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    drip13p

    @drip13p

    今はディルガイのみ

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    drip13p

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    ディルガイ。女体化注意!全3話(予定)
    ギスギスした関係の義兄弟が遭遇した女性二人組はなんと、自分たちと同じ顔をしていたーーー

    #ディルガイ
    luckae

    I'll be your enemy.(どうしてこんなことになったんだ…)
     ガイアはどんどん歩を進めてしまうディルックの背中を眺めながら、己の背中に冷や汗が流れて行くのを感じた。先ほど胃の中に収めたものが逆流してきそうになり、ガイアは口元にぐっと力を込めた。アデリンが丹精込めて作ってくれたものなので、できれば無駄にはしたくない。
     ガイアは脳内で旅人にヘルプを求めた。ブリュー祭の時に旅人とパイモンとディルックと共に食事をした。その際に今後も旅人とも食事ができると思ったのに、結局ガイアひとりがワイナリーに向かい、ディルックと二人で食卓を囲むことになってしまっている。素直に言うと、非常に気まずい。ディルックとは4年前からまともに話せた例がないからだ。ディルックを思うと筆が止まらなくて、手紙のやり取りはしていた。だから全くコミュニケーションを取っていないことはないが、以前のように双子と称されるほど親しい関係性に戻れないし、戻りたいとも思わない。もう隣に立って戦うことはないだろう。
     旅人がモンドにいないと事前に分かっている場合はワイナリーでの食事を断ることにしているのに、今回は騎士団本部から追い出されてしまった。ジンにまで手を回しているとは、恐れ入る。ディルックはどうやら今のガイアとの関係に満足していないようだ。だからと言ってガイアに対して以前のディルックのように優しい言葉が出てくるとは限らない。ディルックがガイアとどんな関係になりたいのかが、ガイアには全然分からない。ガイアはディルックとの距離感が分からず、食事中会話が続かなかった。ぐったりしながらも食事が何とかすべて喉を通ったことを安心していたら、ぐったりしていたことがバレて寝室のある二階に誘導されている。しかも「体調が悪いなら休んで行け」と強引に、だ。もしかしたら暗に泊まれと言われているのではないだろうか。何の準備もしていないのに。
    「あ~~明日も仕事だからすぐに帰りたいんだが」
    「明日の任務は午後からとジンから聞いている」
     仕事以外にも用事があると思わないのだろうか?実際用事はないのでガイアは黙った。部屋の扉の前でディルックが立ち止まり、振り返ってガイアをじっと見る。ディルックの言いたいことをガイアはきちんと理解している。夜が遅いのでモンド城には戻らずワイナリーで宿泊すべきこと、ガイアの部屋の荷物はそのまま残っているので宿泊に問題はないことを言いたいのだろう。だがやはりディルックの口からは昔のようにスマートに誘う言葉が出てこない。ガイアと同じように、ディルックもまたガイアとの距離を探しあぐねているのだろう。どうガイアに伝えれば正確に伝わるのか、上手くいくのか、何パターンも考えているに違いない。
    「ディルック、」
     先制すべくガイアが口を開いた時だった。ディルックの部屋の中から音が聞こえてきた。ディルックは瞬時に振り返り、ガイアもまた身構えて扉を凝視する。使用人たちは皆一階にいたので、ディルックの部屋に誰かがいるなどありえない。泥棒だろうか。息を飲み、ディルックはドアノブを掴む。ディルックはチラリと横目でガイアを見たので、ガイアは何も言わずに頷いた。まるで騎士団で二人で活躍していた頃のようだ。懐かしさを感じずにはいられない。
     しかし郷愁に浸っている場合ではない。ディルックが自室の扉を開くと、信じられない光景が広がっていた。
     装飾はほとんどなく質素だが、大きく造りで頑丈なディルックのベッドに人がいる。しかも二人。二人とも髪が長く、二人とも全体にレースがあしらわれているネグリジェを着ており、体型を見るに女性だ。今にも寝る…いや、おっぱじめそうな状況だ。訓練を受けた屈強な戦士ならまだしも、何の装備もしていない女性がこの豪邸に侵入するなど不可能である。
     片割れを押し倒し、こちらに背を向けている長い赤髪の女性が振り返る。こちらは音を立てていないので気配でディルックとガイアに気付いたのだろう。戦士として相当優秀なようだ。女性の顔を見た瞬間、ガイアは息を飲んだ。
