だが、水ほど澄んでもいない。「血はさ、水より濃いって、言うじゃん?」
俺のタバコを勝手に漁りながら、弟はそう呟いた。赤のマルボロなんか、て言ってるくせにいつも貰いタバコをする。そう、こいつは俺の物を盗るのが得意だ。タバコならまだいいが、俺の服や靴も勝手に使う。
それから俺が寝た女に友達。あとは…まあ、実の兄の尻とか。
週末、今夜みたいにふらりと現れては「ヤラせてお願い」て言われるのも、もう慣れた。
さっきで弟のモノが入っていたそこをかばいながら、俺は狭いベッドの上で寝返りを打った。中出しされたせいで、中身が嫌な垂れ方をして腿を伝う。奥を突かれる気持ち良さに反比例して、気持ち悪いこの感覚。
自分と同じ体格の男の尻なんざ、何が良いのか、さっぱり分からない。
「いい言葉だと思わない?」
「…何がだよ」
弟は、ベッド端に座って向こうを向いてるので、その表情は分からない。無駄につけた背中の激しい爪痕だけが、目に入る。普通は痛いだろうに、俺の爪で引っかかれると、こいつは興奮するらしい。聞いてるこっちが萎えそうだった。
「血の繋がりはさ、」
マルボロに火をつけ、弟は咥えながら喋ってる。器用なヤツ。
「絶対に消えないだろ。いくら縁を切っても残る。紙きれでする結婚なんか、別れたら終わりだぜ?そんな薄っぺらい者より、ずっと濃いのが、血。最高じゃん」
「…」
何と答えたらいいか分からなくて、俺はうつ伏せになりながら枕を抱きしめて顔を埋めた。けれど枕からまで弟がつけてる香水の匂いがして、腹が立った。どこもかしこも、こいつに侵食されてる気がする。
「お前さあ、近親相姦なんでダメか知らねえの?遺伝子が劣化するからだぞ、繰り返してると」
「別に子孫残す気はないけど?」
「…俺のお下がり女とは寝るくせに」
「兄さんのお下がりだから、価値があるんだよ」
「お前キモチワルイ」
「その『キモチワルイ』奴に散々抱かれてんのは誰だよ。メスイキまで覚えたくせに」
「にいちゃんはお前は嫌いだよ…」
「別にいいよ。それでも、俺との血の繋がりは断てないから」
まだまだ残ってるマルボロを灰皿に押しつけて、弟はうつ伏せのままの俺に、覆い被さってきた。
「だからさ、兄さん。逃げ場なんか、ないんだよ」
髪を触って耳に触れて、弟は俺とそっくりな声で怖いことを呟いた。そうしてセックスの最中みたいに、耳を、甘噛みされた、もしかしたら、擬似的に食われているかもしれない。
「お前、こえーよ」
軽い絶望感を感じながら、逃げ場のない俺はそう言うしか無かった。