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    ちはや

    @chinya_tw

    クル監♀沼に沈んだノライッヌの末路⚗️🌸
    いかなる理由があっても画像および文章の無断転載、AI学習を禁止します。
    I wholly forbid the reproduction and manufacturing of my works without permission.
    Do not use my works for AI training.

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    ちはや

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    デデさんのクル監ウェディングポストがぶっ刺さりすぎて、許可をいただき書きたいとこだけ書きました。
    デフォルト名ユウを使用しています。
    特に何も考えていませんので何でも許せる方向けです。
    デデさんのポストはこちら(ツリーに繋げた部分も最高です)
    https://x.com/dede_twst/status/1891360335145111893

    タイトルはスマブラの発音でお読みください⚗️🌸

    #クル監
    wardenOfABuddhistTemple
    #デイヴィス・クルーウェル
    davisCrewell.
    #女監督生
    femaleCollegeStudent
    #twst夢
    #twst_NL
    #twstプラス
    twstPlus

    大乱闘クル監ウェディング(一体なんでこんなことになった!? ただのファーストミートだろう!?)
     ウェディングドレスを身に着けた愛しい仔犬の姿を見て喜ぶだけだったはずなのに。
     ほんの十五分前まではこうなる事なんて、クルーウェルは予想だにしていなかった。
     ファーストミートを中庭にて、参列者の前で行う。それだけのことだったはずだ。
     中庭の井戸のところにて控室に繋がる一階の外廊下に背を向け、この後の式でユウが持つブライダルブーケを手にクルーウェルは一人新婦を待っていた。やがて参列者が来た気配がし、いよいよかと期待に胸を膨らませる。ドレスのデザインはクルーウェルが自ら行った。なんならそのまま全部自分で完璧に仕立てたかったのだが、普段の教員としての仕事に結婚式の準備に、とやらなければならないことは山積みで、断腸の思いで一番信頼している以前世話になった服飾メーカーのボスに仕立てを依頼した。最後の最後まで自分で作ると主張してはいたのだが、ユウの「それだとファーストミートの感動が減っちゃうね」という一言であっけなく折れたのだ。
     とんとん、と肩を叩かれ「デイヴィス」と己を嬉しそうに呼ぶユウの声が聞こえた。自分がデザインしたウェディングドレスを纏ったユウの姿が楽しみで楽しみで仕方なかったが、一生に一度の結婚式にそのようながっついた態度を見せるわけにもいくまい、と敢えてタメを作ってから「ユウ、」と最高の笑顔で振り返る。そしてそこには──

     大 量 の 花 嫁 (♂) が ず ら り と 並 ん で い た。

     「────…………なっ、」
     驚愕に目を見開いたクルーウェルが口を開く。
    「何をしているんだこの駄犬ども!!!!」
     渾身のBad boyが中庭に轟いた。が、彼の元を巣立ち、今や立派な魔法士として各地で働いている彼らの中に、今更彼の怒声に怯むような仔犬はどこにもいなかった。
     先頭に立っていたのはリドル・ローズハートである。その脇には舎弟宜しくスペードとトラッポラが固めており、その後ろにはクローバーとダイヤモンドが立っていた。クローバーは見慣れた苦笑交じりの笑顔でクルーウェルに「どーも」と軽く頭を下げ、ダイヤモンドは相も変わらずスマホを構えておそらく動画を撮っている。『 # 地獄 # 花嫁選び放題 # 監督生ちゃんお幸せに☆』などといったタグをつけ、マジカメに上げるのだろう。まあ軽く地獄なのは認める。そのほかにも招待客のうち、ユウが在学中に特に親しくしていた連中がずらりと並んでいた。全員花嫁衣装を着て。──とても大事なことなので、もう一度重ねて言おう、

