クロウとシオンが映画館に行くだけ「一緒に映画に行かないかい?」
シオンさんの言葉に私は即座に断りを入れた。何が悲しくて男二人で、だとか、別にあなたとは友達でもなんでもないから、だとか、そういうのではない。単純に、そんな時間があるなら仕事がしたかった。
「行きませんよ」
「どうして?」
「仕事があるからです」
行く理由もありませんし。そう返せば、シオンさんはふむ、と口元に手を当てて、その整った顔を悪戯に歪めてみせた。
「それならクロウ、一緒に行ってくれたらクロウが知らない秘密を一つ教えてあげよう」
「……どうして、そんな条件で私が行くとでも?」
私がスパイであることは誰にも言っていない。まして、こんな信用も信頼もできない胡散臭い男になんて。
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