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    かとうあんこ

    赤安だいすき

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    かとうあんこ

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    ★男子高校生な赤安にイチャイチャしてほしくて時系列(主に赤井の年齢)を操作してます
    ★👻でます
    ★いろんな赤安を楽しめる方向け!

    ##赤安
    ##降谷くんと赤井先輩

    うちのクラスの降谷は赤井先輩と同棲してるらしい⑥銭湯の怪「ということがあったんです……僕ってそんなに鈍いんですかね?」
    「……君はその話を俺に聞かせてどうしたいんだ?」
     赤井は紅茶のポットを手に持ったまま僕を見て顔を顰めた。
    「別にどうにかしたいわけじゃ……」
     僕はテーブルの上にフォークを並べながら言い淀んだ。その中央には赤井がバイトの帰りに買ってきてくれたシフォンケーキがホールのまま置かれている。オレンジの皮を使った夏季限定のフレイバーらしい。
    「そんなことを考えているなんて試験前なのに余裕だな?学費免除特待生の降谷零くん」
     赤井はそういうとシフォンケーキを両手で鷲掴みにして半分に割ってしまった。
    「ああ!綺麗に切りましょうよ、そこは!」
    「味は変わらんだろ」
     赤井はそう言うと自分の皿と僕の皿の上に雷に打たれた切り株みたいなシフォンケーキを置いた。
    まあ、赤井の言う通り、今は一学期の期末試験前だからそんなこと考えてる場合じゃないんだけど。
    僕たちが通う男子校は全国有数の進学校で、授業のペースがかなり速い。高校に入学したばかりのころはそのスピードに驚かされた。それに伴ってテストの出題範囲も中学の時とは比べ物にならないくらいに広い。
    しかも、僕の場合は総合順位で五番以内に入らないと学費免除を取り消されてしまう。デッドオアライブの大一番なのだ。
     そんな僕を気遣って赤井は夜食を買ってきてくれたのかもしれない。でも、そういう自分は大丈夫なのだろうか?僕はこの家で赤井が勉強している姿を一度も見たことがなかった。
    「三年生もテストあるんですよね?」
    「あるに決まってるだろう」
    「だって、赤井があんまり余裕な感じだから」
    「まあ、一、二年に比べれば三年のテストは楽なもんだよ。高校で勉強する内容はすべて二年までに終わっているから新しい知識を入れなくていい」
    「つまり、応用問題が出されるってことでしょう?テニス部の先輩たちはかなりげんなりしてるみたいでしたけど」
    「まあ、なんとかなるだろ」
     赤井はそう言うと自分で淹れた紅茶を口に運んだ。
    「それで、君はその後どうしたんだ?」
    「え?」
    「自分で話していたことを忘れたのか?」
     赤井は呆れ顔でマグカップをテーブルに置いた。
    「友人Aが僕のことが好きだったらしいって話のこと?別にどうもしませんよ」
     さっきは興味無さそうな顔をしたくせに。そう思いつつも、僕は赤井が気にしてくれることが嬉しかった。
     この前の放課後、僕は親友のヒロから思いがけない打ち明け話をされた。
     週末にやった怪談大会のメンバーのひとりの飯島が僕のことを好きだったらしいのだ。
     飯島は僕のクラスメイトで、学校ではオカルト研究会に所属するほどの怪談好きだ。彼に怪談の話をふったのは僕だった。赤井が心霊絡みのバイトをしていると知った僕は赤井のことをもっと理解したくて、子どもの頃は幽霊を見ることができたという飯島の話を聞いてみたいと思ったからだった。
     まさか、飯島が自分に好意を抱いているなんて微塵も思っていなかった。僕のそういうところが危ういとヒロは言う。そう言われると気になってしまって、試験勉強をしていても頭の片隅にそのことがちらついた。そこで思い切って赤井に相談してみたのだ。
    「学校では今まで通りに接してるし、向こうも接してくれてます」
    「それは難儀だな」
    「え?」
    「君は親友からそんなリークを聞かされても相手からの好意を感じていないということだろ?」
    「えっ……そ、そうなのかな」
    「さあな」
     赤井は投げやりにそう言ってシフォンケーキにフォークを刺した。そこは手掴みじゃなくてフォークなんだ?
