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    ちくわ🍢

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    不死煉ワンライ 第30回「出会い」「ブルー」「罠」をお借りしました!「罠」はちょっとだけ…? 「出会い」というか「初」だと思い込んでましたね。ちょっと方向性違ってたらすみません。事前作成 1h+32min。今回はネタコネ時間がとれず纏めきれませんでした😂

    #不死煉ドロライ

    第30回ワンライ運命の導き、時を越えた出会い。そういったものに少なからず興奮していたことは否めない。ロマンだとか、理論で解明できない何かに、隕石のようにぶち当たってみたかった。

    「煉獄はお前に会うつもりはないようだ」
    机を挟んだ向かい側でサンドウィッチを口に入れた男が呟く。甘さの少ないコーヒーを選ぶさまが格好良く見えて、何となしに真似したところやはり苦みが強くて無理だと思った。中学のときにはお茶ばかり飲んでいたこの男が、なぜ急にコーヒーに手を出したかと追及すれば「文通する女学生とお茶するときに少しでも格好つけたい」という年相応の見栄で、いつか自分もそういう状況のためにブラックコーヒーを嗜んでいきたいと思っている。
    「何でだよ、あいつ記憶あるんだろォ?」
    敷き詰めた白米に醤油を和えたおかかと海苔を被せただけの、まごうことなき海苔弁は不死川実弥の手製の弁当だ。空いた隙間や海苔の上に昨日の夕飯を取り分けたおかずを雑に詰めている。
    高校二年、もうすぐ夏。昨夕のゲリラ豪雨で外はじっとりと湿度が高かった。教室ではクーラーが稼働しているが、廊下側ばかり冷風が当たって窓際への循環は悪い。
    「伊黒は会ったんだろォ? どうだったよ、あいつ」
    大きな川を渡った先の隣県に、以前と同じ炎のような髪色をした男が住んでいるらしい。伊黒が所用あって訪ねた先の高校で偶然甘露寺を見つけて、あらゆる画策を用いた末にどうにか話しをすることが出来て、このスマホが普及する現代で文通という手段で距離を縮めている。その会話のなかで、親しい先輩として名前が出たのが煉獄だ。
    「甘露寺は記憶がないからな。煉獄の状態を聞くのも難しく、直接会うしか確かめられなかった。だが突然に会ってみたいと名乗り出た他校の男子生徒に応じたのだから、少なからず俺の名前に聞き覚えはあったんだろう」
    「あいつ、誰とでも対応しそうじゃねェ?」
    「まぁ実際初対面の俺とも緊張せず話してくれたがな。今世でも甘露寺とは師弟のように仲睦まじく、二人の様子を見られたことは本当に良かった。甘露寺は俺の嫉妬心から会いたいと言ったのではと心配していたようだが」
    「へぇ」
    「甘露寺が席を立った時、おまえの名前を出した」
    「……」
    「空気が変わったことで、煉獄は覚えていると確信したよ。甘露寺を気遣ってその後も話題をふることはなかったが、煉獄は不死川を知っている」
    しかし連絡先を渡そうとして拒まれたという。口に含んだちくわが弾力をもって不死川の歯を押し返す。
    鬼を切るために稽古を続けたあのころ、目の前のことに必死になるばかりで、将来の……来世の約束なんて考えたこともなかった。中学で伊黒に出会ったときこいつは「絶対に甘露寺を見つけてみせる。もし生まれ変わったなら、必ず幸せにすると誓った」と中学生とは思えない強い決意でまだ見ぬ花嫁を探していた。
    そして考えたのだ。もしも今、煉獄杏寿郎と出会ったなら、と。
    木刀で稽古した翌日、青あざだらけになった身体を井戸水で冷やしていて、水を弾く肌が綺麗だと思った。子を想う心を利用されて鬼になった親を切った夜、感情を殺して佇む姿に見惚れて抱いた。
    何でもかんでも押し込める男の背中に噛みついて、許しを請うまで抱きつぶしてやれば、翌朝にはけろりとした顔をして「とんだ醜態を見せてすまなかった」と詫びる。「おまえはただ年上で先輩の柱に気を散らしてもらっただけだろォ」と返す。
    醜態でも悪態でもない。ただ張りつめていた気を散らして、肩に重くのしかかるどす黒い何かを払っただけ。甘い誘いもなく、照れた仕草もなく、ただ一時情を交わすだけ。
    不死川が激情に飲まれそうなとき、同じように煉獄が受け止めてくれて、お互い傷をなめ合うような日もあった。ピンと張った糸のように、何かの衝撃で切れてしまいそうな緊張を、ただ一時緩和させただけ。言葉にすることはなかったが、確かに二人のとって互いは特別で唯一だった。
    あのころと同じ関係を鬼を狩る必要もない現代で望むかといえば、そんな必要はないように思う。
    ただ会いたい。あのころ言えなかった思いと、あのころ目を背けていた炎を宿す瞳に、もう一度を願う。
    「あいつらの高校ォ、一時間で行けっかな?」
    「電車とバスは便が悪い。遠回りになるから自転車の方が早いだろうな。だが一時間はきつい。八十分だ」
    「上等ォ。どうせ番号教えろっつっても無視すんだろ。なら乗り込んでやらァ」
    「警察沙汰と病院行きは回避しろ。記憶云々はさすがに説明が出来ん」
    「チッ」


