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    ms_teftef

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    n年後の(ミチ→ファからの)ミチリケ
    愛憎もいる

    ※前の話を読んでいた方がいいかも

    赦し リケのもとを訪れるものは多く存在する。それは、主には勤めている学校の生徒だったり、賢者の魔法使いとしてかつて寝食を共にしていた魔法使いの仲間たちだったり、リケに話を聞いてもらい、祈りを捧げてもらいたい人たちであたりした。奉仕活動の一環として、リケは心迷う人たちが健やかになれるように、定期的に街で人の話を聞いて迷える人々に導を示している。
     仕事のない日もきっちりと早起きをしたリケは、燦燦と日の差し込む部屋の中で日課の朝の祈りを捧げていた。
     こんこん、と誰かがリケの部屋を叩く音がした。ドアを叩く音にしては軽すぎる。けれど無音のリケの部屋に、誰かが来訪した音が確かに聞こえた。
     リケはぱちっと目を開いて、どこから音がするのかしらんと首をぐるりと回した。部屋に小さく設けられている窓から、虹色のカラフルでどこかとぼけた表情のまるで子どもが絵に描いたような小鳥が覗いている。こんこんともう一度嘴が窓を叩いた。
    「まあ。小鳥さん、こんにちは」
     リケが慌てて窓を開けて手を差し伸べると、小鳥はバサバサとリケの手の中に収まり、一、二度掌に頬を擦り寄せたかと思うと、ポンと小気味よい音を立てて手紙に姿を変えた。
    「あら。ルチルからの手紙ですね。どうしたんでしょう」
     リケは日頃からよく手紙を書いている。例えばネロのご飯が食べたくなれば、食べに行きたいとネロに必ず手紙を出し、今では忙しくて以前ほど気軽に会えないアーサーへは、この頃どう過ごしているかを伺いながら、近頃あった学校での自分の活躍話を、周りがリケに何となく隠してい
    るような大人の話をしたいときは、シャイロックにも手紙を出した。もちろん、リケが自ら選んだ職業のお手本とするところのルチルには、意地悪な生徒への接し方や、勉強が苦手な子へのアプローチの仕方、生徒と喧嘩になってしまった時の反省など、事あるごとに手紙を出して相談に乗ってもらっていた。ただ、このところは平穏が続き、ルチルに手紙を送った記憶はなかった。
     中央の市場で買って使い込んでいる短剣の形をしたペーパーナイフで封を開けると、その手紙には、ルチルらしい丁寧でお手本のような文字で、ルチルの悩みが綴られていた。
    ――最近リケは元気にしていますか?私は元気です。この間リケにお話したマックスも今ではもうすっかりお兄ちゃんの顔になりました。この頃リケはミチルとお話していますか?ミチルはあんまり元気がないみたいに見えます。気になってはいるんですが、私にはなかなか話をしてくれません。あんまり言いたくないようです。でも仲良しのリケになら話をしてくれるかもと思い、この手紙を書きました。もし近々ミチルがそっちに行ったら、どうか話を聞いてあげて、力になってくれると嬉しいな。またそちらにも遊びに行きますね。ルチルより。
     リケには手紙の内容に心当たりがった。机に向かうと、さっそくルチルに手紙を書き始めた。
    ――ルチル、心配には及びません。僕がしっかり話を聞いて、ミチルを正しく導きますので、安心して僕にミチルを任せてくださいね。ルチルの心が安らかでありますように。あなたが遊びにきてくれると、本当に嬉しいです。またこちらの学校を見て行ってくださいね。楽しみにしています。リケより。
    『サンレティア・エディフ』
     ふぅと紙に息を吹き込むと、手紙はころんと明るい黄色の小鳥になった。
    「さあ、ルチルのところへ」
     鳥は空の高いところまで上がると、ピィと元気な返事をして飛び立っていった。
     返事の内容が少し白々しいかもしれないとリケは思ったが、そのままで出した。真剣に弟を思う兄の優しい心にすべてを話してあげられないことに申し訳なさを覚え、心の中で真剣に謝罪した。神に誓ってルチルへの返事に一切の嘘の気持ちはない。けれど、ひょっとするとルチルはミチルの元気がない原因についてどこか勘づいているのかもしれないと思った。
     そばにいる人にほど話しづらいことがある。リケも今では心当たりがあった。
     リケは、周りが思うほどもう幼くない。一番にリケを大人として扱ったのは、シャイロックだった。ネロに言えないことを、シャイロックに相談する。そういう大人になった。相談するのであれば、適材適所、役立てる場面が人によって異なるというだけのことだと、リケは考えている。リケの質問にうろたえるネロを前にしてリケは学んだ。
     どんなに一番の友達と言ってもミチルが何もかもを話してくれているわけではないことに、リケも気付いていないわけではない。ミチルには後ろめたい感情があることに気付いて、後ろめたく思うミチルに気付いたリケは寛大な心で許そうとする。許せない気持ちもある。
    「いいですか、リケ。人を思う綺麗な感情も、人を思うばかりに綺麗でなくなってしまう感情も、悪いことではありません。大事なのは、その動かされた心そのものを楽しむこと。楽しんでしまえば、悪い感情に無暗に踊らされることはありません。むしろ自らダンスを申し込みに行くのです」
     ふぅと薄桃色の薔薇と林檎のまじった甘いのにどこか爽やかな煙を吐き出して、シャイロックはカウンターごしにリケに言った。
     ぼんやりとほの白い蛍光灯の明かりのみの店内は人の顔もはっきりとは分からない。リケはこことは似ても似つかない告解室の暗さを思い出した。
     ムルだけは相変わらず猫のように自在に動いて寝転んだりしていて、存在がムルであるとよく分からる。。
     西の国の人たちは一切変わりありませんね、と言ったリケに「変化するほど面白いことっていっぱいあるよ!でもシャイロックには譲れないこともいっぱいある!」
     ムルの下あごを撫でて猫のように黙らせた後、シャイロックは、たまには甘くないものもいいでしょうと、全てを吸い込んでしまいそうなくらい黒くとろりとしたコーヒーのリキュールを使ってリケに振舞った一杯は、後に引くほろ苦さが癖になる大人のための特別な一杯だった。
    「子どものあなたも素敵でしたが、大人になったあなたは更に魅力的になりました。あなたにこんな話をしたことを、ネロが知ったら私は怒られてしまうかもしれませんが、後ろめたい感情も時にはスパイスになるのです。強く心を揺さぶられている人は時に壮絶なまでに美しい。一生懸命な心が醜いわけはありませんからね。歳を重ねるごとにあらゆる人の心を知る。複雑になればなるほど、味わい深くなるのです。寝かせたワインのように。味が分かるようになった時、大人になったと思うのです」
    「でもシャイロックは歳のこと言うと怒るよ」
    「お黙りになって」
    「にゃ~ん。今度は俺の口を塞いでみる?」
    「後でね」
     シャイロックとムルは絵物語の恋人たちのような軽妙さで会話する。後でキスでもするのだろうか。学校の上級生も早い子は、授業が終わった後の夕暮れに紛れて手を繋いで帰る。もしくは、机の影に隠れて幼い愛を育んでいる。
     リケが「好き」の種類が一つではないことを知ったのは、魔法舎にいる時で、ミチルと些細な喧嘩をした。今ではもう覚えていないくらいの怒りの内容だったのだから、本当に大したことなかったのだろう。仲良しのミチルと過ごした出来事を丸ごと覚えていようと思っていても、日々にいろいろなことが起こり、記憶から零れていく。憤懣やるかたなく、シャイロックのバーでノンアルコールのドリンクを飲んでいたその時、同席していたリケが想像もできないくらい長い時間を生きた双子の魔法使いは、結局いずれ全ては一つの「好き」に還るかもしれんとも言っていた。「正解はないがの」という。ミチルが謝りに来て、有耶無耶になってしまった正解のない「好き」の感情について、リケはこの頃よく考える。
     恋人がいるとはどんな気持ちだろう。
     ミチルはファウストが「好き」だと言った。けれどファウストはフィガロが「好き」だ。フィガロもファウストが「好き」で恋人なのだから、ミチルはファウストを「好き」なのはおかしい。ミチルが割り込める要素はない。ミチルがリケを友達として好きだというようにミチルはファウストを友人として好きでなければならないのに、どうして「好き」はままならないのだろう。僕はミチルと一緒なら何でもいいのに。ミチルはそう思っていない。リケは悩ましい溜息をついた。
     愛と好きとは違いますか。どうでしょうね。恋と好きは一緒?近いかもしれませんね。
     恋の話は、専門家へ。西の国に飛んだリケは目の前で繰り広げられるふしだらな情の数々に眉を顰め、真っ当な愛について学ぶべきではと思ったが、煙に巻かれてしまった。誰もが儘ならないもの。儘ならないからいいんですよと店主が指摘する。僕は爛れませんよ、それがあなたの変わらない美しさですとシャイロックは頷いた。
    「だからこそあなたが得られるものがあるでしょう」
     その日、朝日が昇って、リケが迎えを頼む手紙を送ったオズが律儀にちゃんと迎えに来るまで、リケは、ずっと背筋を伸ばしたまま、シャイロックとぽつりぽつりと話をしながら過ごした。
     出掛けるための身支度をしながら、リケは思い返していた。

