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    あいぐさ

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    あいぐさ

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    フォロワー四桁の神字書きフィから突然フォローされ怯えるファの話〜身バレ編〜
    フィガファウにしたい現パロ、前回の続き。
    今回はあんまりカプ要素はない、執着はしてる。
    ヒスがたくさん喋るよ!
    ※けーやくとかの話は全部捏造想像です

    神にフォローされて怯えています(4) その日、ファウストが訪れたのはゴミゴミとした都会の駅だった。
     普段ならまず来ることのない場所から人を避けるように歩いて五分ほど。緩やかになった人通りにゆっくりも息を吐く。一本道を逸れれば人はこんなにも減るらしい。
     少しだけ時代を感じる趣のビルの中はリフォームされており、真っ白な内装はどこか格式の高さをひしひしと感じさせられる。艶やかな黒い壁に写し出されるファウストは、ジャケットを羽織り、髪も少しだけセットされていた。
     自分に使うのにはいささか抵抗はあるが、きっとこれが『オシャレをしている』というやつであろう。どこか落ち着かず髪を触ろうとして、すんでのところで手を止めた。
     メッセージアプリから送られてきた場所は、どうやらこのビルの四階にあるらしい。手狭なエレベーターに乗り込み、丸いボタンをゆっくりと押し込む。チン、とどこか懐かしい音が鳴ると、扉が勢いよく開いた。
     エレベーターを降りた先はガラス張りになっており、奥に伸びるカウンターが見える。その先にはシックな机と椅子が、オープンスペースに並べられていた。
     入り口であろう銀色の取っ手を押せば、黒と白のウェイターがファウストへにこやかな笑みと共に駆け寄ってくる。予約の名前を言えば、火の消えた豪勢な暖炉の近くの席へ案内された。
    「すまない、遅くなってしまって」
    「ファウスト先生、お久しぶりです」
     ファウストを見つけ立ち上がった彼は、目元を優しげに細めにこりと笑った。シンプルな紺色のジャケットの彼の姿を、隣の二人組の女性がチラリと見つめひくりと眉を動かす。
     仕方がないだろう。このヒースクリフ・ブランシェットという男はあまりにも見た目が整いすぎている。ついこの間も、よく分からない芸能事務所から声をかけられていた。
     肘掛けの部分が丸みを帯びた椅子にファウストが座れば、ヒースクリフはどこか控えめに声をかける。
    「すみません、お呼びしてしまって」
    「いや、大丈夫だ。せっかくのきみからの誘いだからな」
     どこか冗談めかして言えば、目の前に座る彼はぽぽぽと頬を赤く染めた。どこか初々しい反応に、ファウストはクスリと笑う。
    「あ、ありがとうございます……」
     知り合ってから数年が経つというのに、ヒースクリフはいつだってこの調子である。そんな目の前の真っ直ぐで紳士的な青年を、ファウストはいたく気に入っていた。出不精を自負しながら、こうやって綺麗に身だしなみを整えてくるぐらいには、彼のことを好ましく思っているのだ。
     話が途切れたタイミングに現れたウェイターに紅茶を頼み、ファウストはほっと息を吐く。
    「それで、どうかしたのか?」
     どこかファウスト先生のご予定が会う日にお会いできないでしょうか。
     そんな丁寧な連絡が来たのは数日前のこと。ヒースクリフから個人で直接会いたいと突然連絡してくることなど、今までで一度もなかった。
    「その、実はお聞きしたいことがありまして……」
     ヒースクリフはどこかもごもごとしながら、机の下からそっとスマホを取り出す。そのままとある画面をファウストへ差し出した。
    「なっ!?」
     そこには、ファウストの二次創作用のアカウントが表示されていた。
    「これは……その……」
     どこか困ったような顔をしながら、ヒースクリフはファウストをじっと見つめる。
     何か言い訳をしなければ。けれど、ファウストはこういう誤魔化しの類は大の苦手だった。
    「……どこで知ったんだ?」
    「その、前、東のみんなと集まったときに……」
    「……」
     気まずそうに話すヒースクリフに、ファウストは心の中で頭を抱えた。
     東のみんなとの飲み会があったのは数日前。ネロのお店を閉店後に貸し切ってみんなで集まったのだ。料理もお酒も美味しくて、ずいぶんと楽しい時間を過ごした。
     そう、楽しかったことと飲み始める前しかファウストは記憶が残っていない。ぼんやりと断片的な会話や美味しかった料理の味は覚えているものの、ファウストにはアカウントのことを話した記憶など一ミリもなかった。
    「……僕は、なんてことを」
    「いいえ、その、断片的にお話されていたことから僕が、その、たまたま見つけてしまっただけなので……」
     ファウストは知らないだろう。
     彼がポロリと言ったのは、編集に唆されて二次創作をしていることと推しのカップリングだけである。
     そこそこ大きな界隈で、作品の投稿者も多い。そんな場所から、ヒースクリフは持ち前の根気と妙な真面目さから、運良く特定してしまったのだ。
    「……」
     ファウストは大きなため息を吐く。どこか困った顔をしたヒースクリフに慌てて首を振り、それからゆっくりと口を開いた。
    「……なるべく、その、見ないでほしい。完全に趣味だから」
    「は、はい。わかりました」
     ファウストは知らないだろう。
     フォロワーの一人、時計のアイコンの鍵アカがヒースクリフの個人的なアカウントであることを。そして彼はすでに全ての作品を読み終えていることを。
    「すみません、俺一人では抱えきれなくて……」
    「いや、いいんだ。その、少し、いやかなり驚いたが」
     会話が途切れたタイミングで紅茶が運ばれ、二人はティーカップにゆっくりと紅茶を注いでいく。ブルーキャリコの青をぼんやりと見つめるファウストに、ヒースクリフはぽつりと呟いた。
    「その、編集の方とは仲が良いのですか?」
    「仲が良いかは分からないが……、多分、うまくやってるよ」
    「そうですか……」
     浮かない表情のまま、ヒースクリフはティーカップの中の深いオレンジを見つめる。
    「きみは?」
     程よく高い声は、ヒースクリフの耳へ優しく届けられる。
    「……最近、なんだか苦しくて」
     曖昧な言葉に、ファウストはゆっくりと頷く。ポツリポツリと話す彼は、どうやら出版社や編集とうまく折り合いがついていないらしい。
     ビジネスと創作は基本的にはソリが合わないものだ。それら二つを混ぜてうまく昇華させるのは、ある意味奇跡に近い。
     そのため、ヒースクリフのような作家と会社側との歪みは往々にして起こりうる。しかし、ファウストはどこか憔悴した彼を放置しておくことができなかった。
     謝りながら話を終えたヒースクリフに、ファウストは小さく笑う。
    「契約のこともあるし、うちにきたらとは軽々しくは言えないが……。僕の方でも動いてみようか」
    「すみません、ありがとうございます」
     もう一度頭を下げるヒースクリフに、ファウストはゆるゆると頭を振る。
     それからはヒースクリフの相談会となり、ファウストは彼の話にじっと耳を傾け続けていた。当然、最初に話に上がったアカウントの話題など二人からすっかり忘れ去られしまう。
     ファウストがそのことを思い出したのは、ヒースクリフとわかれてずいぶんと経った後だった。
    「……気をつけないと」
     本当に、本当に。思い出すだけで今でも冷や汗が止まらない。
     一人夜道を歩きながら、ファウストはため息を吐いた。