     全 員 花 嫁 衣 装 を 着 て。

    だ。
     唖然とするほかない。というかこの状況に放り込まれて唖然としないやつがいないわけがない、と睨んでいると、にこやかに笑ってこちらに手を振っている馬鹿犬が目に入る。愛しの花嫁であるユウだ。「先生、がんばってー」と呑気にエールを送ってくる。その隣には大きな二本の角をもつ美丈夫が彼女の介添人のごとく立っていた。マレウス・ドラコニア(花嫁の姿)である。ユウは彼のドレスの端を摘まんで持って、中庭のベンチに腰掛け優雅な観戦モードに入っていた。おいおいおいおい、この異常事態の中にあいつもいるのかよ勘弁しろ、と思っていれば、
    「そう易々と、ボクたちの監督生と結婚できるとお思いかい? クルーウェル先生」
    と、ローズハートによる宣戦布告がなされる。
    「まだ認めてねーっすから!!」
    「絶対幸せにしないと許さねえ!! っす!!」
    「ふなー! 子分と番になるってことはオマエもオレ様の子分なんだゾ、クルーウェル! わかってんだろーな!」
     ユウの親友たち四馬鹿の残りどもを皮切りに次々とヤジが飛ばされてくる。そしてクルーウェルは全てを理解した。
     卒業して魔法医術士として大成しようが、魔法執行官になろうが、五つ星レストランのオーナーになろうが、一国のトップを補佐する立場になろうが、海の底に引き篭って研究をしていようが、探索者も奇術師もヒューマノイドも農夫も商人もパティシエも俳優も次期当主もその護衛も、異世界から飛ばされてきた元少女だって、NRC生は所詮NRC生なのである。我が強く、癖も強く、プライドは高く。態度は横柄で、自由で、我儘で、自信があり、何かあればお祭り騒ぎと化し、気に入らなければ力でねじ伏せる。その気質はどこまで成長したって変わらず根底に流れている。
     「気に食わない」「納得できない」「面白そう」「暴れても問題ない」「合法的に恩師をぶっ飛ばせる」「みんなが楽しいならそれでおっけー」胸に秘めた理由はそれぞれでも、考えることはただひとつ、『クルーウェルから監督生を守れおまつり』だ。
     そしてこの男もまごうことなくNRC生なのだった。
    「いいだろう。躾の時間だ、仔犬ども! お行儀から徹底的に教えてやる」
     対峙する者が全員花嫁衣裳の男どもという大分気が狂った状況ではあるが、売られた喧嘩はどんなものでも最高値で買わなければならない。これはNRC生の義務だ。
     クルーウェルは手にしていたブーケに防護魔法を三重にかけてから観客と化しているゴーストに渡して保護させ、手元に教鞭を呼び寄せるとそう吠えた。