    午後の授業をさぼって乗り込んだ結果、見慣れない制服の他校の男が殴り込みに来たと通報されかけたところ、前世と同じ髪色をした男が「父の道場へ昔通っていた知り合いです」と助け船を出す。
    父親は健在か。道場とは剣道のことか。今も剣を握っているのか。それよりも。
    「俺のこと知ってんだろォ?」
    真ん丸の目玉は昔と同じで目が合っているのか分かりづらい。あのころよりも線の細い身体。隊服は学ランに似ていたが、今はブレザーを着用している。紺色のネクタイが似合わないと思った。
    「何が目的だ」
    不審そうな視線と不穏な空気。はたから見れば優等生を脅迫する不良学生か。全力でチャリをぶん回して八十分は切ったが、じめじめした暑さで学ランの前は全開、シャツも第三まで解放しベルトから裾を出していたために見た目の悪さは自覚がある。
    「別に、脅そうっつーつもりはねぇよ」
    ただ会いたかったと言ったところで、この男にどれほど伝わるだろう。約束もない。甘い言葉もない。今を生きる煉獄杏寿郎に会いたかっただけなのに、実際に会ってみればあれもこれもと欲が沸きあがる。いっそ脅してやれば良かったかと考えたが、そんなことをしては甘露寺経由で伊黒からの鉄拳制裁を待つだけだ。
    「話ィ、しようと思って」
    脅すにしたって証拠もない。実害もない。不死川が煉獄の痴態を事細かに触れ回ったとして、それは妄言にしかならない。
    ただ、あのころ出来なかった話をしたいと思う。運命の導きだとか、出会った瞬間に身を焦がすほどの激情なんてこれっぽっちもないけれど、あのころよりも時間だけはたっぷりある。
    「悪いが俺は過去の記憶で傷をなめ合うつもりはない。失礼する」
    学校には二度と来ないでくれ。次回は人違いだったものとしてフォローはしない。不審者として通報する。甘露寺と伊黒に余計な心配をかけようものなら絶対に許さない。
    激情は激情でも不死川が望んだものとは正反対の激情だ。
    「そうかよ」
    これほど感情をあらわにする煉獄を見たことがなかった。怒りと不信感溢れる表情はむしろ新鮮だ。
    当然のことながら連絡先を教えてもらえず、住所も電話番号も不可。これでは連絡の取りようがない。偶然を装って待ち伏せするしか手段がないと訴えれば、うんざりした顔をした。諦めろと表情で語っている。
    「では甘露寺たちにならって文通を」
    「住所ォ」
    「却下だ。教えるつもりはない」
    どうしろというのか。学校宛に封書で送ってやろうか。現状煉獄杏寿郎について知っていることとすれば、県外の学校名と学年だけだ。
    「そこの公園で。裏に回ればブロックに囲まれた隙間がある。小学生が秘密基地にするような場所だ。そこの排水管にでも詰めておいてくれ」
    回収日も時間も分からない置き手紙形式を、はたして文通と言えるのか。小学生に回収されればおしまいで、ろくな内容も書けやしない。雨に濡れても同様だ。
    必ず月一では確認しにいってやるという超絶上から目線の要望に、挑戦状をたたきつけられた気になって、「上等だ、コラァ」と売られた喧嘩を買った。



