生徒×家庭教師「それでは、今日はここまでにしよう」
「今日もありがとう、真田」
大学2年生の真田弦一郎は、幼馴染である高校3年生の幸村精市の家庭教師として宿題や受験に使う科目をみている。正直、幸村は大学受験のための学力にはそこまで困っていない。それでも週に3日程度真田が幸村家に通うのは、幼少の頃より幸村が真田に想いを寄せているからだ。真田は次男のくせに、何かと兄貴面して幸村を構おうとする。現在高校生の自分が想いを伝えたとて、真田にあしらわれるだけだ。今は機が熟すのを待つしかない。真田の大学での動向を監視する意もあり、親に頼み込んで真田を家庭教師につけてもらっている。
真田は筆記用具を片付けると、そういえばと幸村に自身のスマートフォンを見せながら訊ねた。
「幸村、このSNSのコードというのはどうやって読み込むのだ?」
「SNSのコード? どうしてだい?」
真田の手元を見ると、誰かのスマホ画面を直撮りしたような画像が映されていた。
「大学の構内で、悩みがあるので話を聞いてほしいと声をかけられてな。SNSを交換してほしいといわれたのだが、やり方がわからんのだ」
「……その、声をかけてきた人は初対面の女性かい?」
真田はきょとんとした顔で、「そうだ」と答える。幸村は回答を聞いて、大きなため息をつきたくなったが、慣れた手つきで画像を完全削除すると真田にスマートフォンを返した。
「幸村、コードとやらの画像が消えてしまったのだが」
「消えたんじゃなくて、消したんだ」
立ち上がって「どうしてだ幸村」と焦る真田を見ると、腹の奥の方がスッと冷たくなるような感覚を感じる。
「真田、こういうことには応じないほうがいい」
そう言いながら、真田のSNSの連絡先をチェックする。祖父、父、母、兄、佐助……。よかった。まだ変な虫はついていなさそうだ。
「連絡先を海外の怪しい場所に売られてしまうよ」
「そうなのか。すまない、危ないところを助けてもらった」
こんな見え透いた嘘まで信じてしまう真田。扱いやすいけれど、どこかで騙されていやしないか心配になってしまう。
「真田、今後SNSを交換しようといわれたら、俺に相談してくれるかい?」
「わかった、幸村に相談しよう」
「……そうだ真田、次の歴史の試験で100点をとったら、ご褒美がほしいな」
「褒美か? 何がいい」
幸村は顔回りの毛をそっと耳にかけ、真田の耳朶を触る。ここまで触っても「どうした?」という顔しかしない真田に、絶対そのうち意識させてみせると心に誓いつつ、幸村は「おそろいのアクセサリーが欲しい」と言った。
「アクセサリー?」
「ピアス、指輪、なんでもいい。真田と俺だけの、お揃いのアクセサリーが欲しい」
明らかにペアのアクセサリーを付けたら、真田の周りに集まる虫を追い払うことができるかもしれないと思っての提案だった。……もしかして、「くだらん」と一蹴されるか? そう思ったが、真田は「いいだろう」と言った。
「嬉しいな。俺、頑張るから、いいものを一緒に買いに行こうね」
真田にはシルバーが似合うだろうな、そう思いながら自宅に帰る真田を見送ったのだった。
後日、しっかりと100点満点をとって、真田とペアリングをつけることになった幸村についてはまた別の話。