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    あいぐさ

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    POIPOI 81

    あいぐさ

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    フィとファと呪われたモブの話

    風前の灯火 たすけて、たすけて。
     白いベッドの上の魔法使いは、か細い声で繰り返す。
     たすけて、たすけて。
     瞳はフィガロとファウストを見つめ、震える手は彼らに向けて伸ばされていく。ファウストが一瞬考えあぐねた隙に、フィガロは彼の手をそっと掴んだ。
    「大丈夫、ほら、これを飲んで」
     渡された錠剤に、彼らを見つめる人々は小さく息を呑む声が聞こえてくる。
     決して後ろを振り返ってはいけない。反射的に動きそうな身体を、フィガロの教えを反芻することで何とか踏みとどまらせる。
     持つものは全てを与えてはならない。救いの手で相手を不幸にしてはならない。
     一度下した重い決断を、無碍にしてはならない。
     黒く重い呪いは、その魔法使いの身体をぐるぐると巻きついている。先端は矢尻のように鋭く尖っており、左胸あたりに何本も突き刺さっていた。
     どうか、どうかお願いします。あの人を、あの人のままでいてほしいのです。
     そんな家族の願いは、果たしてエゴだろうか。それとも、彼にとっての救いだろうか。
     寝ている男の口に、フィガロは錠剤を入れる。ファウストから水を受け取り、そのままゆっくりと流し込んでいく。
     普段であれば気管に入りむせてしまうだろう。それでも、彼はすんなりとそれを飲み込んだ。見た目以外はすっかり変質してしまった現実を突きつけられ、ファウストは言葉を失う。
    「うっ、あ、あ……」
     男にまとわりつく黒がゆっくりと薄くなっていく。黒い矢尻の矛先は、宿主を手にかけたフィガロに向いた。
     びゅん、と飛んでくる呪いに、彼は小さくため息を吐く。それでも整った笑みは崩さずに、指先をくるりと回した。

    「《ポッシデオ》」

     その言葉と共に、黒いモヤはキラキラした無数の煌めきに姿を変える。身体に降り注ぐそれを、男は小さな声できれいと言った。
    「よい夢を」
     どこまでも優しい声に、男はゆっくりと笑う。
     後ろからは、鼻をすする音と声にならない心の叫びが小さく聞こえてくる。
     それは悲しみか、安堵か、それとも後悔か。ファウストには分からない。

     そして、彼は石になった。
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