美しい世界(仮)「あ!七海ー、久しぶりだね」
目の前に現れた彼は、屈託なく笑っていた。その顔が昔と変わらず幼いままで、私は白昼夢でも見ているかのような、現実との区別が追いつかず、目眩を起こしそうだった。
「…灰原」
手が震えるのを必死で隠し、背中にある鉈をいつでも出せるように腕を回す。
そしてひと呼吸し、頭を落ち着かせながら、辺りを注意深く観察する。
駅前のこの場所は金曜日の夜という事もあり、多くの人々で賑わっている。夏油さんや他の呪詛師の気配も感じない。
周りの声が雑音に聞こえはじめ、灰原が口を動かすのを待つしかなかった。
そんな私の様子を気にすら留めず、灰原は明るい笑顔のままはっきりと応えた。
「今日はたまたま買い物に来てたんだけど?…そんな怖い顔しないでよ」
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