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    m_ni_3

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    m_ni_3

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    読まなくていいです
    殴打じゃなくて甘やかし
    深夜テンションGO

    身体が重い。重力がいつもより強く感じる。
    床に倒れ込んでからどれ程の時間が経ったのだろうか、とても起き上がれる気にはならず、空になった薬の瓶と散らばった薬、もう何日も前から積み上げられた酒缶の山を横目で見る。
    少し離れたところには、衣服や食べ散らかしたコンビニ弁当のゴミが床に転がり、ここ数日、洗濯どころか片付けすらしていないことに気づく。
    しかし、気づいたところで薬を飲み過ぎて動かなくなった身体ではどうにもならない。
    段々と考えるのが面倒になり、天井をぼんやりと眺めていた。
    私は定期的に心を病んでは、こうして部屋を散らかして、布団にすら入らず床で眠れない夜を過ごしていた。
    そんな惨状の中でも生きていけるのは、最近ハマっているVTuber、「画らくた」と言う怪異のお陰だった。
    いつか私の元へ来てくれるのだと信じて、毎日をやり過ごしている。
    きっとお兄さんなら、薬の用法用量を守らない馬鹿な私も、腕がボロボロの私も、呆れながら許してくれる。そう思うのだ。
    「こんな時、助けに来てくれればいいのに…」
    私の想像する「救い」は一般的なものと相反することはわかっているが、最早それ以外この身体は求めていなかった。
    愛ゆえの暴力が欲しい。
    そう切に願っているのだ。
    ふと遠くの方でガサガサと音が鳴っていることに気づいた。確かそっちは、ゴミ出しに行くのが面倒でゴミ袋にまとめるだけまとめた物が放置されていたはずだ。
    嗚呼、ついにネズミでも出たのかと思いながら、もう一度天井を見つめる。
    気づけば音は止んで、部屋はまた静かになった。いい加減ゴミ出しをしに行かなければ…せめて、今自分の横にある酒缶と薬瓶を片付けないとと思い、横を向くと人がいた。いや、正確に言うと人では無いが…今自分が一番求めている存在が、目の前にいたのだ。あまりの衝撃に目を見開いて固まっていると、それはしゃがんで、私と目線を合わせて来た。
    「なんだか呼ばれてる気がして、遥々遊びに来たんですけど…なんですか、このゴミ屋敷一歩手前みたいな部屋。せめて綺麗にしてから呼んでくれませんか?」
    まさか、本当に画面から出てきたというのか。私が呼んだ声が聞こえていた?原理は全く分からないが、怪異だからなんでも有りなのだろうか。いや、それ以上に今、私の人生史上最も汚れている部屋を見られたと思うと、帰って欲しいと思ってしまう。確かに呼んだ、と言うよりも独り言のつもりだったのだが、本当に来てくれるとは思ってもみなかったのだ。恥ずかしい。
    固まったまま何も言えずにいる私を見て、お兄さんはクスクスと笑った。あ、可愛い。
    「それで?助けて欲しいんでしたっけ、本当に人間くんってどうしようも無い個体ばかりですよね…片付けぐらいしたらどうなんですか。そっかぁ…もう自分の世話もできなくなっちゃったんですね。ふふ、可哀想に。 普通にセルフネグレクトだと思うので相応の医療機関にかかった方が良いと思いますよ」
    こうやって、甘やかすような仕草を見せながら、正論を浴びせてくるお兄さんが大好きだ。
    「好きです」
    結局言葉が見つからず、思ったことをそのまま口にした。
    「…話聞いてました?」
    溜息をつきながらお兄さんは私に手を伸ばす。反射的にその手を取ると、思い切り引っ張られ、重い身体が起き上がる。ようやく身体が重力に逆らう気になったのか、ぐらぐら揺れながらも立ち上がる。お兄さんは何か呟いていたが、転ばないように歩くのに必死で何を言ってるかわからなかった。所々に缶が落ちていて足場が悪い。お兄さんの歩幅が大きすぎて、私は半ば引きずられるように歩く。
    「わっ」
    さっきよりも強く腕を引かれ、転んでしまった。びっくりして目を閉じたが、想像していた衝撃の代わりに、ふわふわしたものに包まれる。目を開けるとベッドの上だった。ここ数日床で気絶するように寝ていたからか、ベッド周りは比較的綺麗だった。掃除した記憶はないが、仄かに柔軟剤の香りがする。
    ギシッと経年劣化した音がスプリングマットレスから鳴る。ベッドにうつ伏せになった私を、隣に腰かけたお兄さんが見下ろしていた。
    「床だと可哀想だなと思って…やっぱり、最近の僕、良心的になったと思いませんか?……どうでもいいですね、はい」
    「い、いえ、優しいお兄さんも、意地悪なお兄さんも私は好きです」
    とは言いつつも、優しくされすぎると申し訳なくなってしまうから、意地悪でいてくれた方が楽なのだが、それは心の奥にしまっておく。頭の触覚はこちらを向いているが…
