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    PN_810

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    PN_810

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    秋の、子尊と雑の看病期間の話。
    ほんのり雑→諸。
    尊奈門のことを坊と呼んでいます。

    #雑諸
    miscellaneousThings

    雑諸③山の木々が色づきはじめ、庵の庭にも赤や黄の葉が舞い降りる。
    風は少し冷たくなってきていたが、陽だまりはまだ暖かい。

    雑渡昆奈門は、小さな囲炉裏の前で、そっと湯呑を置いた。
    番茶の香ばしさが立ちのぼり、秋の空気にとけていく。

    「こんなもんさま、お外、行きませんか?栗が落ちてきてるかもしれません」
    「ほう…坊は栗が好きだったな」
    「はい。でも今日は、拾ったら、こんなもんさまにも食べてもらおうと思って」
    「うん、ありがとう。それじゃあ、付き合おう」

    もう歩くのにも慣れてきた足取りで、雑渡は坊の後を追う。
    ふたりで拾い集めた栗は、小さな布袋にいくつも溜まっていく。

    「ほら、見てください。この大きいの」
    「ふふ…坊の手の中にあると、なおさら大きく見えるな」
    「えーっ。もう私、手、大きくなったんですよ? ほら」

    ふいに、坊が自分の掌を雑渡にぴたりと重ねた。
    小さかった手は、いつの間にか少し骨ばって、細長くなってきている。

    「…本当だな。坊は、少しずつ大人に近づいている」

    その言葉に、坊は一瞬だけ、何か言いたげな顔をした。
    だがすぐに、いつもの笑顔に戻って、笑いながら栗を一つ手渡す。

    「はい、こんなもんさま。焼いたら半分こです」
    「いや、坊が食べなさい。私はそれを見ているだけで――」
    「――ダメです」

    珍しく、坊の声がぴしゃりと強くなった。
    驚いて雑渡が顔を見ると、少し頬を膨らませていた。

    「いつも私ばっかりに食べさせて…ずるいです。こんなもんさまも、ちゃんと美味しいって言ってください」
    「…ああ。そうだね。では…ふたりで一緒に、いただこう」

    頷くと、坊の顔が嬉しそうにほどける。
    その笑顔を見て、雑渡はまた一つ、自分の中に何かが戻ってきたような気がした。

    夕暮れには、庵の灯がともる。
    その橙の灯りの中で、ふたりは並んで栗を焼く。

    「こんなもんさま、今日は…歌、いりますか?」
    「ふむ…いや、今日は…坊の笑い声を聞いていたい。よく笑うんだよ」
    「…それなら、こんなもんさまが、先に笑ってください」
    「それは、難題だな」

    そう言いながら、自然と漏れる笑みがあった。
    坊が、それを見てさらにくすくすと笑う。

    秋の夜は静かで、長い。
    けれどその中で、ふたりの灯は確かに、やさしく揺れていた。
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