貴方の心臓が欲しいヘクトールの指が、とんとんと俺の胸を叩く。急に部屋に来たかと思えば、仰向けで寝る俺の上に上がり込み、先程からとんとん、とんとんとその動きを繰り返している。
「……どうしたなんかあったのか」
「べつに」
嘘だろう。今日は特異点への出撃だったはずだ。帰還は何日後になるのかわからない、と告げていた口は今では拗ねるようにすぼめられていた。
手にしていたプロレス雑誌を放り、ヘクトールの背に手を回す。存在を確かめるようにぎゅうぎゅうと抱き締めれば、小さくぐえ、と声がした。
「……慰めがほしいのか」
「……べつに」
「じゃあ何がほしい」
「……じゃあ、君の心臓がほしい」
「……くれてやろうか」
その答えにヘクトールが顔をあげ、俺の顔を見た。
「アンタに、俺の心臓、くれてやろうか」
驚きで見開かれた目が俺を見る。戸惑いと絶望の顔だ。俺がそんなことを、言うとは思っていなかったのだろう。
俺の胸を叩いてた指先を握り、押し付けるように固定する。
「欲しいんだろ」
ぎりぎりと自分の肌を貫くように力を入れれば、痛みに耐えかねてヘクトールが手を振りほどく。
「……何考えてるの」
本気じゃない、と言いたげな困惑の
視線をヘクトールは浮かべている。
「お前のこと」
振りほどかれた手をつかみ、指先に口付けをする。
――いつだって、俺はお前のことで頭が一杯だ。