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    sakura_453vf

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    sakura_453vf

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    ティントに⚡を連れて行きたくなかった🐻が、無事帰って来て⚡に迎えられる話。
    うっすらビクフリ。

    #ビクフリ
    bicufri

    帰る場所 ティントへ行くのは最小限の人数でいい。それは戦況を見ても正しい判断だったと思うが、連れて行くメンバーからさりげなくフリックを除外させたのは完全に私情だった。
     今の同盟軍には、自分たちがほぼ全てを担わなければならなかった最初期の頃とは比べものにならないほど人材が揃っているから、二人揃って抜けたところで穴を埋める者には困らないだろう。ビクトールとしてもフリックがいれば心強いに決まっている。それでもそんなことをしたのは、あの男が明確に自分の弱点になってしまったからだ。
     あの卑劣な吸血鬼は、一度は自分に負けたという事実が許せないらしく、大切だった彼女の亡骸を目の前で弄んで見せた。本物だったのかは分からないが、尊厳を踏みにじられたことに変わりはなく、思い出せば怒りで手が震えそうになる。
     だからフリックがビクトールにとっての唯一だと知れば、確実に狙いに来るだろう。どんな汚い手を使ってくるかわからない。もし信頼を逆手に取られて目の前で失うようなことにでもなれば、自分はきっと、今度こそ立ち上がれなくなるだろうという予感があった。
     ずっと隣に誰も置かずに来た。失うのが怖くて、誰とも上手くやりながら深入りはさせずに生きてきて、孤独も寂しさももう慣れたと思っていた。なのにあの青は、いつの間にか当然のように隣にいた。
     真っ直ぐな奴だ。怒りも、悲しみも、正直に表に出す。正直が過ぎてどうしようもなく不器用で、他人を慰めるための気休め一つ言えやしない。けれどその歪で稚拙な言葉が、行動が、何より乾いた心を癒した。
     ──彼女の最期の言葉の意味が、今ならよく分かる気がした。


    「ビクトール!」
     ついに仇敵を倒して無事に帰城し、出迎えて労ってくれる人々に笑って応えていると、遠くから聞き慣れたよく通る声がする。その方向へ目を遣ると、いつもなら帰ったのか、とか無事か、などと軽く声を掛けてくるだけのフリックが、居ても立っても居られずといった様子でこちらへ駆けてきていた。明らかに常と違う姿に気を使ったのか、自然と人垣が割れる。そうして近くまで来ると、青い瞳が心配そうに揺れているのが分かった。
     随分と気を揉ませてしまったようだ。フリックは当然、ビクトールがわざとティント行きのメンバーから自分を外したことに気が付いている。なのに何も言わなかったということは、その理由にもおおよその見当は付いているのだろう。
    「よお。敵討ち、してきたぜ」
     手を挙げてにっと笑って見せると、硬かった表情がふっと和らいだ。
    「そうか…」
     フリックは安心したように、目を伏せてそっと息を吐く。長い睫毛が頬に影を落とすさまに気を取られているうちに、目蓋が持ち上がり、その奥の澄んだ青が真っ直ぐにこちらを向いて。
    「おかえり、ビクトール」
     優しい声でそう告げて、息も忘れるほど綺麗な顔で笑った。
    (…ああ、もう、観念するわ)
     考えるより先に大股で距離を詰め、大事な存在をその青いマントごと両腕で抱き込む。周囲からはどよめきと、何故か歓声や口笛まで聞こえるが、知ったことか。
    「な、ど、どうしたんだ」
     訳が分からず慌てているフリックが、少し可笑しい。自分がどんな顔をしていたのかなんて、まるで分かっていないのだろう。
    「ただいま、フリック」
     万感の思いを込めて、ビクトールはその言葉を口にした。待っていてくれる人がいる。自分の帰りを、あんな顔で喜んでくれる人がいる。どんな言葉よりその笑顔が、お前が大切だと伝えてくる。それがどれだけ、得難いものか。
     抱きしめる腕の力を緩められず、何も言えないまま動かないでいると、困ったようにさまよっていたフリックの両手がおずおずと背に回されて、ずっと忘れていた安心と充足感が全身を巡った。

     ここが、俺の帰る場所だ。
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