共眠 最近甲洋に会ってないな、と思った。正確には、顔を合わせてはいるがまともに会話をしていない。
海神島に移ってからのアルヴィスはどの部署も人手不足で、それを少しでも緩和させるためにと甲洋から手伝いを申し出た。それからというもの、甲洋は文字通り休みなく働いている。働いているということは、操と過ごす時間は減るわけで。
「あ!」
閉店後の喫茶楽園。そのカウンター席でオレンジジュースを飲んでいた操は、そこまで考えてはたと思いついた。
甲洋が来ないなら自分が行けばいい。
そうとなれば行動あるのみだ。ジュースを飲み干し、空になったグラスをシンクへと置いて、空間跳躍で甲洋の元へ向かった。
甲洋はアルヴィス内の薄暗い一室にいた。働きはじめてすぐに割り当てられた個室だが、プライベートなものを持ち込んでいないので随分と殺風景な部屋になってしまっている。
今度何か持ってこよう。この前つくったどんぐりのリースとかいいかもしれない。
そんなことを思いながらベッドで横になっている甲洋を覗き込む。甲洋は制服のままだった。いつもちゃんと着替えろって口うるさく言うくせに。
(そんなに疲れてるのかな)
人間は働くと疲れるらしい。甲洋は人間ではないが、それでも疲労を感じないわけではないのだろう。だったら寝かせてあげた方がいいのかもしれない。
(ほんとは話したかったけど…)
少しだけ残念に思いながら改めて甲洋を見て、ふとスカーフが目に止まった。このままではあまりにも寝づらそうだ。
(いつもは甲洋が僕のを取ってくれるんだよね)
立場が逆だと思うとちょっとだけ心が弾んだ。にこにこしながらスカーフに手を伸ばし指先が触れた、刹那。
「!」
バシッと音が鳴る。手首を掴まれたと認識したのは1秒後。反射的に身を引こうとした操だったが、鋭い視線に射抜かれて動きが止まる。
深い眠りに落ちていると思っていた甲洋が薄灰の瞳を剣呑に細めてこちらを見上げていた。が、それは一瞬のことで、すぐに普段の柔らかい光が宿る。
「なんだ、来主か…」
「あ、うん。えっと…」
未だ強い力で掴まれている手首に視線を落とすと、そのままぐいっと引っ張られ甲洋の上に倒れ込んでしまった。
「甲洋?」
「ちょうど湯たんぽがほしいと思ってたんだ」
「寒かったの?」
「そんなところ」
小さく笑った甲洋が身体を動かし、操は向かい合う形でその腕の中にすっぽりと収められた。確かにあったかい。久しぶりのぬくもりにすり寄れば、ぽん、と頭を撫でられた。
「寝るの?」
「ん、あと1時間くらい」
「そっか。……あのね、こうよ、」
言葉を遮るように唇が重ねられる。触れるだけですぐに離れたそれから優しい声がこぼれてきた。
「……明日は休みだから、もう少しだけ待ってて、来主」
ああ、一緒に過ごしたいと思ってたのは自分だけではなかったのか。
胸の奥からあたたかいものが込み上げてくるのを感じる。それが何なのかはまだよくわからないけど。
「うん!」
満足そうに笑った操は甲洋の背中に腕を回し、強く強く抱き締めた。