     ルチルから手紙が届いた日の夕方、リケがミチルと待ち合わせていたのは、街の外れにある教会だった。
     だんだんと夜の時間が近づいてくる。弱くなった赤い日差しがステンドグラスから落ちてくる。まだ蝋燭を付けるには早い。
     リケはファウストに似ているようで似ていない聖像に祈りを捧げながら待っていた。コツ、と靴音が鳴った。慎重に足を踏み入れたはずが、想像以上に音は反響した。けれどリケの祈りが終わるまで、音の主は声をかけなかった。
    「どうしましたか、ミチル」
     目を開けてリケは勢いよく振り返った。
    「えっと……」
     胸の前で、手を合わせてどう話を切り出したらいいのか分からずに手遊びをするようにもじもじするミチルの仕草は、いつまでも変わらない。リケの頬は自然と緩んだ。
    「はい、僕には何でも話してください。僕はミチルの友達ですよ」
    「ボク、ボクには、やっぱりリケしかいません」
     ミチルが情けない声を出しながら、数歩進んでリケをぎゅうと抱きしめた。
    「まったくもう。仕方のないミチル」
     リケの頬に当たるミチルの甘栗色の髪の毛は、見た目よりも硬質でちくちくした。すん、と鼻を鳴らすミチルは最近ではあまり見ない顔をしていた。
    「ミチルは僕にどうしてほしいですか」
     ミチルの耳元でリケは囁いた。
    「叶えてあげましょう」
     両手で触れたミチルの頬は、子どものころと変わらず温かいままだった。
     泣きそうな顔をしていて、それでも頬は乾いたままだ。少しだけかさついている。
    「赦してください、リケ」
    「何を?」
    「ボクのしたこと、全て」
     リケは何も言わずにミチルをじっと見た。
    「リケ」
     焦れるようにミチルはリケの名前を呼んだ。リケはこくりと頷いた。
    「いいですよ、赦してあげる」
    「嬉しいです」
     ごく自然な動作で、ミチルの顔が傾き、目を閉じながらリケに近づいてくるのを、リケはじっと二つの眼で見つめていた。
     リケの初めての口付けは、ほんの一瞬だった。柔らかかったのかどうかも分からないうちに、すぐに離れた。
     上唇の先だけが錯覚のように触れていると感じる距離で、ミチルは掠れた声で小さく甘えるようにリケに聞いた。
    「ダメですか?」
     リケは答えない代わりに、目を閉じて軽く背伸びをすると、下唇もミチルにぴったりと合わせた。
     二、三度啄むように、ちょんちょんと遊ぶようにミチルの唇がリケに触れると、リケは小鳥が親鳥から餌をもらうのために口を開けるように、自然と小さく口を開けた。今度こそ、ぱくりとミチルの大きな唇がリケの唇を食んだ。
     物言わない聖像も日が落ちた教会の中では、見えなくなっていた。二人分の吐息だけが聞こえてる。昨晩リケが眠りにつく前に、歪な茶色の小鳥の使いを寄越したミチルに、場所を指定たのはリケだ。ここがどんな場所なのか、リケが教えていないミチルは知らない。
     生暖かい湿ったものが口内に入り込んできたリケは、何も知らない振りをした。ミチルが殊更リケに隠したがることを、もうとうにリケは知っている。人の営みを見守るのであれば、人の営みを知らなくてはならない。
     ようやく実感を伴ったリケの心は満ちていた。
    「気付いたんです。ボクは、リケと一緒じゃなくちゃダメなんだって」
    「ええ、ええ。あなたは赦されました」
    「ミチルは結局僕のところへ戻ってくると信じていました」
     リケは満足そうに言った。ほら御覧なさいとミチルの背中をあやすように優しく叩いた。
     ルチルへの手紙に、ミチルはもう大丈夫です、近いうちにミチルと二人で遊びに行きますと書かなくては、とリケは考えながら、ミチルと手を繋いで、夜を泳ぐように歩いて行った。
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    Replies from the creator

