ゼルくん病気なっちゃった世界線毎日やっていることがある。愛用のガンブレードを持って、シリンダーに一つだけソイルを込めて、くるくると回した後。引き金に指をかけながら剣先を喉に向ける。目を瞑って、一呼吸おいたら─ああ、今日も駄目だ。
毎日あえてルイより遅く出発する。朝食を共にし、お互い身支度を整えて、笑顔で見送る。笑顔で見送ったら、我慢していた血反吐をバケツに吐いて。いつまで生きられるのかわからない。ルイにバレないように、薬は多く服用していた。日に日にやつれていくのを感じながら、気丈に振る舞った。
痩せたことを何度か指摘されたことがある。その度に、間食をやめたからだと言い訳して。もういい加減通用しないだろうと思いながらも笑顔を重ねた。
誰もいないクルザスの雪原に一人向かう。これも日課の一つ。相棒のバトルタイガーの体躯を借りて寄りかかる。焚き火を炊いて、体を寄せ合うと、相棒は護るように身を寄せた。この時間帯は薬が切れる。だからこうして一人誰もいない雪原に来るのだが、いつまでこうしていられるか。咳が抑えられなくなって、身体の痛みに震えると、心配そうに相棒がそっと擦り寄る。大丈夫だ、なんて言いながら撫でる手も、震えてまともに力が入らなかった。
この手記がいつ見つかるのかはわからない。見つかったらルイにどれだけ怒られるだろう。怒られるだけじゃ済まされない気もするが。
一番怖いのは、眠っている時。いつ発作に襲われるかわからない上に、隣にはルイが寝息を立てている。起きているうちは誤魔化しが効くが、突然苦痛が襲ってきたら対処できるか自信はない。
勿論、医者に診せに行った。けれど返ってくるのはどうしようもない、の一言。分かったことは、徐々に衰弱していくこと、今のエオルゼアの医療では治せないこと。
手記を綴る手も段々と力が入らなくなって、ペンが手から滑り落ちる。もうまともに外出できる体力もなくなり、毎日言い訳をつけて家に閉じこもる。
ふらつきながらペンを持ち上げると、倒れそうになってルイが支えた。
「いい加減にしてくれ。」
少し怒りがこもった彼の目には、悲しみと不安が混じっていた。わかっている。もうこれ以上隠し通せないことも、嘘を付き続けたことも。
「…すまない。」
「すまない、じゃなくてだな。隠していることがあるだろう。」
ああ、ごめんルイ。
力なく耳が垂れると、隣りに座っていたルイが頭を撫でてくる。暖かくて、大きな手だ。自分はこれがとても大好きだ。誰も周りにいない二人きりの時だけ、体を寄せ合って愛を深めるのが、自分にとっての生き甲斐といっても過言ではなかった。
少し間をおいて、一息おいた。
「病だよ。少なくともエオルゼアには治療法のない病だ。」
ルイを見ると怒りと悲しみが混じった表情で、それでも数刻おいた後。ぎゅうっと、抱きしめられた。
「どうしてすぐに言わなかった。」
全くもってその通りだ。でも、生きていけるか自信がなくて。生きていていいのか疑問に思うこともあって。ルイと過ごせる時間も長くないという事実も、自分には受け入れがたくて。
我慢できずに涙が溢れてきて、ルイの胸に顔をうずめた。
「いきてていいのか…わからなくて…怖いんだよ……」
喉から出てくるのは震えた声と、後悔と、深い悲しみ。それをルイは受け止めて、頭を優しく撫でてくれる。大丈夫だ、と言い聞かすかのように。
「ゼルが生きてちゃ駄目なんて、誰が言ったんだ。誰も言ってないだろう。私は、ゼルに最期まで生きていてほしいし、共に過ごしたいと思っているよ。」
「…本当に?」
「ああ。」
ああ。あああ。心に覆いかぶさっていた重りが段々と外されたように、彼の言葉が傷を癒す。生きてて良いんだ。こんな惨めな身体でも、そばにいていいんだ。
「そもそも、エオルゼアには治療法が見つからないだけで、他の国にはあるのかもしれないんだ。シャーレアン、ラザハン、南方大陸…あと、帝国もだな。」
確かにそうだ。絶望ばかり囚われて盲点だったかもしれない。
「ゆっくり旅をして、一緒に探そう、ゼル。折れそうな時は支えるから。それでも駄目だったら、最期までずっとそばにいる。」
「ああ。ありがとう。」
これからどうなるのかわからない。病状が悪化して旅の最中に死ぬかもしれないし、治療法が見つかるかもしれないし、その逆で最期を受け入れるかもしれない。
いずれにせよ、大切なルイがそばにいてくれて支えてくれるのだから十分だ。十分すぎる。
本当に、ルイと出会えてよかった。