    「…は?」
     その女性はガイアの目の前にいる義兄のディルックと全く同じ顔をしている。ガイアもディルックも呆然とその場に立ち尽くす。これは噂に聞くドッペルゲンガーだろうか。
     赤髪の女性はベッドから降りて立ち上がる。身体にピッタリと貼り付くネグリジェは体型の良さを際立たせる。豊満な乳房に、引き締まったくびれ。布に覆われていない部分の四肢は男性ほど太くはないがしっかり筋肉が付いている。男のディルックとの違いは身体だけのようだ。身に纏うピリッとしている雰囲気も、顔の造形も表情も瓜二つである。
     赤髪の女性は次の行動に移れないディルックとガイアの元に、ゆっくりと近付く。ディルックは一歩前に出てガイアの前に腕を出すと、威圧するように低い声を出した。
    「どこから侵入した?」
    「私の部屋に勝手に入ってきたのはそっちだ」
     まさに一触即発。同じ顔の人間が腕を組み、睨み合う。ディルックに女の双子がいるのだろうか、と思いつつ、ガイアはベッドに目線を移す。もう一人いたはずである。するとベッドの上で寝転がりながら三人の様子を眺めている女性と目が合った。
    (どういうことなんだ…)
     ベッドの上にいる女性の顔は、ガイアがいつも鏡で見ている顔と全く同じだ。しかしガイアに双子など存在しない。幼い頃は兄弟姉妹がいたが、ガイア以外はみな死んだはずだ。だからディルックに似た女性もディルックの双子である可能性は低いだろう。こういった非現実的な現象のほとんどは地脈か何かの異常が原因である。地脈に異常があるとは感じ取れなったが、この状況が発生したからには何か異常が生じているに違いない。
     ならば次にすべきことは地脈の異常を発見し、早急に直すこと。今後も他のモンドの住民に異常事態が発生しないように、騎兵隊長として対処しなければならない。しかしガイアは対応よりもどうして気になることがある。それは女性たちの関係だ。ベッドの上にいる褐色に青髪の女性は谷間がガッツリ開いている露出度が高いネグリジェで、既に着崩れている。どう考えてもセックスをしようとしていたのだろう。性別が違うとはいえ自分たちと同じ顔の人物たちが性行為をする間柄だと思うと、なんだが無性に身体の奥が燻ってしまう。
     まじまじとガイアがベッドを見ていると、青髪の女性が勝ち誇るように笑みを浮かべた。
    「そんなに見ると姉さんに消し炭にされるぞ?」
     彼女たちは姉妹らしい。髪も肌色も違うので血の繋がりはなく、義理の姉妹だろう。そんなことも自分たちと同じとは。
    「こっちにおいで、ガイア」
     赤髪の女性が手招くと、青髪の女性がネグリジェを整えながら立ち上がり、赤髪の義姉に抱きついた。その際にディルック♥と甘えた声を女性のガイアは出した。
     なんと、名前まで同じらしい。性別と関係性が違うだけの人物を前に、ガイアは冷静さを欠いて睨みつけた。
     女のガイアは当然のように女のディルックに甘え、守られようとしている。その事実に男のガイアは眩暈すら感じる。性別が違うだけなら、女のディルックも炎の神の目を持ち、男のディルックと遜色ないくらい強いのだろう。
     ディルックは強い。それは幼い頃から騎士を目指して鍛錬を欠かさず、肉体的にも精神的にも強靭さを誰よりも早く手に入れた。双子のようだと称されていた時代にガイアは神の目を持っていなかった。よってガイアの最大の武器は頭脳で、武力ではない。剣で戦うこともできるが、どうしても神の目所持者には劣る。だから若き日のガイアはずっとディルックに守られていた。それがガイアはどうしても歯痒かった。
     神の目の所持者になって、喜びなどほとんどなかった。いつでも見ているぞ、という警告にしか思えない。けれど氷元素を操るようになって、隊長格まで上りつめた。それくらいの実力を手に入れたことは、ガイアにとって悪いことではなかった。ディルックに一方的に守られる存在でなくなったことは良いことだ。女性のガイアを見るに、神の目を所持しているはずだ。それなのになぜ、ディルックの隣に立たず、一歩後ろで守られようとしているのか。
     己が家主だという主張を続け、折れる気配がないディルック二人を何とか諌め、自分たち以外の人間にどちらが家主かを尋ねることとになった。1階に降り、アデリンと対面すると、アデリンは義姉妹の姿を見て大層驚いた表情を見せた。つまりこのテイワットは義兄弟が存在する世界線であり、義姉妹が異端なようだ。男のガイアは自分が今このテイワットにいることに、心底安堵した。

