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    歌仙+大倶利伽羅(義伝ネタ)/刀剣

    #刀剣乱舞
    swordDance

    とん、と置かれた酒瓶からはふわりと甘い匂いが漏れた。まるで叩きつけるように猪口を置く。あんたの力なら壊れてしまうだろう、と喉元まで出かかった言葉を大倶利伽羅は飲み込んだ。

    「…なんのつもりだ」

    「別に。疲労困憊している貴殿を笑いに来ただけさ」

     歌仙兼定はそう言ってと顔を背けながら大倶利伽羅の隣に座る。裏地に花柄があしらわれた外套がひらりと揺れた。

     先の出陣で敵に背後を奪われた大倶利伽羅は背中に傷を負っていた。先ほど手入れ部屋から出てきたばかりであり、戦場を駆け抜けてきた名残がどこかに残っている。

     無理やり猪口を奪うと大倶利伽羅は手酌をしようとする。しかし、歌仙がそれを許さない。一度置いた酒瓶を取り上げると、にんまりと大倶利伽羅に笑いかける。

    「まったく無様な姿だね。一人で戦えるといっておきながらその実手入れ部屋行き。東北の田舎刀は雅じゃないだけじゃなく、学習能力もないと見える」

    「だったら放っておけばいいだろう。わざわざ酒を注ぎに来たのか」

    言って、大倶利伽羅は歌仙が握っていた酒瓶をもぎ取る。歌仙が持ってきたもう一つの猪口に勢いよくそれを注ぐと、透明の液体はあっさりと盃から零れた。

    「せっかくの酒が台無しじゃないか!」

    「ふん」

     継がれた酒をごくごくと飲むと、大倶利伽羅はそのまま歌仙から目を背ける。いったいこの雅だ風流だとうるさい刀は何を求めて自分の下にやってきたというのだろう。まったくしつこい奴だ。一人になれる場所を選んできたというのに。

     酒の零れた指を舐めながら、歌仙はちびりちびりと酒を飲んでいる。

     黙っていればいいものを、彼は余計なことをべらべらとしゃべりすぎる。いつだったか、彼と所縁のある短刀が「歌仙は人見知りだから余計にしゃべるんです」と言ったことがある。こんな人見知りがいてたまるか、と大倶利伽羅は思う。

    「一人で戦えるモノなんかいないよ。生憎人の身になった僕らは両手に届く範囲、両目が映す視界しか認識できないんだ。背中に回り込まれたらひとたまりもないだろう」

    「………」

    「そんなこともわからないのに一人で戦えるなんておかしなことを言わないことだね。援護に回る僕たちの身にもなってくれ」

    「………」

    「聞いているか?大倶利伽羅」

    はあ、と息を吐き出して大倶利伽羅は歌仙を睨みつけた。せっかくゆっくりしていたところに、彼の声があったのでは休まるものも休まらない。

     独眼竜政宗が天下を望んだあの関ヶ原の一件以来、歌仙は隙を見つけてはこうやって大倶利伽羅の下にやってくる。

     やれ酒が手に入っただの、やれ負傷を笑いにきただの理由はその時々で違うが、共通しているのはこれと言って大きな理由があって来ているわけではない、ということだ。

     その気軽さが大倶利伽羅にとっては疎ましいものだった。

     馴合いたくはないと言っているのに、勝手に踏み込んでくる。そのくせ、自分を尊重するかと思えばそれもない。ただ、自分の思うままに勝手に踏み込んでくる歌仙に、大倶利伽羅はほとほと嫌気がさしていた。

    「俺にかまうな。何度も言っているだろう」

    「おや、構ってほしいとばかりに遠くに行くのに構ってくれるなとは随分ご挨拶だ」

    「誰もそんなことを言ってない」

     歌仙は小馬鹿にしたように肩をすくめた。

    「はあ。まったく貴殿はどうしていつもそうなんだ。この間の一件で少しは歩み寄れたと思った僕が阿呆だったよ」

    「好きに喚いていればいい」

    「それではここからは僕の独り言だ」

     言いながら歌仙は酒瓶を大倶利伽羅の近くに置いた。そのまま自身は立ち上がると、大倶利伽羅に背を向ける。

    「僕はね。僕たちのかつての主たちが縁を築いたように、生き抜いた友を褒め称えたいと思うんだ。一人きりにするのはあまりに心苦しい。たったひとり、忠臣の手を振り切っても天下を求めた彼を止められなかった三斎さまがどれほど後悔したのか僕はこの目でみてしまったから」

    「…」

    「おやすみ、大倶利伽羅。明日も出陣なんだろう?こんなところにいないで体を休めるといい」

     そういって歌仙は去っていった。手元に残された酒の匂いはどこか甘い。
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