     そんなことがあって今に至るわけだが。
    (くそ、身体強化が切れて来たな)
     飛んできた何かを右に躱して辿った魔力の先に口からついて出た適当な攻撃を打ち込む。視界の外からボディめがけて打ち出された拳は物理障壁で弾いて長い脚を低く振り回し、お留守になっている足元を強く払ってなぎ倒す。息は上がり、突然訪れた運動強度の高い負荷に身体のあちこちが悲鳴を上げていた。多人数との決闘経験がないわけではないが、それにしたって二十一人を同時に相手取るようなことはない。さらにこちらはもうアラフォーだ。ぴんぴんした二十代の仔犬どもとは体力が違う。その分技術や経験で補うわけだが、純粋な反応速度や身体能力は強化バフをかけなければ続かない。そして何より邪魔なのが全員ウェディングドレスを着ているという点だった。各人思い思いの衣装を用意したようで、色も形もみな異なっているのだが、なにしろドレスだ。そしてウェディングドレスなのでベールも着けている。髪から外れたベールが宙を舞い、長いトレーンが翻り、視界を狭め、また飛んでくる攻撃を隠すのがとにかく厄介で仕方ない。きつくてきつくてそろそろ限界、というところに可愛らしい声が必死にクルーウェルを鼓舞すべく投げかけられた。
    「先生! 先生あと三人! あと三人だよ頑張って!!」
     最初の優雅さはどこへ行ったのか、ユウは腰かけていたはずのベンチの上に立って、両手を握りしめて叫んでいる。
    「馬鹿犬! 危ないから座ってなさい!」
     反射的にそう叫び返すと、誰かが口元を動かし始めた気配を察知してフレイムブラストとアクアウェーブをほぼ同時に叩き込んだ。ドゴン! と大地と大気を震わせて爆音が響きわたる。局地的に発生した水蒸気爆発の跡にはジャミル・バイパーが伸びていた。
    「あと二人! 先生、いっけーーー!」
     お転婆がちゃんとベンチから降りていることを横目で確認する。興奮してぴょんこぴょんこと幼子のように飛び跳ねる姿が馬鹿みたいに可愛くて、それだけでぐん、と腹と脚に力が入った。だぱ、とアドレナリンが放出されるのが分かる。我ながら単純さに呆れ返るが、これが惚れた弱みというやつなのだろう。自分の勝利を信頼してくれている眼差しと声援に応えなくてなにが男か。そう気を入れた矢先、ドンッ! という打撃音のようなものが聞こえた。
    「魔法はあああああっ筋肉からあああああああああああああっ!!」
     何かがそう叫びながら一直線に上空から滑空してくる。いや、理解したくなくて『何か』と表現したが、こちらに向かって来る『何か』が何なのかはすぐに分かった。
     アシュトン・バルガスである。──花嫁衣装を着た・・・・・・・
    「アシュトン! お前もかっ」
    「デイヴィスせんぱあああいっ! ご結婚おめでとうございまああああああああすっっ」
     むっきむきの筋肉でできた巨躯を真っ白な花嫁衣装で包み、可愛らしい花のカチューシャで留められたベールをたなびかせ、射出された弾丸のごとく一直線にクルーウェルへと突っ込んでくるバルガスをするりと一歩斜め前に出て避ける。というか選択肢としては避ける一択だ。こんなもの正面から受け止めようものなら圧死しかねない。
    「あっ、なんで避けちゃうんですか先輩っ」
    「避けるに決まってるだろう! オラァっ、行け駄犬!」
     バルガスの身体とすれ違う瞬間を狙って魔法で最大限に強化した教鞭をその尻に打ち込み、クルーウェルがいた場所の後方へ飛んできた勢いを殺さないよう角度を合わせ、さらに加速させるべく魔力で押し出してフルスイングする。
    「うおっ!?」
     上がった驚声の主はバルガスではなかった。その直後、どんがらがらがっしゃーん! と筋肉の塊りが茂みに突っ込み、ごろごろざりざりめきょめきょと巨体が色んなものを巻きこんで転がっていく。ようやく外廊下の壁にぶつかって止まってみると、二つの影が土埃の中から現れた。ひとつは言わずと知れたバルガス、もうひとつは最後まで残り攻撃のチャンスを窺っていたレオナ・キングスカラーだ。
     そしてゴスン、と鈍い音が離れた場所で響いた。木から落ちた愛の狩人、ルーク・ハントである。
    「何やってるの、ルーク!」
    「ルーク先輩もやられた!」
