人の頬を撫で上げる。直接触れられずにしても、まるで触れているような感触はしっかりと伝わるのは、なんとも不思議な感覚で。
「そういうキザなところ、幽霊になっても変わらないんだね」
『嫌かよ?』
「ううん、嫌いじゃない」
仕返し、と暁人の方からもKKの頬辺りに口付けを落とす。得意げに微笑む暁人を見てKKはつい無いはずの心臓がキュンとしてしまった。
そんな二人を見てなのか、木霊がポンっと頭に花を咲かせる。可愛らしい花だった。
「あははっ、可愛いね」
木霊が暁人に花を渡し、それを受け取る。可愛い花と綺麗な紅葉を見て暁人があることを思いつく。
「そうだ、この花と紅葉を押し花にして、栞にしたら良さそうだよね」
『押し花だぁ?』
「そう、小さい時に麻里がやってたなぁって」
懐かしむように暁人が花を眺めながら、真っ赤な紅葉の葉を一枚取る。
「知ってる?紅葉にも花言葉があるんだって」
さっきスマホで調べたんだよね、と暁人が呟きながら続ける。
「大切な思い出、なんだって」
『…そりゃあ、良い花言葉だな』
「だろ?一枚の葉にどのくらい込められるかな」
『紅葉は形代じゃないんだから、あんまり詰め込みすぎるなよ?』
「ふふっ、わかってるよ」
赤く色づいた紅葉を眺めながら、この先の相棒との思い出をどうにか残しておけるよう暁人が思案する。
『…難しい顔してんなぁ』
「KKとの思い出を忘れたくないからね、どうしても形にしておきたいんだ」
手にした紅葉の葉をくるくると回し、公園の電灯に透かしてみると葉脈が見えた。
「この葉脈のように、僕とKKの縁が長く続くといいな」
『安心しろよ、オマエが死ぬまで一緒だからよ』
「死んだ後も、だろ?」
紅葉と花をバッグに仕舞い、そろそろ帰ろうかと立ち上がる。KKが人魂に戻り、暁人の身体の中へと入っていくと、木霊がぴょんぴょんと跳ねながら二人を見送ってくれた。
『紅葉狩りってのも、悪くないもんだなぁ』
「うん、風流だね」
夜更けの肌寒さと鮮やかな紅葉で、秋の訪れを感じた二人なのであった。