ゴーフレット エースがノイキャンついたヘッドホンを欲しがった。
おれがうるさいからだろ浮気してんのかって暴れて割れた瓶をエースの足に刺そうとしてるのを、ルフィがバカマネばっかしてんなよなああひゃひゃひゃってゴーフル食いながら見てた。
それおれがエースにあげたやつだぞって泣いたらエースのもんは大体おれのもんだからって。
ルフィに気ぃとられてたら後ろからエースに蹴られて頭踏まれたDVだ、ため息つきながらなんでそうサボは毎日一生懸命騒ぐんだって、ひでえふたりして寄ってたかっておれのこといじめてそんな楽しいかよ、おれだって騒ぎたかねえよ、怒りたくもねえし叩きたくもねえけどふたりが大好きだからこうやって怒ってやってんのにエースはめんどくさがるしルフィは茶化すし全然わかっちゃくれねえ。
「いい加減にしろよエース顔合わせりゃぶすったれて!元がブスなんだからちったあ笑えよああ傷ついたぁ~エースが大事にしてくれなくて傷ついたぁ~ブスでごめんって謝ってくれてもいいよ許してあげるから」
エースは無言でべちって頭を叩いてドアを乱暴に開けて出て行った、こんな夜遅くにまたパチンコかよいやダーツか?毎日毎日人の金よくドブに捨てれるよな立派なギャンブル依存症だ。
のこされたリビングにゴーフルを噛み砕く音ばかり響く。
棚からスコッチを出し椅子につきテーブルに足を乗せてラッパ飲みすると、ルフィが隣に座ってもう一枚ゴーフルをばりっと齧った。
「エースいつもどこ行ってんだ?」
「すげー臭くてうるさくて悲鳴聞こえるとこ」
「牛舎か?」
「そう、内緒だけど。おれがせっかく仲直りしよって言ったのに」
「ただブスって言ってただけだったぞ」
「ブスで友達いなくておれがいないとなんにもできないエースに笑ってほしいだけなんだ」
「エースじゃなくてペット飼うんじゃだめなのか?おれでけえ金魚飼いてえ」
「エサ食って水槽いっぱいにクソまき散らかすちっせえ塊眺めて何が楽しいんだよ、おれはエースが好きなんだ、おれと同い年でおれと似たような背丈でおれより人生うまくいってないエースが好きなんだ」
「サボはかわいそうだな」
「かわいそうだからもっとかわいがってくれ」
バリバリ。
バレンタインだったからほんとはチョコがよかった。
昨日近所のデパートに行くと甘くない!糖質オフ!とでかでかと書かれたPOPがそこかしこにあった。
甘かろうが甘くなかろうが立派なスイーツだと思うけど、甘くない甘いもののコーナーばかりすっからかんでなんかむず痒くて、こんな言い訳がましくて嘘臭いもんばっか並んでる店でエースにあげるもの選んでいいのかなんて思ったらいつのまにかゴーフルを買って帰ってきてた。
バリバリ、バリバリ。
昨日の夜エースが帰ってきてすぐに渡したんだけど、何も言わずにリビングのテーブルにぽんと置いて風呂に行ってしまった。
いいんだ別にそれは、年中無休でひきこもってるおれと違って、エースはバレンタインなんて気にする余裕がないくらい現実も心も忙しいのは知ってるから、だから包装を開けることなく朝を迎えてついさっきルフィが開けてバリバリしてるのは全然いい、でも、なんか言ってほしかった。
なんでエースは何も言ってくれなかったんだろう。
なんも言ってくれないうえにヘッドホンで耳も塞ぐってのか、ひでえ、おれのことなんだと思ってんだ。
もう半分くらい空になったスコッチの瓶をとんとテーブルに置くと間髪入れずに口にゴーフルを突っ込まれた。
バリバリバリバリ。
ルフィがちょっと醒めた目をしておれを見てる。
口がパサついてダメだ、口中に張り付いて喉がすごく渇く、ゴーフルを飲み込む前にまたスコッチに手を伸ばすとルフィに手を握られた。
「…睨むんじゃねえよ」
「えっおれ睨んでた?ごめん」
「サボ昨日酒飲んだよな」
「ん?うん」
「今日ボトル5本目だよな」
「うん」
「おととい何したか覚えてるか?エース夜中にリーフレット作ってたろ、そのあと」
なんだその言い方。
酒飲んでちょっと記憶なくなるくらい誰だってあるだろ。
頭を掻きながら瓶に手を伸ばすとルフィに取り上げられた、ゴーフルもエースも酒も、この家にあるのはルフィのもんってことか?おれんちなのに?
「忘れたんだな」
「悪かったよ。もしかしておれのせい?エースがあんななってるのって」
「もうやめようなサボ。飲まねえでくれ」
「いいんだよおれは強いから」
自分のイラついた低い声にびっくりした。
ルフィはいつも通りの顔だった。
いつも通りなのか?今の声が?それよりもおれとおんなじ目をしておれからなんでもかんでも取り上げちまうルフィが今は心底憎らしかったいいだろ酒くらい、誰に迷惑かけたってんだ。
「おれもエースもやさしいサボ知ってるから。薬飲んでないだろ、ちゃんと断酒しろよ」
「最近やさしくないって言いてえの」
「なあこれ以上言ったらムカつく?」
「ムカつかないけど、でも、なんでおればっかりって思うよ」
もう一度ルフィからスコッチをひったくるとぶんどられて窓の外に放り投げられた。
こんなに悲しくてつらくて酒飲まないと落ち着かないのに飲ませてくれない、なんでだ、ルフィの頭を両手でつかんで床に叩きつけてももやもやむず痒い気持ちは全然晴れなかった。