子羊の日クリックとテメノスが隣同士寄り添いながら酒場で楽しく時間を過ごしていると、ふとテメノスが何かを思いついたように話しかけた。
「そういえば、クリックくん。今日は何の日か分かりますか?」
何だか楽しそうな笑顔で僕の恋人はこちらを見ている。こういう時は決まって禄でもないことを考えている。
「…誰かの誕生日でしょうか?」
「いいえ、今日は羊の日らしいですよ」
「だ、だからってなんで僕を見るんですか!僕は子羊じゃありません!」
「おや?まだ何も言ってませんが、子羊くん?」
「う…。ぼ、僕は貴方の…騎士…がいいです…」
クリックの言葉尻がややすぼまり小さくなる。大型犬が寂しそうに拗ねたような姿をニヤニヤとテメノスは笑いながら楽しそうにしている。何だかんだでいつもこの人のペースに乗せられてしまう自分が歯痒い。
「ふふ…思った通りの可愛らしい反応ありがとう、私の子羊くん?」
そして、1つ何かを含んだような笑みを浮かべながらグラスを持っていた手でクリックの頬をスリ、と撫でた。酒場の熱気で結露していたグラスは、テメノスの手を濡らしていたようでクリックの頬も僅かに濡らす。その手つきと湿度にクリックはクラクラしてしまう。酒がまわったのだろうか?
「さて、クリックくん」
テメノスはクリックを手招きした。まるで極上の内緒話を披露するかのような笑顔を浮かべている。
「は…い、テメノスさん」
クリックの声が上擦った。テメノスから紡がれる次の言葉がなんなのか少し期待してしまう自分がいる。テメノスはそっと手を口にあて、小声でクリックへと囁いた。
「子羊くんのミルクを堪能したいんですが…ふふ、何処に行けばいいんですかね?」
その後、子羊が狼になったのは言うまでも無い。