     レオナはバルガスが鏡の間のある中央の塔の屋根を蹴ってこちらへ飛んでくることを確認するとクルーウェルの背後、バルガスの射線上に重ならない茂みの奥へ位置取り、最大火力のゼロレイを最速で打ち込めるよう待機していた。筋肉ダルマが目標とかち合った時にあわせて攻撃を放ち、クルーウェルの首を取る算段だったのだ。ところがクルーウェルは向かって来るバルガスに対してその尻をかっ飛ばすため少しでも早く回り込めるよう一歩前に出て・・・・・・避けた。そこでタイミングに一拍遅れが生じる。そしてフルスイングされた教鞭により加速度をぐんと上げたバルガスは、打たれた瞬間に少し軌道を変えてレオナめがけて飛び込んで来た。一瞬で距離を詰められ受け身を取る間もなく巻き込まれ、インパクトの際に溜めていたゼロレイを放出したのだ。照準を定められずに放たれた最速の攻撃魔法は明後日の方向へすっ飛んでいき、木の上で遠距離からクルーウェルを仕留めようとしていたルークを直撃した。──結果として、三人の花嫁(♂)が地に伏したのである。
    「え、あと誰残ってる?」
    「もしかして全員やられた? マジで?」
    「マレウスさんは?」
    「ウミウシ先輩は手ェ出さねえっつってたじゃん、小エビちゃん」
    「おやおやおや、これはもしかすると」
    「きゃああああっ! 先生勝ったああああっ!!」
     ずっと続いていた破壊音と怒声が止み、風が土埃を攫うと、敗退して観戦モードに移っていた花嫁たちがざわめく声と歓声が広がっていく。中庭を見渡せば立っている者はクルーウェル以外に誰もいなかった。それを確認したクルーウェルは自身も疲労困憊で立っておられず、「あーーーー」と呻くような溜息を吐きながらどかりと腰を下ろして足を投げ出した。
     そんな彼に駆け寄ろうとする勝利の女神ユウを止める影がひとつ。
    「残念だがレディ、まだ終わっていない」
     その声の主に誰もがあんぐりと口を開ける。
     シルバーのメッシュが入ったグレーの髪をいつも通りきっちりしっかりとセットし、背筋をピシリと伸ばした姿が凛として厳粛な雰囲気を醸し出すその人は、総レースがエレガントな、純白のソフトマーメイドドレスを纏っていた。ハイネックで上半身の露出を抑えながらも、上品な曲線美を描くことにこだわり抜かれており、歩を進めるたびに優雅にスカートが揺れ動く。セットされた髪にはマリアベールがふわりと掛けられていて、見事な刺繍が施されているロンググローブを着けた腕に抱いた黒猫がその靡く様を興味深そうに見ていた。
    「すまないが、ルチウスを頼む」
    「トレイン先生、」
     危ないから大人しくしているんだよ、と優しく言い聞かせて彼はユウにルチウスを預ける。
    「……うん。そのドレスは君によく似合っているな、とても美しい。結婚おめでとう、ユウくん。君の幸せを心から願っている」
    「先生、ありがとうございますっ」
    「と、言ってもだ。私が彼を倒したら、私が花嫁になるんだったかね」
    「あはは、どうでしょう」
    「まあここは我が校らしく、敗者は勝者に従ってもらうことにしよう。────さて、」
     ユウとの話に区切りをつけると、トレインはくるりと未だに地面に座っているクルーウェルに向き合った。
    「クルーウェル先生、支度はまだかね」
    「……お身体に響きますよ、トレイン先生」
     憎まれ口を叩きながら、ようやく呼吸の落ち着いた身体に鞭打って、クルーウェルは何とか立ち上がる。
    (くっそ、先を越された)
     自分が一番最初にユウのウェディングドレス姿を見て、一番最初に似合っている、綺麗だと伝えたかったのに。
     口惜しさと嫉妬でギロリと睨むクルーウェルを、トレインは鼻で笑っていなす。
    「では久方ぶりの個人授業を始めようか、デイヴィス・クルーウェル。気を抜くことは許さない、いいな」
     約二十年ぶりに聞く試験開始の言葉で、クルーウェルの刻は学生の頃へと戻った。
     目の前には最強で最恐で最凶と謳われた恩師が立っている。それだけでざわりと血が震える。身体は疲れ果て腕も足もぱんぱんに張っており、魔力も半分以上減ったまま回復していない。しかしどんなに事前準備をしたところで恩師に万全の状態で挑めたことはなかったのだ。そう捉えればこの状況も、結局いつもと変わらない。
    「先生の胸をお借りするつもりで挑みましょう」
    「実力を見せてもらおう。期待しているぞ、仔猫ちゃんk i t t y
     かくしてクルーウェルは通算三十二回目のラスボス決戦を開始した。