    「そういう赤井はどうなんですか?」
    「ん?」
    「人からの好意に鈍そうに見えますけど。僕のこと言えるんですか?」
     僕も赤井に倣ってシフォンケーキにフォークを突き立てた。オレンジが金木犀のように小さく彩りを添えている。口に含めば想像以上のおいしさに思わず頬がゆるんだ。
    「俺は面倒なことになる前に相手と距離を取るようにしてる」
    「……え」
     それって、自分を好きなそぶりを見せた相手からは距離を取るって意味だよな?
    「自分が相手の想いに応えられないとわかっているならの話だよ。君は少なくともそのAくんを友人だと思っているんだろ?」
    「はい……」
     じゃあ、もし僕が赤井を好きになったら……僕はここを出て行かなくちゃいけないのか?
    「それなら友人としての距離を保てばいい。俺ならそうするよ」
     赤井の言葉に頭と胸が冷えていくのを感じた。だというのに赤井は僕に顔を近づけると、口の端にキスをした。
    「ちょ、ちょっとっ」
    「ケーキが付いてた」
    「え、どこ?」
    「大丈夫。もう取れたよ」
     そう言われたけれど僕はキスの残滓を拭うように手でごしごしと口の端を擦った。こんな風に夜食をプレゼントされたり、不意打ちでキスをされたりするのに、好きになってはいけないなんて試験で上位になるより難しくないか?
    「どうした?」
    「いえ……無償に勉強がしたくなったので部屋に戻ります。残りは部屋で食べますね、御馳走さま……」
    「あ、ああ……」


     それからの試験期間、僕は北海道の牧場のような広さのテスト範囲に意識を集中させた。赤井はこれまで通りキスしてきたけど、ハロに顔を舐められるのと同じことだと自分に言い聞かせた。
     心を平らに、波風を立たせず、今はただ勉強に集中するんだ。それが学生の本分だろ、降谷零!男の先輩にキスされて毎日毎日ドキドキしてるようなお前ではなかったはずだ!
     僕は元々そういう話にあまり興味がなかった。中学の時も誰かと誰かが付き合ったと聞いても「へえ」としか思わなかったし、女の子から告白されてもどうやったら相手を泣かさずに断れるかばかりを考えていた。
     勉強とテニス、ヒロと遊ぶことが頭の九割をしめていたというのに、赤井の家に引っ越してからと言うもの、恋や幽霊のことが頭に過ぎるようになってしまった。思春期になるとどうしても勉強に集中できないときがあると保健体育の時間に習ったが、僕にとっては今がその時なのだろうか。
    「あ~~~~疲れた~~~~」
     そう言って机の上に伸びたのは同じテニス部でクラスメイトの田中だった。
    「やっと終わった……勉強から解放される~~~~」
    「明後日から夏期講習だけどな」
     僕がそういうと田中は「言うなっ」と言って机に顔を伏せてしまった。
    「今ぐらいは開放感に浸らせてやれよ、ゼロ」
    「……あ、ごめん」
     ついムキになっていたことに気が付いて、僕は自分の机の上に転がっている鉛筆を筆箱の中に仕舞った。そこには赤井とデートで行った献血ルームでもらったボールペンが入っている。楽しかったな。つい一週間前のことなのに、凄く遠い日の出来事に感じてしまうのはなぜだろう。
    「今回はやけに気合が入っていたな、降谷」
    そう言って僕の机の隣に立ったのは飯島だった。
    「そうか?……まあ、学校にいられなくなるからな」
     友人たちがしんと静かになる。あ、まずい、みんな触れないでいてくれることを自分で……。
    「えっと、もしそうなったら、プロテニスプレイヤーにでもなろうかな?」
    「はは、ゼロが言うと本当になれそうだよ」
    「俺たちをウィンブルドンに招待してくれよ〜!」
    「あぁ、もちろん」
    「ウィンブルドンもいいけど、せっかくの夏休みなんだから泊まりがけで遊びに行かないか?」
    飯島はそう言うと僕たちに温泉宿の写真を見せた。檜の湯船から湯気が上っていたり、バイキングにメロンが山積みになっていたりと、旅行経験があまりなくても高級旅館だとわかる写真ばかりだ。
