その透き通る青が好きだった。
人の気持ちを見通そうとして目をじっと見ちまうのは俺の悪い癖だが、そうすると後ろ暗いことがある奴は目を逸らすし、そうでない奴でも大抵は困った顔をしたり、失礼だって憤慨したりするもんだ。だがあいつは、ただ真っ直ぐに見返してきた。何も隠すことなどないとでも言うかのように。
静かな湖面を思わせるその瞳は澄んでいて、素直に羨ましいと思った。他人に踏み込ませず有耶無耶にすることばかり上手くなる俺には、怒りや悲しみをそのままに表現する青臭さが眩しかった。こいつの存在はきっと、人を信じようとするあの女にとっても救いになるだろうと思った。
だから守りたかった。解放運動なんて危険な戦いに身を投じながら瞳が曇らないお前たちに、あんな思いだけはさせたくない、などと。仇を探すために一時身を寄せるだけのつもりが、いつの間にかそんなことを思うようになっていた。
だが結局、俺は守ってやれなかった。あの女の命も、澄みきった青も。戦争が終わり、愛する女の理想の為に戦う意味すら亡くした今、静かだった湖面にはさざ波のように悲しみが広がり、濃い霧に烟るようになった。
「生きてくれよ…」
燃え盛る城の中、名誉の戦死をしていれば、なんて思ってくれるな。言えた義理じゃないが、きっと彼女もそれを望みはしないだろう。
「理由なんてなんでもいいからよ」
真面目なこいつのことだから、俺に助けられた恩を返す、なんて言い出すのかもしれない。取り敢えずはそんなものでもいい。
「お前みたいな奴を、死なせてたまるかよ」
その青が美しく輝くところを、もう一度見たいから。