     辛くも勝利を収めたクルーウェルは、今度こそ大の字になって地面に寝ころんだ。そこへばふっと勝利の女神が飛び込んで抱きついてくる。あ、この馬鹿、お前も寝転がったらドレスが汚れるのに!
    「先生、先生先生先生! すっごい! やったやったやった、勝ったよおおお! かっこよかったああああっ」
     感極まった彼女は笑顔全開で勝利を寿ぎ、すりすりとクルーウェルの胸元に頬ずりした。これでメイクが崩れたのも確定だ。自分もぼろぼろだし、この後の式に参列する招待客の大半をぶっ飛ばしたので彼らのお色直しも必要だし、だったら俺の仔犬も綺麗に整えなおせばいいだろう、とわしゃわしゃ頭を撫でてやれば、へへへと笑った仔犬が勝利のキスを頬に落とす。あーくそ可愛いな、などと思いつつ先を越されたドレスの感想を伝えようと口を開く直前、ユウの身体がひょいと持ち上がり、まるで猫の仔の首を摘まむように宙を移動してクルーウェルから離された。
    「こら、ユウ。僕にも見せ場をくれる約束だったろう?」
    「ツノ太郎」
     ユウを手元に戻したツノ太郎ことマレウス・ドラコニアは、ぱちんと指を鳴らして彼女のドレスもメイクも髪型も綺麗に整える。
    (そういえば、こいつはなにも手出ししてこなかったな)
     総勢二十三名の花嫁たちを蹴散らしている間、彼らと同じように花嫁の姿をしたマレウスは涼しい顔でユウの隣に立ち続け、ひたすら彼女を守るだけだった。世界で五本の指に入るほどの魔法士である彼の守りは馬鹿みたいに強固でユウの安全性の保障としてはこれ以上ないほどだ。おかげでやりたい放題に暴れられた。
    「あっ、ありがと」
    「構わない。──さあ人の子よ、最終決戦を告げてくれ」
    「は?」
     ただならぬ単語が聞こえてきて、クルーウェルは脳直で声を発する。
     は? 最終決戦? トレインがラスボスじゃなかったのか? いやまあトレインとマレウス、どちらがラスボスかと問われればマレウスの方なのだろうが、クルーウェルの中ではトレインの方が圧倒的にラスボスだった。──じゃなくて、最終決戦だと? 魔力がほぼすっからかんのこの状態で?
    「ごめんね、先生。もうちょっとだけ頑張って」
    「いやまてまてまて、この状態じゃドラコニアとやりあうなんて無理だぞ」
    「当たり前だろう、この僕とでは魔力の質も量も差がありすぎて話にならない。だから先ほどの騒ぎにも僕だけ参加を禁じられたのだからな」
     むう、と茨の国の次期当主は拗ねたように頬を膨らませる。
    「なに、最終決戦といっても簡単な試練だ」
     そこまで言うとマレウスはぱちりと再び指を鳴らした。途端にクルーウェルの視界が暗闇に包まれる。
    「!?」
    「クルーウェル、お前の花嫁を探し出せ」
     その言葉とともに闇が解けた。
     辺りは先ほどと何も変わらない乱闘の傷跡がぼっこぼこに残った本校舎の中庭である。ただし、見物していたはずの招待客の姿がなかった。その代わりに数多のユウが立っている。
    「な、」
    「「「「「「先生、私を見つけてね」」」」」」
     ざっと見渡しておよそ百人はいるだろうか。
     寸分違わぬ数多のユウの、実体を伴った幻影がクルーウェルを囲んでいた。同じ顔、同じドレス、同じ髪、同じ微笑、同じ香り。彼女たちが一斉に口を開き、自分を見つけてくれと希う。先ほどの地獄が可愛く見えるほどに、異様な光景だった。その異様さに驚きはしたが、ひとりを除いて全て幻であると分かればそう怯むこともない。そしてクルーウェルは最愛の仔犬を間違えるような飼い主ではない。それより一刻も早くウェディングドレスの感想を伝えて一緒に喜ぶことの方が大事である。
    「……ふん、馬鹿馬鹿しい」
     よいこらしょ、と立ち上がった彼はくるりと見渡すと大きく息を吸って吐いた。
    (違う、違う、違う、違う、違う、違う……)
     いつも通り自分に笑いかけるユウの林の中をひとり歩き回る。ある種ホラーじみた視界は精神的にくるものがあった。しかしそれでもクルーウェルは彼女たちを一瞥するだけで判別していく。
