ゼルくんが盲目になる話物騒な噂を最近聞く。人の目玉をくり抜いて集めて売り払う、闇商人がいるらしい。自宅に戻る途中、サファイアアベニュー国際市場で聞こえた噂だった。なんでも、妖異の召喚や、趣味の悪いアクセサリー、アマルジャ族が用いる触媒だの…。用途は不明だが、ここまで尾ひれがつくとこの噂は実際に闇商人がいる可能性が高い。他にも、ミコッテ族が執拗に狙われているという情報もあった。確かに他の種族とは違って特徴的な瞳だから、闇商人にとって何かしらの価値があるのかもしれない。
幸い自分は冒険者稼業をしていて護身術はそれなりに身についている方だ。もし闇商人に襲われても、追い返せるほどの力はあると自負している。
市場で買い込んだ夕飯用の食材を抱え、ゴブレットビュートの路地を歩く。今日はルイに森の幸串焼を振る舞ってやる予定だ。
背後から足音がする。こちらにだんだんと向かってきているようだ。自分よりも早い足音に若干警戒する。
突如背後から抑えつけられ、同時に口元を薬品に漬けたような布を押し当てられた。この匂い、覚えがある。ウンカイツルの匂いと…まずい。同様にミコッテ族にしか効かない毒の香りだ。前に一度だけ少量嗅いだことがあり、危険な匂いだと記憶していた。
とにかく振り払って離れなければと、身構えようとした。がくん、と視界が揺らぐ感覚。ウンカイツルの酔いと神経毒が効いて、まともに身体に力が入らなかった。
目が覚めたときには視界はほぼ見えないに等しく、唯一頼みの綱になっていた右目が無くなっていることに気づいたのは、麻酔が切れ痛みがじんわりと感じ始めてからだった。不自然に包帯が目に巻いてあって、右目から血が滲んでいるのを感じる。
事実上盲目となった自分には、生まれつき備わる鋭い聴力と嗅覚が、状況把握の術となっていた。痛みに耐えながら耳を澄ます。足元に転がっていた石ころを蹴った音で、洞窟のようなやや広い空間に閉じ込められていることがわかった。昏睡毒と神経毒の影響で、身体は未だ思うように動かない。鼻に未だ毒の臭いが残っていて、頭がくらっと重くなる。どれくらい眠っていたのかはわからないが、毒の臭いの薄れ方から、そろそろルイが心配して探し始めるぐらいは経っているだろうと推測する。
左目はほぼ見えないに等しいのだが、光を感じ取ることはできる。見渡しても光源らしきものはなく、闇が広がっていた。人の気配もない。眼球だけ奪い早々に去ったのだろう。
どれくらい経ったのだろう。未だはっきりしない意識を保ちながら、空腹による餓死を覚悟していたのだが。ふと、光が刺した。石をずらすような音と、最も聞き覚えのある足音。続いて聞こえてきたのは、息を呑む音と駆け寄ってくる音。
そっと抱きかかえられると、必死に名前を呼ばれる。毒の影響…ここまで来ると後遺症だろう。そのせいか、まともに声が出せず返事ができなかった。
ルイが必死に苦手な回復魔法をかけてくれている。声音からは焦りと不安が溢れていた。もう少し。もう少し身体の生命力が高まれば、返事ができるというのに。想像以上に自分の身体は弱っているようだ。
あと少し。あとほんの少し。
届いた。
「ル、イ……」
掠れた喉から絞り出す、弱々しい声。それでも、返事をしてくれたことを何より彼は喜んでいるのが、抱き締める強さで伝わった。
「とりあえず出るぞ、ラベンダーベッドまで行けば安全なはずだ。」
重力が浮き上がるような感覚。勢いよく抱き上げられると、チョコボに匹敵するのでは、と思わずにいられない速度で走り出す。時折風を切るような、瞬時に前に出る感覚があるが、抜重歩法だろう。己の肉体こそ武器であるモンク。まさに彼のためにある戦闘職だ。
と、ぼんやり考えながら抱かれている。痛みこそ続いているが、必死にかけてくれた回復魔法が効き、こうして思考できる程には体力が戻った。
マトシャだす。本日はポイピクをご覧いただきありがとうだす。誠に残念だすが、この作品は中折れしただす。またのご利用をお待ちしてるだす。