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    書いたやつ置き場
    既出のもいっぱいあるよ

    ジャンル雑多、受固定多め

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    クラさんを御真祖とウスに紹介しに来たノス
    Aパート ウスの影がちょっと薄かったりするから手直しするかも

    いつかクラノスになる生産ライン

     先を行くノースディンの革靴が石造りの廊下をかつかつと叩く。迷うそぶりもないそれに対しクラージィはといえば、不躾になりすぎないよう気をつけながらもきょろきょろとあたりを見回すのを止められない。
     3時間ほど前には慣れつつある新横浜の駅ビルに居たはずが、今は日本かも怪しく思えるような洋風の城にいる。
     栃木の山奥とは聞いているが、日本語も現代の常識も勉強中のクラージィにはいまいちどのあたりなのか分からない。電車に揺られているときは北のほうへ向かっていると理解していたが、電車を降りてからはノースディンの念動力に頼り切りで降車した街がどの方角だったかも曖昧だ。海はおそらく超えていないが、異国と言われても信じるだろう。そういう異質な空気が館を充している。
     灯りもないのに高い天井の装飾や掛かった絵画が鮮やかにクラージィの目に映る。見たこともないような景色の風景画だったり、子供が描いたような絵だったりが同じ廊下に並べられているのはこの城の持ち主のセンスだろうか。待っているのは竜の一族の真祖と次期当主だという。ドラルクにはやはり似ているのだろうかと少々能天気にクラージィは考えている。
     ノースディンは重厚な両開きの扉の前で歩みを止めた。左目だけでちらりとクラージィを見る。どうかしただろうかと軽く首を傾げたがすぐに視線は逸らされた。
     ノースディンが一歩扉へ踏み出すとするすると扉が開く。部屋の中は外とうってかわって光があった。暖炉があかあかと燃え、部屋を温めている。そして、炎を背に座る影が二つ。
     見定められている。無感動な赤い視線に思わずクラージィは背筋を伸ばした。身震いするような存在感に圧倒され、クラージィが思わずこれこそ伝説で語られた吸血鬼の王かと生唾を飲み込んだ瞬間、年嵩の吸血鬼がわずかに笑んだ。
    「ハイ、ノースディン。その子?」
     存外気さくな声かけにノースディンが堅苦しく応える。促されてクラージィはノースディンの前に立った。
     かるくノースディンの手がクラージィの背中に添えられる。知った気配が僅かにクラージィの緊張を解いた。もはや敵ではないのだ。肩の力を抜いて背筋を伸ばす。
     クラージィの雰囲気が変わったのに気がついたのか、ノースディンが口火を切った。
    「ドラウスには前に話したと思うが、200年ほど前にうちに来た悪魔祓いだった男で……。ドラルクの修行中に来たヤツだ」
    「あっあのときの!」
     ノースディンの補足にぽんとドラウスが手を打つ。
     無表情に切れ長の目で見つめられるのは落ち着かないが、動くと愛嬌があるひとだなとクラージィは思った。それでもあのときのね……と反芻しながら上から下まで眺め回されては落ち着かないが。
    「200年? 最近血族になったのじゃなかったの」
     抑揚に乏しい声が確認のように問いかける。クラージィの後ろでノースディンはわずかに目を伏せた。指先がわずかに冷たくなったような心地だ。クラージィが気遣わしげに身じろぎする。
    「……はい。御真祖様、その、近くへ行っても……?」
    「もちろん。いいよ」
     許可を得たノースディンが真祖の前に膝をつく。ひとつ瞬きをした真祖がノースディン、と柔らかく呼びかけた。
    「そこでいいの? こっちのソファの方がふかふかだ」
     声もなくノースディンは首を振った。首を垂れたままノースディンがクラージィは、と言葉を紡ぐ。
     おろおろとドラウスは親友の肩に手を置くか迷っていたがやめた。ノースディンは親友だが、今の彼は血族の祖たる真祖とその嫡子、後継たるドラウスに報告があるのだと言って訪れたのだ。親友をおもう身としては無理するなと駆け寄りたいが、ノースディンの気持ちを無下にするつもりはない。
     そうして、クラージィは自分の人としての死がどのように訪れたのか知った。ノースディンは自分の気持ちを明言することは避けて事実のみを述べたのでどう思っての行動だったのかは分からないが、クラージィのいのちを繋いだのはノースディンだ。そうでなければ死んでいたのだろうとはクラージィ自身も思っていたので驚きはない。それよりも真祖の膝に半ば縋るように跪いたままのノースディンのほうが気に掛かった。
     きっと彼は泣いているのだ。なにかが堪えられないと心が悲鳴をあげている。そしてその時縋るのは真祖でありおそらくはドラウスなのだ。せめて己にもなにか、と考えかけてクラージィは雷に打たれたかのように背筋を伸ばした。
     ひとを助けたいと思うのは当然のことだ。善いことであれば為すべきだ。人助けは善いことだ。だが今の衝動のような思いつきはノースディンを助けるだろうか。独りよがりな思いの押し付けではあるまいか。
     複雑なクラージィの先でノースディンは新横浜での再会までを語り終えた。
     初めて会った時はあまりに突然であったし友人との約束があったのでクラージィは彼と連絡先を交換するのを忘れてしまったのだ。クラージィはまた会うこともあるだろうとのほほんとしていたのだが、渋面のドラルクがノースディンがアポイントメントを取りたがっていると会いにきた。何ヶ月か前のことでしかないが、新しい日々に追われてすっかり遠くのことに感じてしまう。
     視線を落としたままのノースディンに真祖が呼びかけ、脇の下に腕を入れてソファに強引に座らせる。そのまま抱き寄せ、突然のことにノースディンが固まっている間に囁いた。
    「心を傾けた昼の子がいなくなってしまうのは、覚悟があってもかなしいことだ。……彼、生きていてよかったね」
     素直に頷くことは憚られた。だが、強制的にソファに座らせられたことでいやでもクラージィのことが目に入る。その目。
     黒々としたその瞳に、とりあえず憎悪や嫌悪感は見受けられない。わずかに揺れたそれが、それでも正面からノースディンを捉える。きっと戸惑わせている。それでも、喪われるよりはよほどいい。
     唇を噛み締めて、そっと真祖の腕に隠れるようにノースディンは頷いた。
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