    (これも違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う────)
     別にやみくもに歩き回っているわけではない。スタート地点から全員を確認するべく縫うように歩を進める。半分を回り切り、残り三分の一になろうというところで、クルーウェルはようやく自分の仔犬を見つけた。
    「ああ、やっといたな。仔犬、おいでc o m e
     ひとりのユウに向けて両手を広げて来いと要求すれば、たちまち彼女はふにゃりと笑ってその胸に飛び込んだ。ぎゅうと抱きしめて額に口づける。そしてクルーウェルの腕の中の仔犬を残して幻影は泡のように消えていった。
    「正解!」
    「当然だ。俺を誰だと思っている」
    「でも先生、最初全然違う方向に行っちゃったから、私すっごく慌てたんだよ。心臓バクバクした」
    「ああ、だから余計にか」
    「?」
     クルーウェルの言葉の意味が分からず、ユウはどういうことかと首をかしげる。それを聞いていたマレウスも何のことだかよく分からなかったのか、彼女と一緒になって首をかしげた。
    「俺が仔犬を見つけた理由だよ」
    「一人ずつ見分けるにしては随分と判断が早かったように思ったが、理由があったのか?」
    「もちろん。匂いだ」
     彼の問いにクルーウェルは頷いて答える。
    「匂い? 魔力の匂いか?」
    「いや、違う。というか魔力に匂いを感じられるほど鋭敏な感覚を俺たち人間は持ち合わせていない。そもそもユウには魔力がないんだからそんな匂いもないだろう」
    「魔力の匂いがしない、という時点で嗅ぎ分けられるが」
    「あー、そういうことか。まあそんなことができるのは妖精族で魔力の扱いに長けたのお前だからだな。俺が嗅ぎ分けたのは香水だ」
     香水は体温で変化する。香料が揮発することで香りが広がっていくのが香水だ。取り入れる香料の揮発度の違いを利用して三段階程度に変化するように作られることが多い。本来ゆっくりと変化していくものだが体温が高いと香りの揮発が早まり、その変化も早くなる。一般的につけてから三十分はトップノート、二時間くらいまでミドルノートが香り、二時間を過ぎるとベースノートへと変わっていく。
     ユウは先ほどの乱闘を応援して大分興奮し、熱くなっていた。拳を振り上げたりぴょんぴょん跳ねたりもしていた。そうなれば自然と体温は上がる。クルーウェルが無事自分を探し当ててくれるかと、心臓をバクバクさせていたのであればそれも体温上昇の一因となるだろう。さらに屋外で陽も出ている環境下に於いては香りの揮発速度は上がる。控室で支度をし、香水をつけ直してから一時間と少し、まだそこまで強く感じないはずのベースノートであるサンダルウッドの香りがするのは屋外で応援をして体温が上がったからだ。そしてなによりそのサンダルウッドにほんの僅かアンバーの香りが混じっていた。アンバーはクルーウェルが自ら調合して使っている香水にベースノートとして入れているものだ。それが何故混じっているのかは少し前の仔犬の行動を覚えていれば分かる事だった。トレインに辛勝した彼に仔犬は飛びついて喜んでくれた。さらには歓喜のあまり頬ずりまでして。クルーウェルもクルーウェルで彼女を抱きしめたし頭も撫でた。香りも移ろうというものだ。現にクルーウェルも僅かにサンダルウッドの香りが混ざっている。ここまで条件が揃えば間違えようもない。
    「──と、いうわけでこいつが俺の仔犬だ」
     ドヤ顔でユウの隣に立ち、その肩を抱いてマレウスに見せつけてやる。マレウスはそんなクルーウェルを見て可笑しそうに笑うと、並んで立つ二人に手を翳した。
    「僕の負けだな。勝者であるお前たちに祝福を贈ろう。小さな喜びも大きな幸せも二人の道行きに数多の幸福があらんことを。どんな艱難辛苦も乗り越えていけるよう。──この僕が祝福する」
     ぶわりと風が吹いて色とりどりの花びらが舞い上がる。ぱちぱちと小さな祝福の光がクルーウェルとユウを取り巻いてはじけ、青空へと吸い込まれていった。



