【座チヒ】無題どこで間違えたのだろうか。
炎がちらつく。視界を埋め尽くすようにある、屍の山。流れ出る血は川のように、赤黒い道のように筋を作って拡がっていく。
息を吸う。血生臭さが鼻腔にへばりつき腐っていくようで、楽になるどころか息苦しさばかりが募った。
(――ああ、ここは)
地獄に堕ちたようだと、自虐するように笑う。
俺達は、どこで間違えたのだろうか。
刀を握り替える。眼を閉じ、目蓋に刃を添えて、上下に引いた。焼けるような熱さと痛みを、他人事のように感じる。反対側の瞼にも、同じように刃を当てる。
どこで間違えたのだろうか。
ブツリと音がして、光が消えた。
戦争は続いた。刀を振るう手を止めることは許されなかった。
光を失った世界では、視覚が使えない分、嗅覚や聴覚、触覚が強まり、臭いや音、気配が全てを構築した。見えなくなったことを補うために、肉や骨を断つ感覚、鼻を侵す血臭は否応なく増し、より実感を湧き起こした。
俺達は、人殺しであるのだと。それも数え切れないほどの人間を斬り捨てた、大量殺戮者なのだということを。
いくら人を斬り捨てても、六平の打った妖刀飛宗は、普通の刀のように血脂で切れ味を損なうことはなかった。逆にそれは、まるで人の血と魂を吸い上げ成長でもしているかのように鋭くなり、斬れば斬る程に威力を増した。
この戦争を終わらせる。そのために刀を握った。これ以上犠牲を増やさないために、平和な世のために、俺達は戦いに身を投じ、刀を振るったはずだった。
どこで間違えたのだろうか。俺達は、俺は、何を、どうして。
足を踏み出せば血溜まりに染まり、肉を踏む弾力が伝わってくる。
戦争の終結を願った。平和を想った。これ以上誰も泣く者がないようにと、悲痛な怨嗟の応酬が終わるようにと、終止符を打つために、六平から妖刀を受け取った。
目が見えなくなったところで、背けられるものではなかった。いっそ生々しく、掌に、鼻に、耳にこびりついて離れない。
(ああ、ここは)
紛うことなく地獄だった。
その子供の匂いは、六平そのもののようによく似通っていた。
触れた肌はまだ柔く、頬は丸みを帯びていた。穏やかで尖ったもののない、甘く優しい気配。
戦争を知らない子供。
「俺達ァ、大量に人を殺したんだ」
この子供もいつか、堕ちてしまうのだろうか。
「じゃあ、憧れはやめて、尊敬にします」
(……ああ)
願わくは。せめて、無垢なこの子は。
「取引をしよう」
男が笑みを浮かべ、持ち掛ける。
地獄に堕ちるなら。
(……俺達だけで十分だ)
もう、終わらせたかった。