ある日の夢⑤私は逃げていた。
私を追ってくるのは、名前のわからない巨大な化け物だった。
振り向いたらその恐ろしい姿が見えてしまうのが怖くて、私はひたすらに前を向いて走った。いくら走っても化け物は追ってくる。やがて肩に、ぽん、と化け物の手が置かれる。振り向きたくないのに、顔が勝手に後ろを向く。
化け物は小平太の姿をしていた。
「……っ!」
目を覚ますと森の中だった。どうやら忍務中に仮眠していたらしい。
「よく眠っていたな」
低い声で小平太が呟く。不寝番をしてくれていたのか。
「また悪い夢を見たのか?このところ多いだろう」
「……すまない、交代する」
「そうだな、そろそろ」
小平太がちらりと歯を見せて笑った。
「本当に目を覚ましてはどうだ?」
とん、と肩を押される。
足元の地面が消えた。ひゅう、と耳元で空気を切る音がする。落ちている。これも夢だったのか。
浮遊感に首筋の毛が逆立つ。どこまでもどこまでも落下する。
やがて、どん、と地面にぶち当たった。
「……っ!」
うっすらと目を開く。
「あ!目が覚めた?」
伊作が笑いかけてくる。ここは……医務室か。
「私は……」
「覚えてない?ケガした小平太を庇って、長次も死にかけたんだよ。ほんと危なかったんだから~!」
そうだ、覚えている。大量の血を流して真っ青になった小平太の顔。自分の震える手と荒い呼吸。
そうか、今までずっと、夢の中で夢を見ていたのか。
「……小平太は」
声が掠れた。
「ん?たぶんそろそろ来ると思うよ。……あ、ほら」
廊下を人の気配が近づいてくる。
自分の心が作り出した幻影ではない、本物の。
私は一度目を閉じ、そして開いた。