    「で、あれは一体どういうことだったんだ?」
     教職員用のシャワールームでシャワーを浴びて汗と埃と泥を落とした後、乱闘でボロボロになった衣装を魔法で直し、メイクや髪のセットなど諸々を済ませたクルーウェルは、あとはアスコットタイを締めてベストのボタンを留め、フロックコートを羽織ればいいだけの状態にしてから新婦控室となっている教室を訪れた。仔犬の方はシャワーまで浴びる余裕はさすがにないので洗浄魔法で身体を綺麗にし、メイクとヘアセットをこれまた魔法でやり直してからウェディングドレスを着付け直してもらったところである。あとはベールを被って最終チェックののち、ブーケを持てばいつでも式に向かえる。
     とはいっても今は休憩中だった。何故ならば二十四名の花嫁たちのお色直しを待っているからである。バルガスとトレインはクルーウェル同様教職員用のシャワールームを使っているので本校舎内で着替えが完了するが、駄犬どもは人数が多すぎて本校舎内では対応しきれず、運動部用のシャワールームを解放することでなんとかしている状態だ。着替えもそちらで完了させてから戻ってくるのでもう二、三十分は待機という名の休憩時間だ。
     結婚式会場をNRCの本校舎で執り行うことにしたからこそできる荒業だった。ホテルなどの結婚式場を使っていたらこんなことは無理だ。いやそもそもあんな大乱闘ができるわけもないのだが。結婚式の後の披露宴も先ほどの中庭にてガーデンパーティ形式で行われる予定になっている。なお中庭はマレウスによって綺麗に修復済みである。時間は予定よりも大分後ろへずれ込むことになるが、出席者は全員この島に宿泊予定だし、この後何か予定が詰まっているわけでもないので特に問題ないだろう。むしろ夕方から夜にかけてのナイトガーデンパーティになるので雰囲気が出ていいかもしれない。優秀な魔法士が勢ぞろいしているのだから明かりを空中に灯すのなんて造作もないことだ。
     そんなわけでクルーウェルとユウは仲良く横並びに座ってトレインからの差し入れであるサンドウィッチを食べていた。愛娘二人を嫁がせて『主役は食事を摂っている時間などない』と知っているからこその気遣いである。一口二口で食べられるサイズのミニサンドとピンチョス、ストローのついたアイスティは大口を開けてメイクを崩したくない新婦に配慮したものだ。中でもスモークサーモンとクリームチーズのサンドイッチが絶品だった。ユウはそれをもぐもぐと食べてから紅茶で流し込む。
    「あれって?」
    「今更とぼけるな。あの乱痴気騒ぎだよ、どうせ仔犬が仕込んだんだろ」
    「私が仕込んだっていうか、取りまとめたらそうせざるを得なくなっちゃっただけだもん」
    「ファーストミートだと思って振り返ったら大量の花嫁に囲まれていた俺の衝撃を考えなさい」
    「んっふふ、先生すごい顔してたもんね」
    「あんな時点からサプライズが仕込まれてるとか誰が思うんだよ」
    「いやあ、だからね? 招待状出してお返事貰って、出欠確認は私がしてたじゃない?」
    「うん」
     ウェディングドレスのデザインなどやりたいことにクルーウェルが集中できるよう、ユウが結婚式のその他細々としたことを確認してとりまとめ、大まかに決定してからクルーウェルに報告して二人で決めていったのだ。なのでクルーウェルは方向性や雰囲気、こだわりたいところをユウと詰めていくだけだった。出欠の返事をもらった後の連絡はメッセージアプリでグループチャットを作って行っていたのだが、NRC卒業生が十人単位で集まれば何かしようと言いだす人間が三人や四人や五人や六人出てくるわけで。次々飛び出してくる『とんでも案』にユウは頭を抱えた。出された意見をまとめると、「クルーウェルを驚かせたい」「二人の結婚に反対はしないけど物は申したい」「なんなら一発、いや三発ぐらい殴りたい」「お祭り騒ぎがしたい」の四つが根底にあるようだったので、あのような形になったのだという。
    「あー……まあなんとなく流れは想像できた。けどあの衣装はなんでだ?」
    「決闘というか乱闘に参加したい人の目印として裏ドレスコードを設けたの。ウェディングドレス着用って指定すれば、ハードル高いから参加人数減るかもと思って。……まあ誰一人不参加にはならなかったんだけど」
    「だろうな」
     それも容易に想像できた。グリムはさすがにあのサイズの魔獣用ドレスなんてものはないのでベールだけだったが、それでもドレスコードは守っていた。教師が二人も参加したことには驚いたが。
    「ツノ太郎も参加したがったんだけど、実力差がありすぎるから我慢してもらって、その代わり最後に決闘方式じゃない形で先生と勝負してもらうことにして。乱闘中は危ないから隣にいてずっと守ってやるって言ってくれたからお願いしたんだ」
    「good girl。そこは賢明な判断だ。ドラコニアが乱闘に加わっていたら死人が出るしお前に何かあったら俺がそいつを●してる」
     随分と物騒な物言いであるがクルーウェルは極めて正気だし本気だった。そんなことになったらオーバーブロット待ったなしだ。ただユウ本人はまともに捉えず「もー、先生ってば」と彼の言葉を笑って流して話を続ける。
    「あとはサプライズをどこに入れるかだったんだけど、式が始まっちゃったら自由に動けないし、披露宴中だと色々ブチ壊しになっちゃうから、考えれば考えるほどやるならファーストミートのタイミングしかないなって思って。……ごめんね、大変だったよね。ありがとう」
    「最初に感動を伝えられなかったのは悔しいが、まあいいさ。絶対に忘れられない思い出になったんだから」
    「それはそう。こんなの忘れられるわけないもん」
     顔を見合わせて同時にぷっと噴き出し、柔らかな笑い声が重なった。
    「あー、まずいな。腹が少し膨れたら眠くなってきた」
    「あと十分くらいは眠れるんじゃないかな。ちょっとだけ目をつぶってたら?」
    「ん、じゃあ肩貸してくれ。ちょっとだけうとうとする」
     クルーウェルはそう言うとユウの手を取って指を絡めて握り、肩に頭を凭せ掛けて目を閉じる。
     わずか数十秒で穏やかな寝息が聞こえ始めたことで、ユウは彼が本当に頑張ってくれたんだなと実感してぎゅうと胸が苦しくなった。そして幸せそうに微笑む。