    「いやいや、無理だって。俺たち高校生だぞ?」
    そう言いつつも田中は飯島のスマホに目が釘付けになっている。
    「それが、タダで泊まれるんだな~~」
    「「「えっ?」」」
    僕たち三人が見上げると飯島はにやりと笑った。
    「俺の姉貴がここの旅館の次男と結婚するんだよ。それで向こうの両親が俺に『友だちと遊びにおいで』って言ってくれたんだ」
    「マジかよ、すげぇじゃん!」
    「本当にいいのか?」
    「あぁ。交通費だけ各自用意しておくように!」
    夏休みゼロ日目にして特別すぎる予定ができた僕たちは、頭を突き合わせるようにして旅行の日付を決めた。大人なしの旅行なんて初めてだ。僕がそう言うと田中が「俺もだよ」と言った。それが僕は密かに嬉しかった。
    早くも夏休みに浮かれていた僕と田中だが、試験明けのテニス部の練習はいつもよりハードだった。試験期間に体を動かせなかったせいもあるけど、湿気と気温が高いのが一番の理由だろう。練習が終わった後にシャワーを浴びたものの、赤井の家に帰り着く頃には夏服のポロシャツが肌にくっついて気持ち悪かった。
    「ただいま……」
    「おかえり」
    僕が玄関を開けると、赤井が珍しくキッチンに立っていた。
    「今日は早いんですね」
    「あぁ。今朝そう伝えたはずだが?」
    そう言えば、僕の顔にキスしていた時に赤井がそんなことを言っていたような気がする。
    「すみません、試験のことばかり考えてたので」
    「随分と根を詰めていたようだな」
    「ええ、まあ……」
    赤井のことを考えないためにがむしゃらに勉強していたとは言えない。それなのに、赤井の顔を見るとホッとしてしまって、僕はダイニングの椅子に腰を下ろした。
    赤井はそんな僕にアイスティを出してくれた。学校に行く前にアクリルポットにティーバッグを入れて水出ししておいたものだそうだ。さわやかな香りとほのかな渋みが心地いい。気が付けば一気に飲み干していた。
    「かなり疲れているようだな」
    「ええ……お風呂もらっていいですか?もう汗ベトベトで……」
    「君、大きな湯船は好きか?」
    「え?」
    赤井からの唐突な問いかけに、僕の頭には昼間見た旅館の温泉の写真が浮かんだ。並々とお湯の張られた大きな湯船に浸かれたらどれだけ癒されることだろう。
    「大好きですけど……?」
    「そうか。では夜のデートに行こう」
    「えっ?」
    「行き先は銭湯だ」

    赤井の家から十分ほど歩いたところに銭湯があることは知ってはいた。ジョギングをしているときに見かけただけで、実際にその暖簾を潜ったことはなかった。
    「赤井が銭湯に誘ってくれるなんて意外です」
    僕は着替えとタオルが入ったバッグを手に、横を歩く赤井を見た。
    今日は月も星も見えない。ここ数日、そんな夜が続いてる。テスト期間中は雨の日が多く、やっと止んだと思ったけれど、まだ空気はじっとりとしていて夏というよりも梅雨の匂いがする。
    そんな天気のせいか、赤井の髪はいつもより癖が強いように見えた。
    「俺もまさか自分が公衆浴場にいくことになるとは思わなかったよ」
    「えっ」
    それってもしかして、疲れている僕のために銭湯に誘ってくれたのかな?なんて風に考えられるぐらい恋愛脳だったら逆に幸せだったのかもしれない。
    「もしかして、これもバイト……?」
    「正解」
    「ええ~~……」
    赤井がバイトということは、銭湯に幽霊が出ることを意味する。せっかく疲れを取りにきたのに。がっくりと肩を落とすと、赤井が僕の肩をポンと叩いた。
    「大丈夫。何があっても君のことは守る」
    「はぁ……」
    それなら、そもそも僕を誘わなくても良かったんじゃないか?と思ったけれど、銭湯の暖簾を潜ったところでその理由はすぐにわかった。
    「降谷くん、ここで料金を払うのか?」
    「靴はどうしたらいい?」
