魅惑の味 新規事業の祝賀パーティーは立食形式で行われた。
事業の成り立ちだとかお偉い人の挨拶だとかには微塵も興味はないが、テーブルに所狭しと並ぶ料理は圧巻でそれだけが魅力だった。大皿のなかから厚切りのローストビーフに狙いをつけて、トングを使って自分の皿によそっていると、すぐそばに小柄な女性がやってきた。同僚ではないので、おそらく来客だろう。斜め上から眺めるその横顔が可愛かったので、現金ながらいくぶん気分も上がった。ふと視線を逸らすと、視界の隅っこで面堂が年嵩の女性に口説かれているところが目に入った。
「取ってあげようか?」
愛想笑いというよりも、心から出た笑顔だ。女性に対しては自然とエスコート出来る自信があるのでこれくらいお手の物だ。えっと驚く彼女の手から素早く皿を奪い取り、いくつかの料理を丁寧に盛り付けていく。肩にかかるくらいの黒髪が良く似合う女性だった。
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