    「ありがと。先生大好き、愛してる」
    Tap to full screen .Repost is prohibited
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    ちはや

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    タイトルはスマブラの発音でお読みください⚗️🌸
    大乱闘クル監ウェディング(一体なんでこんなことになった!? ただのファーストミートだろう!?)
     ウェディングドレスを身に着けた愛しい仔犬の姿を見て喜ぶだけだったはずなのに。
     ほんの十五分前まではこうなる事なんて、クルーウェルは予想だにしていなかった。
     ファーストミートを中庭にて、参列者の前で行う。それだけのことだったはずだ。
     中庭の井戸のところにて控室に繋がる一階の外廊下に背を向け、この後の式でユウが持つブライダルブーケを手にクルーウェルは一人新婦を待っていた。やがて参列者が来た気配がし、いよいよかと期待に胸を膨らませる。ドレスのデザインはクルーウェルが自ら行った。なんならそのまま全部自分で完璧に仕立てたかったのだが、普段の教員としての仕事に結婚式の準備に、とやらなければならないことは山積みで、断腸の思いで一番信頼している以前世話になった服飾メーカーのボスに仕立てを依頼した。最後の最後まで自分で作ると主張してはいたのだが、ユウの「それだとファーストミートの感動が減っちゃうね」という一言であっけなく折れたのだ。
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