    「ホォ、このロッカーに荷物を入れるのか」
    赤井が僕を誘ったのは利用方法がわからないという単純な理由だった。イギリス育ちらしいから無理もない。
    でも、それなら夜のデートなんて思わせぶりなことをいうなよな。
    「本当にここで裸になって風呂に入るのか?」
    「そうじゃなきゃ体が洗えないでしょ。ほら行きますよ」
    僕は赤井の手首を掴んで浴室に向かった。赤井は腰にタオルを巻いている。きっと周りを見て真似たのだろう。
    幽霊が出る銭湯なんて言うからもっと寂れた様子を想像していたが、古さは感じるものの、しっかり清掃が行き届いていて、僕たちの他に十人弱の利用客がいた。筋肉質なお兄さんたちが多いのは近くにボクシングジムがあるからだろう。
    「まずはここに座って体を洗います。あ、座ったまま体洗えますか?難しいなら僕が洗ってあげますよ?」
    「結構だ」
    赤井はそう言うとシャワーのコックを捻った。僕もシャワーを出すと、その音に紛れるように小さな声で赤井に尋ねた。
    「本当にここにいるんですか?」
    「あぁ。間違いない。どうやらこの場所からやつは動けないようだ」
    「え?」
    「本来ならここは女湯なんだ。女湯に被害が出ると言うから、一日だけ逆にしてくれるように頼んだんだ。しかし、やつは移動せずにここに留まっている」
     女湯で幽霊を目撃した女性によると、湯船の中で何かが体に触れたような気がしたらしい。それを聞いた僕はとっさに僕をストーカーしていた幽霊のことを思い出した。幽霊に触られた場所だけが冷たくなるあの感触は今思い出しても鳥肌が立ちそうになる。僕はシャワーの温度を上げてから体に付いた泡を流した。
    「絶対にやっつけてくださいね」
    「ああ、もちろん。湯船のほうから気配がする。行ってみよう」
     赤井は腰にタオルを巻きなおして立ち上がった。しかしタオルが濡れたことで体に張り付き、赤井の赤井の形が露骨に分かるようになってしまっている。え、デカくないか?
    赤井の横を通った客がそれとなく赤井の方を見ている気がした。僕は慌てて赤井を湯船へと連れて行った。
    「湯船にいるんですよね?」
    「恐らく。しかし気配が特殊で場所までは特定できない」
    「そうですか……とりあえず、赤井は温度の低い浴槽から調べてください。僕は高いほうの浴槽を調べてみます。……といっても、僕にできることがあるかわかりませんけど」
    「君はもう奴らが存在することを知っている。前よりは見えやすくなったはずだ。助かるよ。のぼせる前に見つけたいんでね」
     赤井はそういうと二つある浴槽の向かって左側に足を浸した。僕はその隣の浴槽に入る。幽霊探しをしている状況でも、久しぶりの大浴場は声が出そうになるくらい気持ちが良かった。
     僕はとりあえず左の端のほうから確かめていることにした。角に座ってみたものの、特に変わったところはない。隣の浴槽にいる赤井も視線を水中に目を向けてはいるが、まだ実態はつかめていないようだ。
     僕はそのまま湯船に波を立てないよう静かに右奥へと移動した。ここも変わった様子はない。赤井はああ言っていたけど、僕なんかに本当に幽霊が見つけられるのだろうか。
     そう思っていたところに、数人のお客さんが湯船に入ってきた。あまりウロウロしても迷惑になるだろうと思い、僕はその場所に一旦留まることにした。
    「あ~~生き返る~~~」
    「本当だな。練習の後の銭湯は最高だ」
    「そういえば、来週のプロテストさあ……」
     入ってきた客はボクシングジムの帰りのようで三人とも体格がいい。それに比べてぼくは、結構ハードにテニスをしているというのに、胸板は薄っぺらだし、腕も彼らの半分ぐらいしかない。競技の差なのか、それとも体質の差なのか……。
     そんなことを考えながら自分の体に目を落としていると、何かが僕の腕をさっと撫でた気がした。
     はっとして顔を上げるが、他の客は僕から離れていて浴槽の中で体がぶつかるとは考えられなかった。
     もしかして、これが……噂の幽霊なのか?
