逆バニー「来ないな」
「来ないなぁ」
「…………」
「…………」
黒識本丸、姫鶴一文字鍛刀は失敗した。
識と一文字則宗はぼやき、山鳥毛と声を出せない黒獣は無言。
来ない時は来ない、とわかっているので今回は天井を決めていたが来ない。
黒識本丸は兼業本丸なので、本業が忙しいので数を絞ったのもあるが。
主達だけではなく、刀も本業を手伝っている。
「バニーで鍛刀すれば来ると言う噂、あれを実行した本丸もあるようだな」
「日光の時に試したが、失敗した」
「私と子猫も着たが……顕現した瞬間に見るものとしてはあまりおすすめ出来ない」
「大きいのを選んでみたが、隠しきれないぞあれ……通常でもきつかった」
風呂で識のあれは見たことがあるが、通常時でもえぐい大きさで、よくうちのはあれを受け入れられるな、と妙な関心をしてしまった。
四つ目屋(あれそれ扱う店)で展示されていた淫具を見て「小鳥のより小さいのばかりだな」と言って店の空気を氷点下にしたらしいが。
「試したのか……逆バニーというのもあるぞ」
聞いたことのない単語に首を傾げる識と黒獣。
顕現歴が長すぎる無駄知識が豊富な監査官の御前に、渋面の山鳥毛。
端末を叩いて調べた黒獣が、これ?と端末を差し出した。
端末を覗き込んで、なんとも言えない表情の識。
表情筋が死んでいる黒獣はいつも通りだが、困惑しているようだ。
「バニーだと隠れている部分が露出している訳か。尻尾もあるが、これはもしかして……」
「尻尾に張り型をつけて、尻に入れているのさ」
「絶対に逆バニー着ないからな」
同意、と頷く黒獣と山鳥毛。
識も黒獣も入れる側、なので入れられるのはご遠慮したいらしい。
「山鳥毛にも着せないからな」
山鳥毛は識の鞘になっているので、参考画像の張り型よりも太いものを受け入れているのにお断り。
恋仲の相手のこういう淫らな服装はそそるものらしいが、お断り。
「おや、試すんじゃないかと思ったが」
「山鳥毛に挿れていいのは僕だけだ」
「私も小鳥にしか挿れられたくない」
淫具に嫉妬してるのかこの主と刀。
本業が忙しくて、どちらも徹夜続きでタガが外れているのかもしれない。
一緒にいるが忙し過ぎて、夜戦がご無沙汰らしいのは知っているが。
欲求不満の山鳥毛から色気が隠せなくなっている。
山鳥毛発情してる、と黒獣が端末に打ってみせてきた時は苦笑い。
「尻尾なしでも、顕現した時に見るもんじゃあない、になりそうだからやめておくか」
自覚があるだけに、それ以上何も言えない面々だった。
姫鶴一文字キャンペーンが終わった次の日。
日光一文字の鍛刀が始まった。
忙し過ぎて、日課分だけ鍛刀の予定にしていた。
2日目、忙しすぎて目にクマを飼っている識と山鳥毛と黒獣と御前で鍛刀した時だった。
待望の時間のはずだが、今回も来ないだろう。
そう思っていたのに、出来た刀は日光一文字。
全員寝不足極めて限界だったので、幻に違いないと思って顕現せずにそのまま。
翌日、改めて見て幻じゃないとわかると識と黒獣、どちらが顕現するのかで保留になったのはまた別の話。
「日光が来ると、識との時間が減るのを恐れてたんじゃなかったのかい」
一文字の頭が無意識でもそう望めば、聡い日光は来ないだろう。
「恐れてはいたが……その……小鳥と……時間が」
もごもご口籠もる山鳥毛。
「我が翼がいたら……余裕が……と本当に少しだけだが」
本当にその少し、を油断なく日光は利用したのだろう。
望まれましたので、と言い切るのが目に見えている。
主とまぐわう時間が欲しいから、で望まれたのはなんというか……いたたまれないが。