ベル旬習作 架南島での戦いが終わった。本土に侵入した蟻たちも、多くのハンターによって大半が駆除されたそうだ。しばらくは死体の後片付けに追われ、ハンター協会周辺も慌ただしい日々が続くだろう。黙って出て行き、中継で居場所がバレた葵にそれはもう怒られた。取っ組み合う――正確には一方的に俺がシバかれただけだが――兄妹をおっとりと引き剥がし、夕飯にしましょうと提案をしてくれた母の助け船に感謝した。
家族におやすみの挨拶をすませ、自室のベッドで一息つく。月明かりに照らされ、伸びる影を見下ろすと幾つかの影と目が合った。その中で一際するどい形と目を合わせ、なるたけ静かに声を落とす。
「ベル、出てこい」
母たちと夕食を囲んだ時から、ざわざわと揺らめく影が気になっていた。初めての、言葉で意思疎通ができる影だ。影の領域には慣れたか、他の影たちとはうまくやれているかと尋ねてみたいこともあった。
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