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    お絵描き練習

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    ☆あらすじ
    高校三年生となったランガは、有名ブランドからプロへの誘いを受ける。暦と離れるのに躊躇するランガはその思いを言えないまま、暦とともに沖縄西部の村にあるリゾートホテルへと旅行する。

    「わだつみの声」 第三話です。二日目の夜、ホテルの周囲を散策する二人。

    #ラン暦
    lanreki

    『わだつみの声 3』


     サトウキビ畑を抜けた先には、うっそうと茂った森があった。枝はあちこちにその体を伸ばし、葉は熱い日差しを遮るように茂っている。おそらく手入れのされていないだろう森は、周辺の様子と比べて明らかに不自然だった。ひんやりとした空気が、その場を静謐な印象に見せていた。
     生い茂る木々の下に、細いけもの道がある。暦はそこを、ゆっくりとした足取りで進んでいく。ランガは黙ってその背中を追っていたが、ほうぼうに伸びる枝や草のせいで歩きにくい。ランガの目の前に、美しい赤い花が見えた。伸びきったデイゴの枝に、花が咲いているのだ。つい、ランガは無意識に手を伸ばした。
    「取ったらダメだ」
     暦が振り向き、花をもぎ取ろうとするランガを止めた。ランガは怪訝な表情をしながら暦を見たが、彼は何も言わずに先へ行ってしまった。ここが何なのかわからず、ランガはいぶかしげな表情で暦のあとを追った。
     やがて、開けた広場のような場所に出た。広場といってもそこまで広くなく、ランガが普段通っている学校の教室ていど、といった感じだ。広場の奥まったところには、意味ありげに積まれている大きな石があった。沖縄のみならず日本の文化に疎いランガには、それが何なのか見当がつかなかった。大きな石は人を誘うように積まれていて、人ひとりくらいならば通れそうだ。ランガが一歩足を踏み入れようとしたとき、暦がそっとランガの肩をつかんだ。
    「ストップ。こっから先はダメだ」
    「暦、ここ……なに?」
     先程から、ダメ、という言葉が多い。ランガは暦の口から「ダメ」というのをなるべく聞きたくなかった。何だか寂しくなるからだ。
     ランガが問うと、暦はふっと笑って言った。
    「ここはウタキって言ってさ。沖縄の、神さまに祈る場所みたいな……」
    「祈る場所……」
     教会のようなものだろうか、とランガは思う。だが、それにしては何もないところだ。キリスト教の祈る場は、少なくとも教会という建物があり、その中でミサを行う。こんな外の、しかも森の中で祈るなど、ランガにはあまりピンと来なかった。
    「ウタキの大事なところには、女しか入っちゃいけないって決まりがあるんだ。んで、木を切ったり、枝を折って持って帰ったりするのもダメ」
     暦の説明に、ランガはへえ、と声をあげた。どうやらかつての、琉球時代の沖縄は女系社会だったらしい。じいちゃんばあちゃんからの受け売りだけどな、と付け加え、暦は石の積まれた場所を見つめた。
    「えっとな、ランガ、知ってるか? 沖縄には、ニライカナイっていう言葉があってさ」
    「ニライカナイ?」
     聞き慣れない言葉に、ランガは首をかしげた。暦は続ける。
