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    fm77rrwy

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    しきみそ🔞までの作業進捗です。まだ何も到っていない。
    彩縁後。同居中で両片思い。今回は今回でズルい&かわいいな。

    シック カップをソーサーに戻すと、三宙は手帳を開いた。裏表紙の内側には一枚の写真が挟んである。
    (やっぱマジで逸材だよなー、四季って)
     白と黒のコントラストを纏いながら、主張しすぎることもないけれど控えめすぎることもない。初めこそ服に向けていた視線も、いつの間にかその気だるげな顔に釘付けになっていた。
     初めて四季がモデルとしての撮影をした日。カメラに切り取られた瞬間。その場面を思い起こす。
     新進気鋭のカメラマンに依頼をしたのはいいけれど朝しか撮影スケジュールが取れなくて、さんざん四季から文句を言われたのを三宙もしっかり覚えている。そのおかげで当日は終始とてつもなく不機嫌そう、もとい眠たそうな顔で撮影に臨んだことも。あまりにもあんまりな様子だから今回は止めておいた方が良かっただろうかと、撮影の様子を眺めながら久しぶりにかなりヒヤヒヤしたものだった。
    (てか、絶対この時オレのこと見てたし。なーんて、さすがに自惚れすぎか)
     気だるさの中に、微かに安堵が滲んで見える。それは自分と目が合ったからだと、三宙は自惚れていたかった。だから、この写真をこっそり手帳に挟んでいるのだ。この瞬間だけはせめて自分のものにしておきたくて。
     実際にあの日に撮影した写真は、この一枚以降、圧倒的に出来映えがいいものが多かった。三宙が展示会のフライヤー用に選んだ写真もそこからだ。
    (そーだ。展示会もまあまあ近くなってきたし、今日も頑張りますかっと)
     改めて手帳のページを繰り、今日の予定に目を通す。昨日書き加えた赤いインクの走り書き。
    「18時、食事会。……遅くなんのか?」
    「!」
     突如として背後から降ってきた想い人の声に、悲鳴にならない悲鳴を抑えながら三宙は思わず手帳を閉じた。やたらと気配を消すのが上手いことは志献官だった頃から知っているけれど、いつから四季は自分の後ろに居たのだろう。手帳の中に隠し持っている写真のことは……?
    「あー、いや。昨日買い出しに行った時に誘われちゃってさ。相手もスポンサーだから断るのもアレだし? ごめん、まだ四季には伝えてなかったかも」
    「で、帰りは遅くなんのかって」
    「ん~、そんなに遅くはならないんじゃねえの? たぶん。進捗聞かせて欲しいんだってさ」
    「……お前なあ」
     手帳をさりげなく机の引き出しにしまいながら何とかいつもの調子を繕って話す三宙をよそに、背後に構えている四季のトーンはどこまでも通常運転だ。けれども、そのおかげで衝撃の向こう側から段々と平常心が戻ってくる。
    「てかさ。四季、珍しく早起きじゃん」
     そうだ。四季が普段こんな時間から起きてくることはまずない。いつもだいたい昼頃にのそのそと起きてきて、それから作業を始めているイメージだった。だからこそ、三宙もさっきは油断していた。
    「なるべく早く次のフィッティングしたいって言ってたのは誰だよ」
    「え? わざわざオレのために早起きしてくれたってこと? マジでー?」
    「うざ。やっぱり今から寝直すか」
    「行くなって!」
     踵を返して去ろうとする四季の袖を引いて呼び止める。それから今度は自分が椅子から立ち上がって背を向ける。
    「ちょっと待っててよ。すぐ持ってくるから」
     念を押すように視線を投げてから、クローゼットへと向かう足取りは軽い。うきうきしながらクローゼットの扉を開けて、昨日新たに見繕った服をハンガーごと二着取り出した。
    「じゃじゃーん! どうよ?」
    「いや。どうって言われても僕は特に何も」
    「ええー。こんだけファッションに関わってたらもうちょっと服に興味わいたっていーじゃん!」
    「……まだ三ヶ月も経ってねえけどな」
    「そこはさー、時間じゃないんだけどなー。いいけどさー」
     落ち込むポーズは見せるけれど、端から相手の反応にそれほど期待はしていない。三宙は両手に持ったハンガーを交互に掲げて四季に合わせ始めた。
    「いつもシンプルめがだからたまには派手めな色柄物もいいんじゃねーかなとも思うんだけどさ、やっぱりシンプルな色味が引き立つと思うしだからちょっと遊びのあるディテールにするのがいいか、いやー悩むわーどっちも良くて」
    「いいからさっさと服よこせよ。着てみた方が分かりやすいんだろ、三宙」
     夢中になっているうちに距離を詰められていたらしい。掲げている腕を四季に掴まれた。
    「えっ……」
     思わずハンガーを持っていた手から力が抜ける。けれどもハンガーが床に落ちる音はしなかった。
    「じゃ、こっちで」
     掴まれたままの腕の向こうに、面白いものを見たという顔が一瞬だけ見えた気がした。いったい何が起きたのだろうと呆然とする間に手は離れて、着替えに向かう背中は遠ざかっていく。
    (あーあ。こんなんじゃ前途多難すぎっしょ……)
     残された派手なシャツを抱えながら、乾いた笑いを噛み殺す。
    (だって仕方ねーじゃん。好きになっちゃったんだもん)
     展示会まではあと一ヶ月ほどになっていた。娯楽が少ないからとはいえ、街のあちこちに設置させてもらっているフライヤーが順調に減っていることはブランドとしては嬉しいことだった。
     反面、それは三宙個人としては複雑でもあった。それなら四季をイメージモデルに起用しなければいい話なのだが、それはそれで本末転倒になってしまう。
     あと一ヶ月。そう聞けばまだ余裕があるようにも感じられるけれど、二人体制で運営している新設ブランドにとっては心許ない残り期間だ。あっという間に、世の中にお披露目する時がやってくる。
     できれば多くの人の目に留まって欲しいと思う。それだって紛れもない本心だ。けれど同時に、誰にも見せたくないという思いも心の底に醜くどろりと流れていることも分かっていた。
     イメージモデルの話を四季に持ち掛けた時からすれば想定外の事態だ。いや、そんなこともないのか。考てみれば、三宙が好きになるきっかけなんてそこらじゅうに散らばっているような相手だ。遅かれ早かれこうなっていただろう。
    それに、新しい生活になれば恋のひとつもあるかもしれないと浮かれた考えを持たなかったこともない。
    (でもタイミング悪すぎっしょ。あと相手も)
     そんな難儀なお相手が着替えて戻ってきたようだ。柄にもない早起きのせいでいっそう眠そうなのが、今は少し清々した。
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