    月初めの水曜日、片道八十分自転車を走らせてボトルに詰めた手紙を排水用のパイプに押し込んでいる。
    いつ回収にくるのか分からなくて、初めは毎週のように様子を見に行っていたら、二週目にようやく回収されていた。しかしそれが煉獄の手によるものか、放課後にゲームを片手に集う小学生によるものかが分からない。念のためにガキどもの手に届かない高い位置の排水用パイプに突っ込んだ。煉獄が見つけるかどうかも心配だったわけだが、月末になって不死川が入れたボトルが同じ位置に詰め込まれていた。
    「!!!!」
    慌ててボトルを取り出すと、中には一枚の折り紙が入っている。青色の折り紙で、便箋でもルーズリーフでもない。
    自己紹介から過去の話題をギッチリ書きつめて、今でも剣道をやっているのか三枚に渡ってしたためた不死川は、己の前のめり加減に居たたまれない気持ちになった。
    『過去の話をするつもりはない。剣道は父の道場で幼少からやっている。煉獄杏寿郎』
    一ヶ月待ちに待った回答としては恐ろしいほど簡素だった。右下に「1」と記されているのは二枚目を書くつもりがあったのか。男子高生にしては整った字面に煉獄の面影を思い出す。
    どうやら無事に手紙は渡っていたことだし、一応文通という土台は整った。


    それから不死川は翌週にまたボトルを詰め、今度は二週間後に様子を見に行ったが中身は変わらず、月末になってボトルは回収された。この文通は月一ペースが基本らしい。
    「数字おかしくねェ?」
    煉獄からの水色の折り紙には「3」の数字が記載されていた。ページ番号でも日付でもなく、謎の数字だ。その理由を手紙で聞いたが無視された。
    部活のこと、勉強のこと、そっちの街でのうまい店。そういやおまえ芋好きだったもんな、なんて話を振れば次の手紙からはバッサリとその話題が無視される。
    それほど煉獄にとって過去の記憶というものは耐え難いものなのか。仮に不死川と関係があったことを嫌悪しているとして、甘露寺や伊黒の話題さえ無視というのは違和感に思えた。
    『青系の色が好きだ。弟から折り紙をもらうのでそれを使用している』
    見た目はあのころと変わらないくせに、中身は本当にただの男子高生で、赤や橙よりも青や黒が好きだという。緑はどうかとギリギリの問いには『好きでも嫌いでもない』との返答だ。
    秋を迎えるころにはボトルを回収するペースも分かってきた。煉獄がうまいと言った店に行って感想を書く。部活の試合で勝ったと聞けば、一ヶ月遅れでおめでとうを伝える。冬が来て、春になっても文通のペースは変わらない。右下の数字は「0」だったり「1」だったり、規則性は見当たらないままだ。


