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    ちはや

    @chinya_tw

    クル監♀沼に沈んだノライッヌの末路⚗️🌸
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    ちはや

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    トレイン先生を看取りたいクルーウェル先生の小話。
    トレイン先生←クルーウェル先生の完全一方通行です。一応報われてはいる、はず。
    左右は明確に考えてないのでモゼクルモゼみたいな感じです。

    #デイヴィス・クルーウェル
    davisCrewell.
    #モーゼズ・トレイン
    mosesTrain

    「────私は君の想いに応えることはできない」
     トレインは長考したあと、細く長くため息を吐き出してから目の前の男にそう告げた。
     愛しているのは夭折した妻、ただ一人だ。後にも先にも彼女以外を選ぶことはない。
     しかし、この男は余裕綽々の笑みで頷いてそれを受け入れる。
    「わかっています」
    「想いだけでなく、……肉体的にも、応えることはできない」
    「もちろん。承知の上です」
     肌を合わせるのは当然のこととして、唇を重ねることさえ拒否してみせても彼はそれでいいと言う。その上で自分を受け入れてくれと。
     ──どうしてこいつは今も昔も頭の痛くなる問題しか引き起こさないのだろう。
     有無を言わさない笑顔に頭痛がしてきて緩く頭を左右に振った。
    「…………何故だね」
    「何度も言ったでしょう。俺の知らないところで、見えないところで、あなたがいなくなってしまうのが耐えられない。それだけです」
    「不毛すぎるとは思わんのかね。愛されもせず、ただ老いさらばえていくだけの老人の世話をして看取りたいというのは、あまりにも君に利がない」
    「そう思うのはトレイン先生の視点だからでしょう。俺はあなたでも病に倒れるんだということを理解していませんでした。ずっと──ずっと、お元気でいらっしゃるものだと」
     去年、トレインは病臥した。
     大した病気ではなかったが二週間ほど入院を余儀なくされたのだ。
     目の前の男は「鬼の霍乱ですか」と笑いながらも仕事があるくせに毎日見舞いに来て、退院にも付き添ってくれた。退院後、がくりと体力の衰えを感じ、この辺が潮時だろうと教職を辞した。六十五で定年になってからはクラスを受け持つこともなく、嘱託教員として担当授業の講義と定期試験の補佐をするだけになっている。引き留めてくれる声は多くあったが、ピシリと背筋を伸ばして教壇に立てない姿を見せるのも嫌で、泣きつく学園長を振り切って退職したのだ。引き留める声の中に彼のものはなかった。「トレイン先生がそうお決めになったのなら」と珍しく憎まれ口を叩くこともなく受け入れてくれた。
    「でも、今回の事でわかったんです。いつまでも学生の頃ではいられない。俺が新任教師の頃でもいられない。時間は流れて、あなたも、俺も、等しく年老いていく。そう理解したら怖くなりました」
     彼はそこで一度言葉を切る。そして自分の知らないところでトレインが儚くなり、突然訃報を受け取るのが怖いのだと、そう言った。
     彼との歳の差は二十六ほどだったか。親子ほども離れているのだ、順当にいけばトレインが先に死ぬのは明白だ。
    「あなたの側にいれば、その恐怖はなくなる。それが俺の利です」
     きっぱりとにこやかに言い切る。
     入院していた時にこの男は自分の愛娘たちとすっかり仲良くなっていた。元々目端が利くのでよく気付くし、女性に対しては殊更に紳士的な態度をとるせいで「独り身の方が自由が利くし、恩師の身が心配だ」という彼の言い分は、それぞれ家庭を持って子供を育てているためトレインの世話をする時間を捻出するのに苦労している娘たちにすんなりと受け入れられ、信頼を勝ち得てしまった。今では口をそろえて「この人ならパパを任せてもいい」とまで言い出す始末だ。トレイン自身もすでに自分の家庭を築いている彼女たちに苦労を掛け、足を引っ張るのは嫌だと思ってはいる。一番いいのは家財を処分してどこかのホームに入ることなのだろうが、最愛の妻との思い出が詰まったこの家をどうにかすることなど考えられなかった。
     しっかりと外堀を埋めて固めた上で、諸々の懸念を一気に解決する手段としてこいつは自分を売り込んでいる。この笑顔はそういう時の表情だ。
    「……………………君というやつは、本当に、」
    「度し難い、ですか?」
     学生の時分から、それこそ何万回と彼に向けて言った言葉を先に言われる。
     五十を目前にしているにしては若々しい美貌に精悍な身体つき。繁華街などにいけば引く手あまただろうに、そんなものには一切興味がないと言う。
     トレインはもう一度、先ほどよりはるかに長い溜息を吐いて首を横に振った。根負けだ。
    「──────…………客間がひとつ空いている。好きにしたまえ」
     妻の部屋はもちろん娘たちの部屋もそのままにしておきたいが、生憎とこの家には客間がある。その使用許可を与えると、デイヴィス・クルーウェルは鼻に皺を寄せて子供のような笑顔で「ありがとうございます」破顔した。



