染岡竜吾はムラムラしていた。なにしろ人並み以上に体力のある成人男性だ、そういうときも大いにある。むしろ今までさほどムラムラを持て余さずにすんでいたのは、いつもはパートナーから誘われることが多いからだ。そう、少年時代には雪原のプリンスと呼ばれていた、あの吹雪士郎である。
「染岡くん、おやすみ」
電気を消した吹雪はにこりと微笑んで染岡の額にキスを落とし、キングサイズのベッドの片側に潜り込んだ。動く気配もなくそのまま寝る体勢になっている。こうしてただ隣で眠るだけの日々が続いているのは、実は染岡が原因だった。
しばらく体調が悪かったのだ。胃腸炎になってしまって。初めての経験に苦しみもがいてだいぶ吹雪を心配させた。それは逆の立場だったら染岡だって言い出しにくい。もうすっかりよくなったからセックスしたいと、自分から申し出たほうがいいのはわかっているが。
(言……えねぇって、んなこと)
あいにく生来の照れ屋だった。言葉よりは態度で示すほうがまだマシだと思い、染岡はまだ吹雪の呼吸が寝息になっていないタイミングで、こちらに背を向ける彼を後ろからそっと抱きしめた。
「…………」
吹雪がみじろぎする。染岡が「吹雪……」と名前を呼ぶと、吹雪は少し間を置いてから、
「……どうしたの?眠れないの?」
とささやいた。これで通じるだろうとタカをくくっていた染岡は一瞬慌てたが、吹雪の声にイタズラっぽい響きが混ざっていることに気づき、憮然とした表情になった。
「お……お前な、わかってんだろ」
吹雪がくすくすと抑えた声を出しながら、染岡の腕の中でくるりと身体を反転させた。暗闇に慣れた視界でぼんやりと、吹雪が微笑みを浮かべているのがわかる。
「たまには言葉で聞きたいな。……ダメ?」
成人男性とは思えぬ愛らしいおねだりだった。染岡はぐぎぎと奥歯を噛み締めてから、観念したように声をしぼりだした。
「……しようぜ」
「何を?」
「セ……ックスだよ!」
最後はやけくそで、ムードも何もない発言だったはずだけれど。吹雪はうっとりと熱っぽく目を細めて、うん、といううれしそうな吐息とともに、染岡に顔を近づけた。
おしまい