     僕は赤井の方に視線を向けたが、赤井は赤井で利用客に囲まれて、僕に背中を向けていた。
     どうしたものかと悩んでいると、今度は僕のむき出しの尻を、さっきよりも長い時間をかけて何かが撫でていった。ストーカー幽霊に触られたときのような冷たさはないものの、お湯よりもぬるい温度で人肌に似ているのが気持ち悪い。
     それから少しの間を置いて何かが僕の胸を撫でた。人の手で触られているというよりも巨大なタコの足が絡みついてきたかのようにねっとりとした感触だ。正体を見てやろうと水中に目を凝らしたが、自分の体と浴槽のタイル以外は何も見えなかった。
    しかし、何かが僕に纏わりついているのは間違いない。僕以外の客たちは異変を感じている様子はなく、お喋りに夢中になっている。僕だけが狙われているということは未成年をターゲットにしているのだろうか。そうだとしたらますます許せない。
    赤井のように祓うことはできないとわかっているが、せめて自分に注意を向けさせて引き留めておくことはできるかもしれない。
    僕は赤井がこちらを振り返るように念を込めて視線を送った。そうして水面から目を離した瞬間、長くねっとりした何かが僕のお尻の間を這った。
     そんな、嫌だ、怖い、気持ち悪い、赤井、助けて……!
    「俺、そろそろ出るわ」
    「ああ、俺も」
    「俺も出ようかな」
     同じ浴槽に入っていた客が立ち上がり、その水音を聞いた赤井が後ろを振り返った。赤井と目が合った瞬間、僕は目に涙が滲んでしまった。
     それぐらい幽霊は気持ち悪かったし、赤井の緑の瞳は僕を安堵させてくれた。
    「あかいぃ……」
    「どうした、降谷くん」
     赤井は水しぶきが立つ勢いで僕のほうの浴槽に入ると駆け寄って来てくれた。
    「な、なにかが僕の体を触ってる……気持ち悪い……」
    「どうしてすぐに声を上げなかったんだ!」
     赤井の手に乱暴に引き上げられ、僕は浴槽の淵にへたり込んだ。
    「貴様が犯人か……」
     赤井が水中に手をかざすと、水の中で何かが暴れたけれどすぐに収まった。一瞬の出来事で僕らの他の客は誰も気が付いていないようだった。
    「もう大丈夫だ……立てるか?」
    「うん……」
     僕は赤井に手を引かれて立ち上がった。そんな僕を見たお爺さんが「湯あたりしたか?」と声を掛けてくれたので僕は曖昧にうなずいた。
    「出る前にシャワー浴びたい……」
    「ああ、わかった……」
     僕がラカンの前の椅子に腰を下ろすと、赤井がシャワーを掛けてくれた。嫌な汗が流れていく。でも体は確実にあの感触を記憶してしまっていて、脱衣所で体を拭いて服を着ても消えることはなかった。
     銭湯を出ると雲は晴れて細い月が暗い夜空に浮かんでいた。空気は相変わらずじめっとしていて風はない。僕は赤井の後ろ、少し離れたところを歩いた。
     赤井は怒っているのだろうか。僕がまた幽霊に悪戯されて抵抗できなかったことを。それどころか声さえ上げられなかったことを。あの緑の瞳に映るのが怖いと僕は初めて思った。
    「大丈夫か?」
    「……えっ、ああ、全然大丈夫ですよ?夜風にあたったらすっきりしました」
     風なんて吹いてないじゃないか、とは赤井は言わなかった。黙って僕の腕に手を伸ばす。僕はその手にびくりと反応して、赤井は僕に触れるのを止めた。
    「あ、すみません……」
    「いや……悪かった」
    「いえ、ありがとうございます……助けてくれて」
     約束を守ってくれたと笑って見せても、赤井は顔を顰めたままで、僕は自分が上手く笑えてないことを知った。
    「君を連れていくという判断がそもそも間違っていた。もう二度と君を巻き込むことはしない」
    「いや、いやです、そんなこと言わないで!」
     僕が駆け寄ると、赤井が目を見開いた。
    「僕は大丈夫だから置いてかないでっ」
    「降谷くん……?」
    「あ……いえ、その……赤井がバイトしてるとこ見るの好きっていうか……か、カッコいいなって思ってるから、また連れて行ってくれたら嬉しいです……」
    「こんな目に遭ったのに?」
     赤井はそう言うと僕のことを両腕で包んだ。肌に残る幽霊の感触がリアルになりそうで体が少し震えたけど、赤井の腕は幽霊と違ってはっきりと質量を持って、僕と同じ柔軟剤の匂いがした。
    「幽霊に体を触られるのは嫌だけど……」
    「もう二度と触らせない」