    ms_teftef

    PROGRESSn年後のフィガファウ前提ミチファウ
    かなり荒いので、雰囲気で読んでほしい~~
    これは作業進捗なので……
    本にするときは、もっとちゃんと整えて、その他の話ともちゃんと整合性を整えたりします。
    先生 ミチルが大人になってから初めて嵐の谷にやってきたとき、精霊たちの歓迎は散々だった。
     箒に乗って近くまで行くのに、風に乗れず、まるで箒に乗りたてのほやほやの魔法使いみたいに、あちらこちらめちゃくちゃな軌道を描き、箒に乗られているような操縦になった。そこから、谷の入り口で降りると、濃い霧が立ち込めていた。足元はぬかるんだ土と草でぐちゃぐちゃになり、時折木の根に足を取られそうになる。服は目に見えないほどの細かい水の粒が纏わりついて、ぐっしょりと重たくなり、身体が冷えていった。
     風は吹かず、空気が淀んでじっと停滞しているように思えた。教わった通りの道筋を進んでいるのに、先ほどと同じ道に戻ってきているような気がする。もうすぐ大きな瘤のある木が見えるはず。見慣れない細長い草があちらこちら好き放題伸びて、目印を隠蔽している。植物が意志を持って生えるはずもないのに、まるで故意にミチルを迷わせようとしているようだった。
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