「隣、良いだろうか。」
依頼と夜の仕事を終え、クイックサンドの隅で酒を啜っていたのだが、思わぬ客が訪れた。
見たところ同じ冒険者だろう。エレゼン族…イシュガルドかグリダニアかはわからないが。
正直誰かと飲むなんてあまり好きではないのだが、今日は店も繁盛していて席が足りないのは理解している。
「好きにしてくれ。」
目元の仮面を付け直しながら、適当に言い放った。
「背負っているそれ…見慣れない武器だな。何という武器なんだ?」
珍しい人だ。一人で飲んでいると大抵、避けるか無視するかなのだが。ここまで見知らぬ人間に寄り添う人は初めてだった。
「…ガンブレード。」
そう言うと彼は物珍しく私を眺めては、次々質問を投げかける。冒険者を初めてどれくらいだとか、どうやって技術を身に着けたとか。そういえば、容姿や出自に関しては一つも聞かれなかった。目元を明かしていないとはいえ、ミコッテと聞けば部族で判断されることもあったのだが。
不思議と不快感はなかった。珍しいことだ。人間嫌いの自分が、この人間ならいても不快ではないと思えたのだ。
これも何かの縁だろう。そういえば、名前を聞いていなかった。
「…良ければ名前を伺っても?」
「Oyakataaだ。君は?」
「ゼル。ゼル・ト・ファラク。」
名前に引っかかるところはあるが、事情があるのだろう。深くは聞かないことにした。それに、顔を隠している自分には聞く権利もない。
「ゼルか。覚えておくよ。」
酒で顔が赤く染まった彼は、微笑みながら手元のグラスを飲み干した。
大分時間が経ったし、帰るとしよう。
「…今日はありがとう。また、どこかで。」
少し寂しそうな顔をしながらも、Oyakataaは手を振り、残りの酒と向き合った。
また出会うとは知らずに、宿へと歩を進めるのだった。
─
今日の依頼は、荷物の見張りらしい。大量に商品を仕入れた為複数に分けてウルダハへ送るそうで、中間地点のコッファー&コフィンで品物の管理と監視を任された。
もう一人冒険者を雇ったらしいがこちらには知らされていない。
輸送用のチョコボキャリッジが複数回来た頃だろうか。もう一人の冒険者も遅れてやってきた。
背の高いエレゼン族で紫色の…髪の…頬に入れ墨があって…。
前にも会った…いや昨日じゃないか。
「ゼルじゃないか、また会ったな!」
こんな事もあるのかと自らの運命に驚いた。
─
あれから何度も仕事を共にすることが多くなった。不思議と息は合うようで、向かうところ敵なしという言葉が相応しい。一人で仕事をしていた時には感じられなかった高揚感が、ずっとこの時が続けば良いのに、と心の底で燻り始めた。
普段通り仕事を済ませたあと、二人でクイックサンドに向かう。今日は伝えたいことがあると言っていた彼は、事前に席を取ってくれたようだ。
「なあ、提案があるんだが…」
突然、Oyakataaはこちらを向き、じっと自分を見据える。
「これからは二人で、冒険をしないか?」
願ってもない提案だった。自分が初めてもっと一緒にいたいと思った人間が、これからも共にありたい、経験を分かち合いたいと言ってくれたのだ。
「…それってつまり、私が君の相棒になるってことか?」
「ああ。」
Oyakataaなら、この顔を晒しても認めてくれるだろうか?不気味なほど変色した右目、身体と一致しない部族、快楽でしか認めてもらえなかった自分。
ずっと人前で外すことのなかった仮面を少し震える手で外す。
「良い顔してるじゃないか。」
「…気味悪くないのか。名前だって部族と─」
最後まで言いかけたところで遮られる。
「純粋に、ゼルと一緒に冒険がしたいと思った。それでは駄目か?」
込み上げてくる感情が溢れ出して、思わず彼に抱きついた。自分を受け入れてくれる相棒が、自分にもできたのだ。
「…ありがとう。」
この時自分には密かに彼に対して友情を超えたものが芽生えているようだが、受け入れてくれたことが嬉しかったのか、まだ自覚していない。
ここから一歩、踏み出すのはまた別の話。