     赤井はそう言うと僕の額に触れるだけのキスをした。通行人が誰もいないとはいえ、こんな風に遮蔽物のないところでキスをするのは初めてだ。
    「慣れない相手で手こずったが奴らの気配はもうわかった。あいつらが君に触れることは金輪際ない」
    「……じゃあ、また連れて行ってくれる?」
    「予定が合ったらな」
     赤井は肯定も否定もしなかった。果たせるかわからない約束をしないのは彼なりの優しさなのだろう。
     僕らは家に向かって再び歩き出した。今度は横に並んで、手と手が触れそうで触れない距離を保ちながら。
    「そういえば、慣れない相手って?幽霊じゃなかったんですか?」
    「あれはこの国では妖怪と呼ばれる部類だろう。俺はそういう存在に明るくないから確かなことは言えないが、元が人間ではないのは確かだ。舌が三十センチはあったからな」
    「えっ……も、もしかして、僕は妖怪に体を舐められてたの!?」
    「そうだ」
     嘘だと言って欲しかった……。僕は全身に鳥肌が立つのを感じて両手で両腕を擦った。
    「容姿は異様だが悪さをするものではない。あの銭湯に長く居着いていたせいで、客に存在を感じられるほど肥大してしまったんだろう」
    「ま、待ってください!僕がさっきあんな目に遭ったのに悪さはしないですって!?」
    「不気味な見た目ではあったが禍々しさはなかった。執拗に纏わりついたのは君だったからだろう」
    「そんな……僕、何もしてませんよ?」
    「君は美味しそうだから何もしなくても寄ってくるさ」
    「は……?」
    「エネルギーに溢れているのに無垢で清純。南国の花に蝶が寄ってくるのと同じ理屈だよ」
    「全然わからない……けど、もしかして赤井が僕にキスしてくるのも、同じ理由なんですか?」
    「……さあな」
    赤井は僕をはぐらかして先に歩き出した。腑に落ちないものを感じつつも、僕以外の誰もあんな思いをしていなくてよかったとも思う。僕には赤井がいたから原因がわかったけど、わからないままだったら大浴場恐怖症になっていたかもしれない。
    「はぁ……あの感触、当分忘れられなさそう」
    「すぐに忘れさせてやろうか?」
    「そんなの無理ですよ」
    赤井にはわからないんだ。お尻のあいだまで妖怪に舐められた感触なんて。僕がそういう時赤井がゆっくりと僕を振り返った。
    「なに……?」
    その顔は毎日彼の顔を見ている僕でも「ひえ」と言ってしまうぐらい人相が悪かった。
    「帰ったら俺の部屋に来なさい」
    「え、いいの?」
    ちょうど寝つけなさそうだと思っていたと言うと、赤井は寝かさないから安心しろと言った。
    夜通しおしゃべりでもしてくれのだろうか。
    友人たちとのお泊まり会思い浮かべていた僕を、赤井は部屋に着くなりベッドの上に押し倒した。
    「な、なにするんです!?」
    「忘れさせてやると言っただろう……どこを舐められたか言いなさい、全部」
    「えっ、うそ、そんな、ちょ、ちょっと……!」
    それから赤井は僕が白状するまで全身にキスしまくった。なんとかお尻は死守したものの、腕や乳首、妖怪に舐められてない首筋や臍までキスされた。もはやキスじゃない愛撫だ。
    そんなことされたらのアソコはどうしても反応してしまうわけで……。
    「赤井、ダメ、本当にダメだから!!」
    僕はハーフパンツの前のところを押さえた。
    「どうした?」
    「た、勃っちゃうから……それ以上は無理」
    当然の生理現象なのに赤井は何故かポカンとした顔をした。
    「同じ男ならわかるでしょ……」
    「君……勃起するのか」
    「はあ!?するに決まってるでしょ!僕、男子高校生ですよ!?」
    「驚いた。君は天使みたいだからそういう現象とは結び付かなかった」
    「馬鹿にして……!」
    「そうじゃない、悪かったよ」
    赤井はそう言うと僕を後ろから抱きしめた。
    「もう何もしないから今夜は一緒に寝よう」
    「……仕方ないですね。赤井がそうしたいならいいですけど……?」
    僕は赤井に抱きしめられたままベッドに横になった。テスト明けと部活、そしておかしな妖怪に遭遇して疲れていた僕の瞼はあっという間に重たくなっていった。