    六月になって、ちょうど一年が経った。よくもまぁこんなやり取りを続けたものだ。伊黒と甘露寺は正式なお付き合いをはじめたというのに未だに文通も続けていて、月に一度のデートを楽しんでいるらしい。
    「いつまで、って考えたら頃合いだよなァ」
    煉獄の態度は手紙を通じて朗らかになったかと言われれば変わらないままで、仕方なしに付き合ってやっているという意思がペラい折り紙を通じてヒシヒシと伝わってくる。こうまでして文通を続ける意味があるのか。
    話をしたいという願いはあらかた叶った。病気もなく健康、学校では笑顔絶やさぬ人気者(伊黒経由の甘露寺情報による)、顔を合わせたのは一年前の殴り込みのときだけ。不死川は高校三年になった。授業と補講が激増し、月一で片道八十分は良い気分転換にはなったけれど、これからさらに補講が詰め込まれれば都合を付けることも難しい。
    最後にするつもりで書いた手紙をボトルに入れて排水用パイプを覗くと、いつもは空っぽのパイプに別のボトルが詰まっていた。
    「なんだァ?」
    蓋を開けてみれば中には赤色の折り紙があった。それから「1」「3」。間の数字が抜けて「0」「1」。その下には一から十二の数字が記されている。三と七の隣に「-」の記号。暗号か。いや、これは──。
    暗号と呼ぶには余りに簡単な、けれどこの十二ヶ月を統括しなければ導き出せない答え。
    不死川は持参した手紙をカバンの中に突っ込んで、一目散にペダルを漕いだ。片道八十分をもう一度。


    自宅に戻り引き出しにしまっていた十二枚の青色折り紙をバサバサと机に並べる。赤色折り紙の通り並べ替えて、スマートフォンのロックを外した。
    「0、7、0……」
    手紙を照合しながら数字をタップして十二桁打ち込むと、そのまま通話ボタンを震える指で叩く。
    数度のコールのあと、懐かしすぎる声が聞こえた。いつかの不信感に溢れた声と違う、不死川にとって懐かしいと感じる声だ。
    しかしここで鼻息荒く言葉を間違ってはいけない。この一年で、煉獄が望むことを数少ない文字から知ったはずだ。
    「よォ……はじめましてだなァ」
    手紙では何度も話したけど、と続ければ、スマホの向こうの声が笑ったような気がした。
    『やぁ、煉獄杏寿郎だ。毎月手紙をありがとう』
    あぁ、クソ。こいつと友達になれて嬉しいとか、声が聞けて涙が出るとか、これからは手紙を入れるのが難しくなるのにだとか、何から話せば良いのだろう。
    懐かしく愛おしい声に、湧き上がる感情を押さえつけなければならないなんて、試験問題よりも難題だ。





    「兄上!今日はひこうきを作りました!」
    橙色の折り紙で作ったひこうきを見せてくれる弟は、愛らしさ溢れる笑顔で兄に毎日贈り物をする。赤、橙、黄、白、自身の髪色と同じ暖色系の折り紙ばかり選んで、毎日工作という名の折り紙を差し出してきた。ただ丸めただけで「たこやき」という日もあれば、折り目ばかりつけてぐちゃぐちゃになった固まりを「お花!」と宣言することもあった。余りに数が多いので両親は処分に困っていたから、杏寿郎への贈り物として今は一手に引き受けている。
    「すごいな、千寿郎!飛ばしてみよう!」
    「はい!」
    自室の大きな箱に千寿郎からの贈り物は全てしまってある。暖色ばかり使った作品が多く、青や緑は稀だった。
    「千寿郎、青色の折り紙が余っていたら一枚もらえるだろうか?」
    「いいですよ、たくさんあります!」
    折り紙ケースの下の方に追いやられた寒色系折り紙は、千寿郎が「兄上は赤色が好きだから」という理由で作品制作から除外された色だ。
    「何をつくるんです?」
    「手紙を書こうと思って。少し遠いところにいる友人に」
    「赤じゃなくて?」
    「あぁ。いいんだ、これで」
    運命の導きだとか、過去の記憶に引き寄せられてだとか、そんなことにロマンチックを感じると思ったら大間違いだ。運命なら抗ってやりたい。顔を見た瞬間に泣きそうになるほど愛おしく思える男がいるなんて信じたくない。
    引かれたレールにはとことん逆を向いて、突き放して、それで砕けるような運命ならそれまでのものだから。

    でももし一年続いたのなら。
    スマホの普及するこの現代で、一年耐えることが出来たなら。
    そのときは、運命だとか記憶だとか、そんなもの関係なく口説いてやればいい。

    ただの高校生の煉獄杏寿郎として、あの男に言ってやる。

    「はじめまして」






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