    「ニライカナイは、海のむこうの、そのまたむこうにある、神さまがいる国なんだってさ。人間は死んだらそこに行って、またこっちに帰ってくる。そういうところだって」
     これもじいちゃんばあちゃんが言ってた、と言い、暦はランガの顔を見あげてきた。琥珀色の瞳は、うっすらと降り注ぐ初夏の光に揺れている。
    「昨日、海を見てたら思い出してさ。ここに来てみたいって思ったんだ。ここなら、もしかしたらニライカナイと繋がってるんじゃないかと思って」
     わかんねえけど、と暦は笑った。ランガはどうしてそんなことを暦が言うのかわからなかった。ニライカナイが死者の行く場所なら、むしろ近寄りたくないと思うのが普通ではないだろうか。暦がいったい何を考えているのか、ランガにはわからなかった。
     そう、この場所に来てから、暦が何を考えているのかわからない。いつもは以心伝心というほどに思いを通わせているのに、暦の考えが読めない。
     怖い、と思う。暦が何を考えているのかわからない。あの雨の日と同じだ。このまま暦が、石でできた門の向こうへ歩いていってしまうような。
     暦が、俺のそばからいなくなる。ランガの心中に、渇望ともいうべき強烈な感情が生まれた。ランガはもう衝動を抑えられなかった。暦の体をぐいと引き寄せ、腕の中に閉じ込める。
    「うわっ! お、おい……っ!」
    「暦、暦――れき、レキ――」
     壊れたラジオのように、ランガの口からは暦の名前しか出てこない。抱きしめた腕から逃れるように暦が身をよじるのに、ランガの感情は高ぶった。――逃がさない。
    「暦、暦――」
     暦のおとがいを上げさせ、ランガは顔をゆっくりと近づけた。唇が触れ合う寸前で、ランガの髪に痛みが走った。
    「いたっ!」
    「ランガッ! この、罰当たり!」
     痛みに涙するランガに、暦の怒声が飛ぶ。ばちあたり、という言葉にはっとする。そう、ここは曲がりなりにも神聖な場所なのだ。文化が理解できなくとも、それは尊重されねばならない。
     ランガはしゅんと肩を落とし、「ごめん」とつぶやく。暦はやれやれといったように息を吐いた。
    「普通こういうところでイチャつくのは……まずいだろ、いろいろ」
    「ごめん……」
    「帰ろうぜ。そろそろ昼だろ」
     もうそんな時間だったか。ランガはスマートフォンを確認する。たしかに時間はもうすぐ正午で、ランガの腹もぐうっと鳴った。大食いのランガは、基本的に燃費が悪いのだ。ランガの腹の音に、暦はくすっと笑った。
    「ホテルならうまいもんいっぱいあるだろ。昨日の夕飯もうまかったし――ランガは何食いたい?」
     暦の無邪気な問いに、ランガはこれだけ答えた。
    「暦」
    「え?」
    「暦しかいらない」
     暦が手に入るのならば、食べ物だって我慢できる。ただ、暦がほしい。ランガの中にある強烈な渇望は、岩の前に立つ暦を見て溢れ出した。ニライカナイ、神々の世界へと向かってしまう暦。それは幻だったが、ランガの中に強い光景を焼き付けた。
     何だ、迷うことなんてなかったじゃないか。俺は、暦といたい。
     ランガの真摯な想いに、暦は顔を赤くしてうつむいた。そして、小声でつぶやく。
    「メシはちゃんと食わねえと。だから……俺は、ちゃんと帰って、食ってからな」
     その言葉に、ランガはにこりと笑った。心からの笑みだった。


