サクラサク恋テキストの最後の問題を解き終えシャープペンを置く。週末の今日は七海の家で二人、課題をしていた。先に終わらせた七海はというと、灰原の膝の上にいる。正確には、膝に頭を乗せている、いわゆる膝枕というやつだ。
そんな彼も乗った直後はこちらの顔を凝視していたが今は眠っている。あどけない顔が可愛いなと透き通る髪に手を通した。
「好きだよ…なんて」
直接伝えるにはまだ少し恥ずかしい言葉を口にする。だけど本当は。
「伝えるつもりはなかったんだけどな」
「どうして」
「うわっ!?」
起きてたの!?という言葉は眠たげな声に遮られる。
「私はずっと言いたかったのに」
「七海?」
「自覚したあの日からずっと言おうと思っていて、でも中々言えなくて、気づいたらきみはいなくなっていた。それからずっと後悔していた」
「…」
「やっと言えたのに、どうして、雄は言ってくれないんだ?」
こてっと首を傾げる様子は見た目以上に幼い。どうして、ねえと急かされ、灰原は仕方なく答えた。
「気持ちを伝えたら、七海のことだからちゃんと返事をくれるでしょ。それが僕にとって良い結果にしても悪い結果にしても、二人の関係が変わると思ったから言えなかった」
「私が雄を振るわけないのに」
「そうじゃなくて、変わることが、僕は怖かった」
言わなければ、ずっと、たった一人の同級生でいられる。例の任務のあの日まで、そう思っていた。
「私たちは変わらない」
「変わったよ。七海は僕に甘くなった」
「変わらない。ずっと、こうしたかった」
起き上がり頬にキスをされる。だがすぐにその身体が崩れ落ちたので灰原は慌てて支えた。ベッドに寝かせると静かな寝息をたてて熟睡している。寝ぼけていたのかな?と言う疑問に返事はない。そのことに安心し、七海に背を向けて顔を手で覆った。
「なんだか、とっても恥ずかしい話をした気がする…」
前世の時から僕のこと好きだったの?とか具体的に何がしたいの?とか聞きたいことはたくさんあったが、その話を蒸し返す勇気は灰原になかった。
***
「灰原は七海が寝ぼけてたとはいえ恥ずかしい話をしたと」
「…うん」
「七海は寝ぼけて何を話したのか知りたいと」
「そうです」
「とりあえず、そういうことを家でやったのは偉いぞ。ただそのあとの痴話喧嘩に俺を巻き込まないでもらえるか?」
昼休み。いつもと違い灰原は男子生徒の背中にしがみついており、男子生徒の真正面から七海が睨んでいる。対峙するカップルをクラスメイトたちは固唾を飲んで見守るが、巻き込まれた男子生徒に救いの手を差し伸べる者は誰もいなかった。