    その夜、僕はエッチな夢を見た。赤井が僕のお尻を舐める夢だ。どうしてそんなところを舐めるのかと聞くと赤井は「食べてしまいたいぐらい君が好きだからだ」と言った。夢の中の赤井は今よりずっと大人で、なぜか黒いニット帽を被っていた。
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    かとうあんこ

    DOODLE一度別れた赤安がバディを組んで幽霊退治(?)をする話、第三話。
    「その日のことはよく覚えてます。パパと姉貴とわたしの三人でママの誕生日プレゼントを買うために出掛けていたんです。姉貴は小学生、私は保育園に通っている頃で、パパが贔屓にしているアンティークショップに……え?名前?なんだったかなあ。随分前に倒産しちゃったから、もうありませんよ。……いえ、ママはドールハウスには全然興味なくて。アンティークショップのガラスの戸棚に飾られていたワイングラスをプレゼントすることにしたんです。それをお店のひとがラッピングしている間に、オーナーさんが『お嬢様たちにこちらはいかがですか?』と言って見せてくれたのが、そのドールハウスでした。本物の西洋のお屋敷を小さくしたみたいですごく素敵だったから、私も姉貴もすぐに気に入りました。ふたりでパパにおねだりして、買ってもらえることになったんですけど……パパがお会計している間、奥さんが、あ、オーナーの奥さんです、がこんなことを言ってたんです。『このドールハウスに人形は絶対に入れないで』って。私たちは不思議に思いましたが、奥さんがあまりに真剣な表情だったから「うん」と答えました。でも家に帰ってドールハウスを広げて、別に梱包してもらった家具を並べているうちに……人形を入れて遊びたくなったんです。ほら、子どもってダメって言われるとやりたくなるところあるじゃないですか。それに……人形がないほうが変な感じがしたんです。とても精巧にできていたから……ううん、そうじゃないな……人がいる気配がするのに誰もいない……そんな感じでした。でも、うちにあるのは着せ替え人形ばかりで、そのドールハウスのサイズにちょうどいい人形がなかったんです。そしたら姉貴が「紙のお人形を作ってドールハウスに入れよう」と言ったんです。「紙の人形なら約束を破ったことにはならないだろうから」って。私はすぐに部屋にあった画用紙に黒いマジックで女の子の絵を描いてソファに座らせました。その隣に姉貴が書いた猫の絵を置いたところで夕飯の時間になって、私たちはドールハウスをそのままにして部屋を出たんです。……あはは、大丈夫よ、真さん。子どもの頃の話だから。それに、もし何かあっても真さんが守ってくれるでしょう?……はい。そうなんです。夕飯を終えてドールハウスがある部屋に戻ってきたら、紙の人形が切られていたんです。バラバラに……。「やっぱり人形を入れたのがいけなかったのかし
    9903

    かとうあんこ

    DONE一度別れた赤安がバディを組んで幽霊退治(?)をする第二話
    烏丸怪談②友人の話「え?僕には怪談はないのかって?う~ん、そうだなあ……僕の友人の話でもよければ。はは、そういうことが多いね。まあ、どちらでもいいじゃないか。これは友人が保育園に通っていた頃の話だ。彼はいつもお迎えが一番最後でね。母親の仕事が忙しかったんだ。彼は保育園では周りの子どもたちとうまくいってなかったから、園児が少なくない遅い時間のほうが遊びやすかった。だから、母親の迎えが遅くても気にならなかった。嬉々として居残っている彼を見て羨ましかったのか、園児のひとりが意地悪を言ったんだ。『あいつはいらない子だからお迎えが遅いんだ』って。気丈な友人もこれにはショックを受けた。いつもは独り占めできて嬉しい積み木も全然楽しくない。今すぐに母親に抱っこしてほしかった……。そんなことを考えてると、友人の前に見知らぬ男の子が現れた。『キミ、いらない子なの?』友人は当然ムッとして無視をした。ちょっとだけ泣いてたかもしれない。その寂しさを見抜いたように男の子は『じゃあ、一緒に遊ぼうよ』と言った。友人は少し悩んでから『ウン』と言った。それから二時間、彼は行方不明になった。保育園の先生はもちろん彼を探したし、お迎えに来た母親も一緒に探した。家に帰ったんじゃないか、散歩で行った公園にいるんじゃないか。いろんな場所を探したが、見つからない。いよいよ警察に連絡しようとなった時、子ども用トイレから友人が現れた。『やっと帰ってこれた』と言いながらね。二時間だけの神隠しだ。……どう?名探偵の君には物足りなかったかな」
    8690

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