お前を見ていると腹が立った。
腕力に物を言わせた、我流で粗削りな太刀筋。何でも笑って誤魔化す、大雑把でいい加減な態度。信用に値しない。彼女を護るため、俺はこんな奴を簡単に信じるわけにはいかない。だから腹が立つんだと、そう思っていた。
けれどあの日、あの吸血鬼に相対した時。仇を前にしたお前の怒りや悲しみを目の当たりにした。
あんなに感情的になるお前を初めて見た。お前はいつも、切迫した状況下で俺よりずっと器用に立ち回って見せるのに。悩みや迷いを笑い飛ばして、一番危険な場所へ飛び出して行くのに。本当はずっとこんなものを独りで抱えていたのかと、愕然とした。
それで分かった。俺が腹を立てていたのはお前にではなく、お前に敵わない自分に、だった。本当は俺はずっと、お前を信じたかったんだ。だから崩れ行く城の中で背を預け合って戦うことになって、腹に矢が刺さってるってのに、俺は楽しくて仕方なかった。おかげでこのザマだが。
「生きてくれよ…」
傷口から何かに感染したんだろう、熱で朦朧とする頭に、いつになく心細そうな声が届く。聞こえているのに、目は開かないし口も動かない。お前、今どんな顔をしてるんだ。どうして俺にそんな声を聞かせるんだ。
彼女を守れなかったことに責任を感じているのには気付いていた。俺だってあの時、激情に駆られてあいつを責めた。密告された時点でどうしようもなかったと分かっているのに。お前は俺にできないことができるんじゃないのか、なんて、ただの子供の癇癪だ。
「理由なんてなんでもいいからよ」
なあ、あれだけのものを誰にも見せず、笑っていたお前は。今俺に縋るように言葉をかけるお前は、一体なんなんだ。
それを知りたいからっていう理由でも、取り敢えずはいいのか。