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    一時的な格納庫

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    びよ前
    はじめての節分に挑む四人の話

    ##雑多

    愉快な鬼退治(甲洋と一騎とこそちゃんと操) 2月1日、夜。喫茶楽園でバレンタインデーに合わせて考案した新作デザートの試食を終え、甲洋はほっと息を吐いた。最近は海神島での営業が軌道に乗って余裕が生まれたので、島民に少しでも平和を提供できるようにと様々な趣向を凝らすことに力を割けるようになった。もちろん、全ては幼馴染みをはじめ人間の営みに興味津々な操の協力があってこそだ。
     その中でも色んな面で頼りになっているのが親友である一騎だった。甲洋が居なかった間溝口と共に喫茶楽園を守ってくれていた彼は、運営面でも料理面でも良き相談相手だ。
     だから、一騎が困っているときは自分に出来る限りのことをしようと心に決めていた。
    「甲洋」
     皿を洗い終えた一騎がカップを差し出してくる。淹れたての珈琲の良い香りを吸い込み、肩の力を抜くようにもう一度息を吐く。
    「ありがとう、一騎。遅くまでごめんな」
    「気にするなって」
     優しく笑った一騎はキッチンから出てきて甲洋の隣に座った。何を言うでもなく、互いの温度を感じるだけの心地良い時間が流れていく。こんな穏やかな時間を再び親友と持てるとは思っていなかったので、それだけで心が満たされていくのを感じた。
    「……なあ、甲洋」
     静寂がそっと破られる。目線だけで続きを促せば、あの頃より大人になった親友が、あの頃と変わらない少し不器用な笑みを浮かべていた。
    「頼みがあるんだけど……」

     ***

    「みさお、これなぁに?」
    「攻撃手段だよ!」
    「物騒な言い方するな」
     真壁家の居間で恵方巻の準備をしながら聞こえてきた会話にツッコミを入れる。豆が入った桝を両手に乗せて首を傾げる総士はこれから起きることを知らない。その横でぽりぽりと豆を食べている操も、実のところ甲洋だって、参加するのははじめてだ。
     節分。確か、季節の変わり目に生じる邪気を払うための行事だったか。そういったものとは無縁の子ども時代を過ごしてきたとは言え、節分が何をするものなのかは一応知識として知っている。
     だからこそ、これから起きるであろうことを思ってため息を吐きそうになってしまうのだが。
    「ねぇこーよー、かずきは?」
     桝を操に渡した総士がくいくいと甲洋の裾を引っ張る。小さい目をきょろきょろと動かして一騎を探している様は何とも愛らしい。常日頃一騎は可能な限り総士の傍にいるので、離れているとどうにも不安になるらしい。
    「かずき、まだかえってこないの?」
    「いい子にしてたら帰ってくるよ」
     ああ、胸が痛くなる。決して嘘を吐いてるわけではないのだが。
     そのときだ。ガラガラと扉が開く音がした。
    「かずきだ!」
     瞬時に反応した総士がぱたぱたと玄関に向けて走り出し―――居間の扉の前で立ち尽くした。
     現れたのは総士が待ち焦がれていた優しい育ての親ではなく、真っ赤な顔で頭に角を生やした異形だった。
    《わぁ、本格的だね~。さすが一騎!》
     わくわくとした声が聞こえてくる。「もうこれ投げてもいい?」と言わんばかりに豆を構える操をやんわりと制した。
    「総士、ソレは敵だよ。倒さなきゃ」
     努めて冷静に声を掛ける。だが、総士は氷のように固まってしまってぴくりとも動かない。鬼が動揺してるのが伝わってくる。いや、早すぎ。もう少し我慢して。
    「来主」
    「はぁい!」
     元気よく返事をした操が桝を持って総士の傍に駆け寄り、その小さな手に豆を握らせた。
    「総士、これをアイツにぶつけるんだよ! 一緒にやろ!」
    「……」
    「総士?」
    「ふぇ…っ」
     小さな声が、聞こえた。
    「うわああああん!」
     火のついたような泣き声が木霊する。恐怖がびりびりと伝わってきてこっちまで胸が痛くなる。
    「こわいよおおお! かずき!! かずきどこ!? たすけてよかずきぃいいい!!」
     瞬間、赤いお面と角が緑の結晶に包まれて砕け散った。泣きそうな顔をした一騎が総士を強く抱き締める。
    「俺はここにいるぞ、総士……っ!」
    「!! かずきぃいい……っ!」
     まるで感動の再会を果たしたかのような二人にどう反応したらいいのだろう。正解がわからない。さすがの操も「どうしたらいい?」という顔を向けてくる。
    「……落ち着いたら恵方巻作って食べようね」
     来年は絶対一騎に鬼をやらせないようにしようと固く心に決め、甲洋は未だ泣いている二人を宥めにかかるのだった。
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