    「ふーん…まあいいか。人間くんは助けて欲しくて僕を呼んだわけですが、具体的には何をして欲しいんですか??」
    「えっ、あっ」
    「まさか一緒に寝るだけ、なんて舐めたこと言いませんよね?♡♡」
    まさか本当に来るとは思っていなかったから、何も考えていなかった。いっその事殴って欲しいと素直に言ってしまおうかと思ったが、実際にお兄さんを前にすると、とても言える気がしなかった。
    「散々願って日和るとか…本当に弱いですね。そんな自分の欲望も満足に言えない可哀想な人間くんを、怪異である僕が優しく、優しく甘やかしてあげましょうね♡♡」
    「えっ…」
    甘やかす?甘やかすって、何をするつもりなのだろうか。怯えつつも若干期待をしているせいで、お兄さんから目が離せない。
    「とりあえず、仰向けになって貰って…」
    そう言いながら、お兄さんは私の肩を掴んで仰向けにした。ぐるーっと視界が回って、天井とお兄さんの頭が見える。
    「よーしよーし、人間くんはいつも頑張ってて偉いですねー」
    撫でられている。頭を。予想外の出来事に混乱してしまう。撫でられて嬉しい気持ちと、自分の望んでいるものと違う気持ちで、ぐちゃぐちゃになる。
    「あの、嬉しいんですけど…そうじゃなくて…」
    やっと絞り出せた言葉も弱気すぎて嫌になる。こういう時ぐらい我儘になれなくてどうする。
    「ああ、撫でるよりも頭かき混ぜた方が良かったですか?」
    撫でていたお兄さんの手が、頭の中に入ってくる。気持ちよさと、気持ち悪さが同時に来て、さらに冷静さを欠く。asmrで何回も見たはずのシチュエーションでも、実際にされると全然違うのだ。
    違う、本当にして欲しいことはこれでは無い、そのはずなのに、お兄さんから与えられる快楽によって、上書きされていく感覚が確かにあった。
    段々頭がぼーっとしてきて、考えることをやめてしまった。ただ、頭を直接撫でられているような感覚が心地よい。
    「自分の意思を伝えられないどころか、流されやすいときましたか…本当に弱くて、ダメダメですね、人間くん…まあでも、僕はそんな人間くんでも可愛がってあげますよ。こんな一歩間違えたら死ぬ状況で、身も心も許しちゃう馬鹿なところも可愛いですね」
    もう色々とどうでも良くて、可愛いと言われて嬉しいとしか思わなかった。上機嫌になっているのか、自然と口角が上がっている気がする。
    それでも、どこか満たされない切なさを感じて、心が寂しいような感じがした。
    触覚から私の思考を覗いてわかったのか、お兄さんは手を止めて、顔を覗き込んできた。
    「どうかしましたか?なんか…満たされないって顔、してますね」
    優しくなんてしないで欲しい。大事にする価値なんて私には無いのだ。でも、声に出すのが怖い。
    「それじゃあ、一回だけチャンスをあげます。一回だけですよ?……人間くん…僕に何をして欲しいですか?」
    「……優しくしないで欲しい」
    「っはは、本当に人間くんっておねだりが下手ですね。自分の価値を疑って、自分に対して暴力的になるしかない可哀想な人間くん…僕は優しいので、そんな君も受け入れてあげますよ」
    ようやく言いたいことを言えた、そう思ったが、お兄さんは頭を撫でるのを再開した。
    「っう、なんで…」
    自分の意思を受けいれて貰えなかったからなのか、涙が溢れそうになる。
    「ずっと苦しんでて偉いですねー。本当は愛して欲しいくせに、優しくされると素直に受け取れない。結局一人になって、お酒を飲んでその寂しさを誤魔化している…どうしようもないですね♡」
    お兄さんはニコニコしながら私の頭を撫でた。
    嫌だ、優しくしないで、こんなどうしようもない自分を否定して欲しい。ネガティブな気持ちが押し寄せてくる。
    触覚がこちらを凝視している。
    きっと私の気持ちをわかった上でやっているのだろう。それを理解した私に気づいたのか、お兄さんが口を開く。
    「確かに僕は助けを呼ばれた気がしたからここに来ましたけど、僕は人間くんが苦しんでる姿を見るのが好きなので…」
    そうだ、お兄さんはそう言う怪異だった。それでも、殴って、壊して、全部無かったことにして欲しい。気持ちが抑えられず、ぐずる。
    お兄さんはただクスクス笑っていた。苦しい。その優しさが、何よりも私の心を抉った。

    身も心もぐちゃぐちゃにされて、疲れたのか、気づけばカーテンの隙間から太陽光が漏れ出ていた。お兄さんは、もうそこにはいなかった。リアルな夢だったのかもしれない。そう思いながら、何とか身体を起こして布団から出ようとする。その時、お兄さんが座っていた位置が少し湿っていることに気がついた。
    本当にそこにいたかもしれない存在に、少し嬉しくなる。喉元過ぎれば熱さを忘れるとはよく言ったもので、もう苦しさはなかった。
    まだ生きている。何となくお兄さんに背中を押されている気がした。
    「今日も頑張って苦しむかー」
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