お疲れ様です、 です。最近嫌な夢を見る。悪夢と言うには優しく、憂鬱な夢だ。
「先輩!」
ああ、まただ。また君だ。
「ねえ、聞いてますか先輩?」
いつの間にか人間くん…この身体の持ち主の後輩が隣に座って、僕を覗き込む。
違う。僕は怪異画らくただ。真柄巧じゃない。いくら顔がそのままでも、間違うことなんてないだろう。まして後輩ともあろう人間が。
その目が嫌いだ。僕を見ているのに、その目に僕は写っていない。
腹が立つ。
目障りで仕方なくてその細い首に手を伸ばす。
人間は簡単に死ぬ。僕が手にかけなくても勝手に朽ちていく程に。
「っぐ、あ…」
酸素を求めて手足をばたつかせて、必死にもがく姿を見て少し溜飲が下がる。それでも、手に力を込め続ける。
しばらくして、それはピクリとも動かなくなった。
この光景を何度も見た。
一回目は、現実で会った時。
二回目は、同じ布団で寝ている夢を見た時。
三回目は、ご飯を一緒に食べている夢を見た時…
回数を重ねる度に、段々夢を見る頻度が増えて、何も無くても、この人間は隣に現れるようになった。
何度も。
何度も何度も何度も。
別に殺すのなんて大したことないはずなのに、確実に僕の精神は削られていく。ただの夢だと、もうこの世にはいないのだと言い聞かせるも、それが逆に現実で殺したと言う事実を際立たせて。
「ああ、あの時殺すんじゃなかった────」
────は?
今僕は何と言った?
殺すんじゃなかった?
いや、そんな訳ない。この身体を手に入れて、真っ先に殺しに行った。この身体の持ち主を1番に愛していた目障りで邪魔で仕方がない人間。
僕を見て、怯えながら「先輩を返して」と喚いていた。真柄巧に化けて甘い言葉をかけても、快楽を与えても、その目は憎悪に満ちていた。
それに無性に腹が立って…
気づいたら後輩くんは動かなくなっていた。
「先輩?」
……?
僕は何を考えていたんだ?
「ほら、ぼーっとしてないで行きましょう、先輩」
それは僕に手を差し伸べてきた。
また君か。
なぜこんなにも僕の夢を、眠りを妨げるのだろう。せめて僕を見てくれれば、満たされていたのに。
満たされなかったから、後悔しているから、こんな夢を見ているのだろうか。
「ねえ────」
「どうして僕を見てくれないの」
気づけば口にしていた。
でも後輩くんには全く届いていないようだった。
本当に。
本当に嫌いだ。
僕は、僕は……
僕は?
違う、僕は、「画らくた」で、怪異で……
突然、人格が裂けるような、言葉にできない感覚に陥った。苦しい。違う、これはただの夢だ。……本当に?
「はっ……ぁ…」
まるで夢から弾き出されたみたいに目が覚めた。
呼吸が乱れて、短く息を繰り返す。
「随分と気持ちの悪い夢を見たな…」
指先に、まだ首の感触と温度が残っているような気がした。
「そうだ、撮影。そろそろ動画撮らないと…」
フラフラした足取りでパソコンに向かう。
カメラ等を起動し、撮影の準備をする。
「お疲れ様です……あれ、えっと…」
喉の奥で言葉が詰まる。何かがつっかえて声が出ない。
「なんだよこれ…」
訳も分からずボロボロと涙がこぼれていく。
何も悲しいことなんて無いのに。
「どうしてこんなに苦しいんだろう…」
カメラを止める。こんな僕じゃ受け入れて貰えない。
もう一度寝ようかとも思ったが、またあの夢を見ると思うと眠れる気がしなかった。あのまま夢に飲まれたら、僕が僕ではなくなってしまう気がするのだ。もうあんな夢は見たくない。
「本当に、どうして僕は君を諦められないのかな……」