Dear Friend 誕生日を祝われるのは少し苦手だ。
みんな心から祝ってくれているんだろうなとは思うし、それはありがたいことだとも思う。
だけど、見返りを求められているのではないかと思ってしまう自分がいるのも確かで。それを何とか誤魔化すのがここ数年の5月7日だった。
「甲洋、明日の朝うちまで来てくれないか?」
いつもの帰り道。別れ際に一騎にそんなことを言われた。
「珍しいな。どうした?」
「ん……ちょっと」
もごもごと口ごもる一騎を見て思わず笑ってしまう。言いたいことをうまく言葉に出来なくてまごついている様子は正直微笑ましい。それに、そうやって一生懸命何かを伝えようとしてくれることが嬉しかった。
「わかったよ。また明日な」
頭をぽんと撫でる。一瞬目を見開いた一騎は、安心したようにふにゃりと笑った。
翌日。言われた通り真壁家に来たら、すでに玄関の外で一騎が待っていた。
「おはよう、一騎」
「……おはよ」
「で、どうしたんだ?」
早速問い掛けると、一騎は少しだけ目線をさ迷わせた後、そっと包みを差し出してきた。
「……これは?」
「お弁当」
「弁当? なんで?」
「…誕生日だろ、お前」
思わず言葉を失った。今日が誕生日だということを忘れていた訳じゃない。むしろ今日という一日をどうやり過ごすか考えながらここまで来た。
意外だったのは一騎の行動だ。こんな風にプレゼントをもらうなんて初めてだし、しかも朝一でわざわざ呼び出すなんて、一騎らしくない。
「……誰かに何か言われたの?」
言ってからしまった、と思った。一騎に限ってそれはない。友人との交流が少ないこともそうだが、誰かに言われたからって積極的に何かをするような奴じゃない。
疑うようなことを言ってしまった。傷付けたかもしれない。顔には出さないようにしながらも内心焦っていたら、一騎がこてんと小首を傾げた。
「お前が言ったんだろ。俺が作ったの食べてみたいって」
「え、」
瞬時に記憶を遡る。そういえば一週間前の帰り道でそんな会話をした。突然一騎に質問をされて──
『俺にしてほしいこと、あるか?』
「……あれって、そういうことだったの……?」
あまりにも分かりにくい。いや、少し考えれば分かったことかもしれない。ただ、一騎から誕生日について聞かれるなんて微塵も思っていなかったせいでその可能性に気付かなかったのだ。
「……迷惑だったか?」
「そ、そんなことない!」
しゅんと俯いてしまった幼馴染みを見て慌てて包みを受けとる。ずっしりとした重みのあるそれは、まだあたたかかった。
「ありがとう、一騎。嬉しい」
素直な気持ちを口にすれば一騎が微笑んだ。それは朝日にも負けないくらい眩しい笑みで、胸の内に溜まっていたもやもやが少しずつ晴れていく。
「俺の分も入ってる。一緒に食べよう」
「わかった」
「……甲洋」
「ん?」
「誕生日、おめでと。これからも、よろしく」
「……俺の方こそ」
これからもずっと。何でもない日も、特別な日も、一緒に。