「これは……なかなかいい感じの枝だな」
「いいかんじ……いや俺もそう思ったから持ってきたんだけど」
しばらくぶりに虚淮を訪ねた洛竹が持ち込むのが大変だったんだ、と言いながら取り出したのはいくらか蕾を蓄え始めた木の枝だった。随分大ぶりで、多分虚淮よりもずっと長い。
いかに危険性がないものとはいえ、大きさの制限に引っかかってしまい手続きが必要になってしまったのだとか。書類を準備したり、説明に答えたりしてまで洛竹が持ち込みたいと思ったのだから、相当お気に入りの枝ぶりをしているのだろう。
「昔のお前ならこれくらいのサイズで妥協していただろう」
「それいつの話?」
記憶を頼りに両の手を広げて、幼い洛竹が意気揚々と振り回していた棒のサイズ感を示す。彼にも覚えがあったのか、照れくさそうに眉を顰められてしまった。
「もー……、この前嵐が来てさ、後で公園の様子を見に行ったら枝が折れちゃってて。そのまま捨てられるよりかはいいかなと思って持ってきたんだけど」
これを飾るくらいなら誰も文句言わないでしょ、と洛竹が言って、窓際に枝を立てかける。殺風景だった窓を生木が境界を区切ってこれはなかなか悪くない。洛竹も同じ感想を抱いたのか、よしと満足そうな声を上げた。
「支えの部分のカタログも持ってきたから、どれが良いか選んで。帰りに伝えておくから」
「分かった」
それから二時間程話し込んで帰って行った洛竹が言うには、固定するには簡単な工事が必要になるのだとか。花瓶のように簡単にできればいいけれど、このサイズだとどうしても固定しなければいけなくなる。業者を入れるのはさすがに館も難色を示すのではないかと思ったが、既に許可は得ているらしかった。
洛竹が抱えていた辺りに触れると、この枝がまだ生きているのが分かる。折れた直後に処置した部分を包んでいる布には定期的に水を含ませてやってほしいと言われたので、当然と言えば当然なのだが。
公園。洛竹は具体的な場所を伝えなかったが、彼の名が付けられた公園の、それも中心部に位置する木々から落ちたものだったのだろう。いくら力が押さえ込まれていたとしても、この木が誰の気に包まれて育ったのか分からなくなるほど鈍感にはなれないらしい。
「お互い、随分と遠くまで来たな」
この枝も本当なら生まれ育った場所を離れずに、太陽を求めて背を伸ばしていたかったのだろう。何の因果か本体を離れてしまい、こんな場所に来るくらいならあっさりと燃やされたかったと思っていても仕方がない。
「悪いがこれも何かの縁だと思って――そうだな、花が咲くまではここにいてほしい」
それよりずっと先もいてくれるとありがたくはあるのだけれど、と親しみのある気を孕むそれに虚淮は語りかける。それは拗ねてしまっているのか何の答えも返さなかったけれど、虚淮の指先を拒むつもりはないようだった。