    「ということがあった。僕の対抗馬がうちの出版社を気にしてたぞ」
    『きみ、戦術的というか、ビジネスの才覚あると思うよ』
     定例通話で話を持ちかけたファウストへ、フィガロはどこか楽しげな声を出す。後ろからはカタカタとキーボードを叩く音が聞こえ、彼がほどほどに興味があることはすぐに分かった。
    「なんだ、有益な情報だろう。それに、あの子は良い子だよ」
    『……へぇ?』
     キーボードの音が止む。どこか静かになった電話口に妙な違和感を覚えながら、ファウストは話を続けていく。
    「新人賞も確か取っていたはずだ。作品もいくつか出している。実績もあるぞ。顔も良い」
    『きみが推薦する理由が贔屓だけじゃないことは分かった。今、なんだか心を読まれているみたいだよ』
     フィガロの笑い声と共に、再び後ろからキーボードの音が聞こえてくる。それからはいくつかフィガロから追加の質問をされ、ファウストは分かる限りのことを伝えた。
    『なかなかいい子じゃないか、美人だし。なんとかやってみるよ』
    「期待している」
    『あはは、俺も少しだけ本気出しちゃおうかな』
     やれることはやった。あとはフィガロ次第だ。
     そんな頼りの綱はどこか軽いテンションで笑っており、ファウストはため息を吐いた。
     
     それからきっと一ヶ月も経っていないころだろうか。ヒースクリフはファウストの出版社と新しい契約を結ぶことになった。
     コンタクト、出版社契約、他社との交渉、その他エトセトラ。それらを全て円滑にこなしたとしてもあり得ないほどのスピードだ。ファウストは純粋にフィガロを恐ろしく思った。
     
     そして、そんな彼と後輩を使って縁を深まったことへ、どこか罪悪感と安堵を覚えてしまう。
     
     そんな自分が、ひどく醜い。
     
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