     ゆったりとしたピアノの調べが耳に心地よい。細くて長い指が鍵盤の上を滑らかに走り、音を紡いでいく。彼が学生の頃に奏でていたけたたましくて騒々しい音とは程遠い美しい音色。祖母がピアノを弾いていて、子供の頃に彼女から習った以外はすべて独学だというその技術は五十を過ぎても全く錆びついていない。平日は夕食後にくつろいでいる時に、休日ならば今日のように昼下がりやティータイムの後に何曲か演奏しているおかげなのだろう。今もトレインの好きなクラッシックの曲を軽やかに弾いていた。
     ────少し前の夢を見ていたようだ。勝ち誇ったような少年然とした笑顔がまだ脳裏に残っている。
     最後の一音の余韻が空中に消えるのをぼんやりと聞き届けてからトレインは少し身動ぎをした。庭へと出られる掃き出し窓を見やれば、日は大分傾いている。うらうらとした穏やかな午後の日差しを受けて読書を楽しんでいたはずなのだがいつの間にか眠ってしまったようで、肩からオットマンに伸ばした足先までしっかりと毛布が掛けられていた。そんなことをするのはこの家には一人しかいない。今から五年ほど前に押しかけてきて無理やりこの家の客間を勝ち取ったクルーウェルだ。
    「起こしてしまいましたか」
     トレインの起きた気配を感じ取って彼が近づいてくる。そしてトレインが二度寝しそうにないことを見てとると、するりと毛布をはぎ取って綺麗に畳んだ。
    「……いや、そんなことはない。ちょうど目が覚めただけだ」
     腹の上に置きっぱなしになった本をサイドデスクに置いて身を起こし、ゆっくりとオットマンから足をどける。
    「君こそ私に構わず好きに弾いていていいんだが」
    「まあ、そろそろ夕飯の支度ですからね。大分暖かくなってきたので冷製スープを解禁しようかと思いまして。先生お好きでしょう、ビシソワーズ。それと真鯛のポワレにブールブランソースを合わせようかな、と」
     付け合わせは温野菜で、と夕食のメニューをあげるクルーウェルにトレインは頷いて同意を示した。とても美味そうな献立だ。そして実際彼の作る料理は大変美味い。
    「ああ。いいと思うぞ、デイヴィス」
     彼の名をこのように呼ぶのは初めてだった。
     トレインがクルーウェルを叱るときにフルネームで呼ぶことはあれど、ファーストネームだけで呼ぶことはなかった。何故かと言われれば「なんとなく長年の癖で」としか答えようがないし、「なんとなくそれもいいかと思ったから」としか説明しようがないのだが。
     そして呼ばれた本人は固まっている。これが『処理落ち』というやつか、とトレインはほくそ笑んだ。
    「────先生、今、なんと」
    「モーゼズ、だ」
     呼び方を改めるようにそう言ったらクルーウェルは銀灰色の瞳をさらに丸くした。
    「…………いいんですか」
     普段は呆れ返るほど高飛車で自分勝手で傲慢なくせに時折このような臆病さを見せるので思わず笑ってしまう。どんなに強引で自分の思い通りに事を運ばせていても、自分が決めた一線を踏み越えることにひどく躊躇するのは根が優しいからだ。問題児だった学生の頃から数十年の付き合いともなればそれくらいは理解している。我儘で、頭の回転が速くて、口が達者で、他人を意のままに操り、優しく、情に厚い暴君。
    「いいもなにも、もう家族のようなものだろう。口調ももっとくだけていて構わない。……さすがにお父さんと呼ばれたくはないがね」
     苦笑しながらその背を押してやると、彼は泣き笑いのような表情で「わかったよ、モーゼズ」と答えた。
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    ちはや

    DONEデデさんのクル監ウェディングポストがぶっ刺さりすぎて、許可をいただき書きたいとこだけ書きました。
    デフォルト名ユウを使用しています。
    特に何も考えていませんので何でも許せる方向けです。
    デデさんのポストはこちら(ツリーに繋げた部分も最高です)
    https://x.com/dede_twst/status/1891360335145111893

    タイトルはスマブラの発音でお読みください⚗️🌸
    大乱闘クル監ウェディング(一体なんでこんなことになった!? ただのファーストミートだろう!?)
     ウェディングドレスを身に着けた愛しい仔犬の姿を見て喜ぶだけだったはずなのに。
     ほんの十五分前まではこうなる事なんて、クルーウェルは予想だにしていなかった。
     ファーストミートを中庭にて、参列者の前で行う。それだけのことだったはずだ。
     中庭の井戸のところにて控室に繋がる一階の外廊下に背を向け、この後の式でユウが持つブライダルブーケを手にクルーウェルは一人新婦を待っていた。やがて参列者が来た気配がし、いよいよかと期待に胸を膨らませる。ドレスのデザインはクルーウェルが自ら行った。なんならそのまま全部自分で完璧に仕立てたかったのだが、普段の教員としての仕事に結婚式の準備に、とやらなければならないことは山積みで、断腸の思いで一番信頼している以前世話になった服飾メーカーのボスに仕立てを依頼した。最後の最後まで自分で作ると主張してはいたのだが、ユウの「それだとファーストミートの感動が減っちゃうね」という一言であっけなく折れたのだ。
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