幸福なキス(クリテメ)「貴方に触れてもよいでしょうか?」
真剣な眼差しで彼が問う。
先日、彼から想いを告げられた。好きだとそう言われた。一時の迷いだと切り捨てることができぬほど、彼は真剣で。そして私もまた、彼のことを好きになっていた。
恋人、となったのだろう。恋人とはなにをするのか見当はつかぬが。恋い慕う相手とこうして逢瀬を重ねるだけで私の心はひどく満たされていた。
夜の教会での逢瀬。月明かりに照らされたステンドグラスの前でクリックに問われる。
触れる。そうか、触れてもよいのか。手をそっと握りあう。汗ばんだ手。自分とは違う、所々に硬い豆がある剣を握る剣士の手。指先を絡めあって。ふと、目が合う。
クリックの瞳がテメノスを捕らえる。深い深い海の色のようにも、どこまでも澄んでいる空の色のようにも思える。目の前の彼の青が徐々に熱を帯びていく。その瞳に映る自分も情欲に塗れた顔をしているのが分かる。
「クリック、くん…」
「テメノスさん…」
名前を呼ぶ。名前を呼ばれる。
どちらからともなく求めて触れ合って、抱き合う。
クリックの腕が背にまわる。お互い触れ合ったところから鼓動が伝えわる。どちらのものかも分からない鼓動が早鐘をうつ。
顔が徐々に近づいてくる。吐息が近い。唇と唇が触れる。
愛しい。
あぁ、この愛しさが、この思いが、唇から、触れたところからすべて君に伝わればいいのに。
触れた唇は甘やかで柔らかく、いつまでもこうしていたいぐらい心地が良かった。
名残惜し気にゆっくりと唇が離れていく。
「テメノスさん。僕、幸せです」
キスってこんなにも気持ちの良いものなんですね。抱き合ったまま、彼が照れながらそう言った。
「えぇ。私も初めて知りました」
もう一度いいですか? 彼の頬をするりとひと撫でする。答えは聞くまでもないようで、柔らかな唇がまた私へ愛しさを伝えてくれた。