     ホテルの海岸に面した場所には、贅沢に海を見渡せるオープンカフェがあった。ランガは暦とともに海の見える席に座り、ランチを楽しんだ。メニューのすべてが高校生にとっては高めで、ランガは結局腹を空かせてしまったが、対する暦は楽しそうにサイダーを飲んでいた。ストローを口に含み、こくりと喉を動かす様子は、どこか艶めかしかった。暦の顔が横を向き、おどろくほど青い海を見つめる。海と空の青が反射する、暦の瞳の色。ランガにとってその色は、他のどんな宝石よりも美しく、尊いものに見えた。
     ランガは、暦は太陽のようだ、と思ってきた。沖縄はてぃだと呼ばれる太陽神を信仰していた。その気持ちが改めてわかる気がする。暖かく、あたりを照らす太陽。それがなければ生きていけない。作物は育たず、人は飢えて死ぬほかない。
    (俺は、暦がいないと飢えて死んでしまう)
     先程訪問したウタキで実感したことだった。暦がいなければ始まらない。心は飢えて渇いたまま、馳河ランガという肉体だけが生きて歩くことになる。
    「食わないのか?」
     物思いにふけるランガを、暦の問いが現実に戻した。暦は不思議そうに皿の上のトーストを指差し、首をかしげてみせた。パンの上にたっぷりのチーズと、ゴーヤを乗せてトーストした沖縄らしい料理だ。せっかくのおいしそうな軽食なのに、とろけたチーズが垂れて冷めかけている。ランガははっとして暦を見た。
    「……暦」
    「うん、俺は暦。なんだ、変なやつだな」
     ふふ、と笑って、暦は手のつけられていないトーストに手を伸ばした。残したら失礼だから食っちまうぞ、と前置きして、暦はパンの端をつまんだ。料理は軽々と持ち去られ、暦の口元に運ばれる。彼の白い歯が、焼いたパンの生地に刺さる。真っ赤な舌がパンを飲み込み、艶めかしく喉元が上下する。ランガは下半身にかっと血が集まるのを感じた。
     俺は変なのかもしれない。ランガは心の中でそう思った。いつどんなときでも、暦を欲しいと思う。時間も場所も関係なく、できることならずっとこの腕に暦を抱いていたい。
     そんなことを思っていると知ったら、暦は引いてしまうだろうか。いや、きっとそれはないだろう。暦はなんでも受け入れてくれる。そんな確信があるから、つい甘えてしまう。
    「ごめん。トイレに行ってくる」
    「……ん? わかった」
     腹痛いのか? と暦が明るく言う。まさか食べる様子に欲情したとも言えず、ランガは曖昧に笑って席を立った。海の見えるオープンカフェから、屋内にあるトイレへと移動する。リゾートホテルのトイレは驚くほどきれいで、もちろんすべて洋式だった。暖かさを感じる照明が、ランガの気持ちを落ち着かせる。大きく息を吸って、吐く。そうするだけで、暦に対する溢れそうな想いが落ち着いていく気がする。もう一度吸って吐き、洗面台で冷たい水で顔を洗う。ひんやりとした感触で、体の火照りが引いていく。
     もういいだろう。鏡に映る自分の姿を確認し、ランガはトイレを出た。オープンテラスに出て、暦の赤毛を探すが――いない。二人が座っていたはずの席には誰もいず、食べかけのトーストと、飲み干されたサイダーだけが残されていた。ランガの背筋が、氷に撫でられたように冷たくなった。
    「――暦?」
     テーブルに近づいたところで、暦が現れるわけはなかった。ランガは、叫び出すのをこらえるのにせいいっぱいだった。ふるえる体を抑えないまま、ランガは走り出した。
     テラスの向こうには海しかない。見晴らしがいいはずなのに、あの印象的な赤毛はどこにも見えなかった。白い砂浜をざくざくと踏みしめる音すらも、今のランガの耳には届かなかった。
    「暦――暦、どこにいるの!?」
     喉が嗄れそうなほど、大声を出して叫ぶ。海を眺めていたカップルらしき男女が、驚いたようにこちらを見たが、そんなのはどうでもいい。暦が、本当に海の向こう――神や死者の住む世界へ行ってしまったら? もし、自分の手の届かない場所へ行ってしまったら。
     ――先程のウタキでも実感したはずだ。そんなことは耐えられない。何が何でもこの手で暦を捕まえる。
    「暦、暦……!」
    「……ランガ?」
     ランガの耳に、慣れ親しんだ声が届いた。少し擦れていて、特徴のある声だ。それでいて温かみがあって、聞く者の心をどこか和ませる。暦の声はそんな声だ。
     砂浜にある岩礁の影にいたらしい。スニーカーを脱ぎ、波に両足を遊ばせているのは、ランガが心から愛する暦その人だった。美しい琥珀色の目を丸くして、不思議そうにこちらを見ている。
    「どうしたんだよ、そんなに慌てて……」
    「暦」
    「ランガ? ……うわっ!」
     靴が濡れるのもかまわず、ランガは波打ち際に立つ暦を抱きしめた。暦が驚いたように身をすくめるのを感じたが、離すわけにはいかなかった。
    「おいっ、ランガ、靴……靴、濡れてるって!」
    「そんなの、どうでもいい」
    「どうでもいいって……」
     暦の戸惑うような声がする。服や靴が濡れたところで、そんなのはどうでもいい。暦が、ここにいる。俺の腕の中にいる。それだけで、ランガの心臓は喜びを主張して高鳴る。
    「暦、どこにもいかないで」
    「ランガ……?」
    「俺は、暦にずっとそばにいてほしい」
     ランガは心のうちにあった想いを告げた。迷うことなんて一つもなかったのだ、とランガは思う。もう、暦と離れたくない。シンプルな答えだった。
     ランガの真摯な想いに、暦は打ちのめされたように動かなくなった。辺りには、小さな波の音がざあざあと響いていた。
     返事はない。その間に焦れて、ランガは暦から体を離し、腕を掴んでぐいと引いた。足元でばしゃんと水の跳ねる音がする。
    「ちょ、ランガ」
    「来て、暦」
     有無を言わせぬ口調で、ランガは暦の手を引いた。絶対に離さない。そう強く思いながら。
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    MAIKING7話のせいで未来捏造したラン暦。プロボーダーランガ×メカニック暦
    モブ女視点ですがただの当て馬なのでご安心ください。

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