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    あいぐさ

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    あいぐさ

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    師弟時代、マナ石をガリガリ食べながら弟子のあれこれを考えるフィガロの話

    栄養素 強くなるには、きっとこれが一番。
     外側は固いものの、咀嚼によって表面からガリガリと削られていく。粉っぽい質感が舌にくっつくのが嫌で、フィガロはグラスの酒を一気にあおる。無味がアルコールに包まれて、不快な感覚だけが口の中にこびりついた。ああ、うまく流し込めなかった。
    「はぁ……」
     威勢だけは充分だった魔法使いの命は、フィガロのため息によって消費される。彼にとっては、ただの質の悪いマナ石に過ぎなかった。
     小さな器に盛られたそこには、光り輝く命のかけらが小さく盛られている。輝きが鋭いもの、やけに角が尖っているもの、重量があるもの。フィガロは、無造作に手に取ったそれをゴリゴリと噛んでいく。もちろん、美味しいものではない。
    「はぁ……」
     グラスをゆらゆらと揺らしながら、フィガロは何度目かのため息を吐く。彼が考えているのは、麗しい美女のことでも、己を殺すべく暗躍する敵のことでもない。共に暮らすようになった弟子のことだ。
     魔法使いは孤独だ。だからこそ、己の身を守る術を身につけてほしい。だから、悪天候の中で訓練を行った。
     常にあたたかな魔法を纏ったフィガロは、ほどよく疲れた程度だ。今からでも大きな魔法を使うことはできるし、日常生活にも支障はない。しかし、妙に空元気だったファウストには、きっと無理をさせてしまっただろう。寝る間際、震える身体を叱咤していたのを思い出し、再びため息が出てしまう。
     きっと、彼は強くなった。ここに来たときよりも魔法も覚え、知識も身につけ、経験値も増えた。おまけに勤勉で優秀、そして真面目。想定よりもうんと早く成長をしている。
     それでも、フィガロは頭を悩ませるのだ。いつだって、どうやったら彼に上手く魔法を教えることができるのか考えている。気絶も、魔力の枯渇も、怪我も、全部させてしまった。一度は経験しておくものかもしれないが、それでも不必要な怪我はするべきものではない。
     魔法は心で使う。果たして、自分の教えによって、彼の心は豊かになっただろうか。強くさせてあげられているだろうか。
     やけに明るい月明かりを見ながら、酒を一杯グラスに注いでいく。こんなとき、きっと彼がいたら酒の種類を聞いてくるだろう。
     ニコニコと笑うその姿を想像し、フィガロはひとりクスリと笑った。
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