ラギアズおひるね「隣、いいっスか?」
「……え?」
アズールが返事をするより先に勝手に布団がめくられた。状況を把握するよりも前にラギーは遠慮なしに身体を密着させてくる。
──これは、どういうことなんでしょうか──
何か少しでも拒否しておくべきだったのか。しかしアズールは咄嗟のことに何も言葉が出てこない。
それでもラギーの体温は思いのほか心地良く、この状況を自分が嬉しく思っていることにアズールは困惑した。
──まさか、僕がフロイドやジェイド以外と同衾することになるとは……もちろん添い寝以上のことは誰ともしたことはないですが──
そのまま何も言わず目を閉じてしまったラギーの顔を見ようとしたけれど何となく気恥ずかしく、アズールは仕方なくフサフサの毛に覆われた獣人族の彼の耳に目線を逸らした。
眼鏡を外しているのではっきりとは見えないものの柔らかそうなそれは、ラギーの呼吸に合わせてほんの少しだけ揺れているように見える。
再びアズールが眠気に襲われて、このまま目を閉じようかと思ったところで、その耳がはっきりピクリと動き、ラギーがゆっくりと瞼を上げた。
「なっ……!」
「……ん、どうしたんスか?」
ずっと見ていたのがバレてしまった、という気まずさにアズールが何も言えないまま口をパクパクさせて困惑していると、ラギーは唐突に話し出した。
「オレはずっとアズールくんが欲しかったし、アズールくんはここんとこ調子悪そうだったし……お互いに、こういう時間は必要っスよ」
欲しかった、という言葉に、アズールの心臓が跳ねた。
反応に困ったアズールはとりあえず病人らしく目を閉じて苦しそうな表情を作ることでやり過ごそうとし、しかし、やはり問い質すべきか? と思い至った。
──こういう時、どんな風に尋ねるのが一番適切なんでしょう? ──
言葉を捻り出そうとしたものの、何も思い付かない。好意を寄せたり寄せられたりという経験が、自分にはあまりにも少ないのだ。
結局、単刀直入に聞くことに決めた。
今のは、どういう意味なんでしょう?
……そう言いかけて、アズールは彼の寝息に気づいてしまった。
「全く、あなたという人は。勝手にやってきて、無断で隣に潜り込んで、言いたいことだけ伝えて、また眠ってしまうだなんて」
──ラギーさん、あなたの言った「欲しかった」という言葉には、深い意味は無かったのかもしれません。しかし、僕は──
思い付く側から、言葉は微睡みと共に消えていった。
【END】