     アデリンと話したことでディルックは二人とも気持ちが落ち着いたらしい、ようやくきちんと話し合いの場を設けることが出来た。ディルックはワイナリーのオーナーとして、ガイアは騎兵隊長として忙しい身だが義姉妹を放っておくことはできない。人々の混乱を避ける為、義姉妹はなるべくワイナリーに身を隠すことに決まった。その頃には幾分夜が更けていたので、とりあえず就寝することにした。ディルックの部屋を義兄弟が使い、メイドたちによって整理されているガイアの部屋は義姉妹が使うことになった。
     その決定に異論はない。しかしガイアは義姉妹を初めて見た時の記憶が蘇り、質問せずにはいられなかった。
    「俺のベッドに2人で寝るのか?」
    「君はどちらかに床で寝ろと言うのか?」
    「なぁ、…汚すなよ?」
     即座に返って来た義姉のディルックの質問返しに、ガイアは居心地の悪さを感じた。ディルックと同じベッドで寝るくらいなら、床で寝た方がマシだ。ディルックは男でも女でもガイアの思い通りにはならない人物のようだ。視線を感じて振り返ると、義兄のディルックがジト目でガイアを見ているではないか。何か言いたいなら言えばいいのに。ガイアが義姉にばかり声を掛けているからだろうか。ガイアも不思議である。異世界の人物で今後も関わるとは限らないからか、義兄のディルックよりも義姉のディルックの方が気楽に話せる。義兄のディルックを前にして、ガイアは黙り込んだ。義兄弟の様子を見て義姉妹がニヤニヤしていることに気付いたが、それを言及する前にガイアは義兄のディルックに腕を引かれてディルックの部屋に向かった。
     ディルックの部屋に入るとガイアはぼうっと立ちすくんだ。ディルックは机の上を片付けている。物を散らかして片付けないタイプだが、大人になって人前では片付けるということを学んだらしい。
     先ほどの喧騒とは大違いで静かで、物音しか聞こえてこない。ディルックの手によってソファーの上が更地になると、ガイアはソファーの上に飛び込んだ。
    「ごろごろしていないで手伝え」
    「ごろごろじゃない。俺はここで寝る」
     ディルックの動きが止まる。まさか、ひとつのベッドで一緒に寝ようと考えていたのか。ディルックもガイアも男性の中でも身長が高く、全身に筋肉がある。たとえディルックのベッドの作りがしっかりしていても、二人で寝たら絶対に狭い。寝苦しいことが確定している。だから当然の発想だと思ったが、ガイアはディルックに手を引かれ、起き上がることを余儀なくされた。
    「きちんと休養を取っていないと判断が鈍る。騎士団だけでなく、モンド全体に悪影響だ。そんなことも分からないか」
    「それはそっくりそのままジンに言うべきだな」
     あの子は性分だから…とディルックは口ごもる。色々と言い争ったが、結局ディルックは強引にガイアを自分の隣に寝かせた。ガイアは最初、反抗しようとしたがディルックの力はとても強いので早々に諦めた。そんなことに労力を割いては勿体ない。ディルックとの取っ組み合いは単騎で遺跡守衛に挑むよりも疲れると知っている。
     仕事の後で普段はしない気苦労をしたので、かなり疲弊している。しかし隣にディルックがいると思うとなかなか寝付けない。ガイアは横目でディルックを見た。仰向けで瞼を閉じ、穏やかな様子だ。幼さすらある。義姉妹と遭遇した時の剣幕を思い出す。とても同一人物とは思えない。寝ていれば、本当に可愛いのに。
    (あの頃みたいだ)
     幼い頃はこうやってよく一緒に寝ていた。ディルックは独り立ちの為に早々に一人で寝かされていたが、本当は寂しかったらしい。ガイアがラグヴィンド家に来て慣れ始めた頃、一緒に寝てとお願いされてガイアはよくディルックとともに寝た。ガイアが養子になるまでディルックの相手をしていた大きなテディベアの代わりにぎゅうぎゅうと強く抱きしめられて寝た。あの頃は苦しいと思っていたが、ディルックが旅に出ると恋しく思ってしまった。こんなこと、ディルックには絶対に教えてやらないけど。
    「ディルックお前、クマちゃんから卒業できたんだな」
    「僕を何歳だと思っているんだ」
     煽るとディルックは不機嫌そうな声を出した。きっとディルックは拒否するようにガイアに背を向けて寝るだろうと思ったが、ディルックはそのまま堂々と仰向けで瞼を閉じた。
     この状況では視界の端に互いが見えてしまう。ガイアは寝返り、ディルックに背を向けて寝ることにした。瞼を閉じると暗闇にクマちゃんを抱き締める幼きディルックを思い描いてしまった。あぁ、あの頃の寝顔は本当に可愛かった。
     眩しさに瞼を上げ、ガイアは朝が来たことを認識した。久しぶりにぐっすり眠ることができた。人肌に触れたからだろうか。ガイアは身動きが取れず、もう一度瞼を下ろした。
     抱きしめられている。いや、羽交い絞めにされていると表現する方が正確だろう。全く動くことができない。昔と同じようにディルックがガイアを抱き枕にしているからだ。ちゃんと視認していないが、確実にそうだ。ディルックにとってガイアの存在は昔とあまり変わらないのだろうか、ガイアは気になった。

     ディルックの目覚めによって羽交い絞めから解放され、ガイアはディルックとともに朝食の為に1階に降りた。いつもの自分の席に座ったディルックに対し、ガイアはどこに座るべきか悩んでいると使用人たちから服を借りた義姉妹がやってきて何も言わずに着席した。その結果ガイアはひとつ残されたディルックの右側の席に座ることを余儀なくされた。
     四人でテーブルを囲むと、作戦会議が始まった。義兄弟が表立った仕事をすることは四人の共通認識だ。即座に義姉が「溜まった書類は僕がやろう」と提案した。ディルック二人の話を聞く限り、ワイナリー周辺の仕事状況や闇夜の英雄業の状況は全く変わらないようだ。ディルックは常に忙しく、ちょうど自分が二人いて欲しいと思っていたところだったようなので、ワイナリーでできる仕事を女のディルックに振り振った。
     義兄は予定通り商談に、義弟は騎士団に会議をしに、義姉はワイナリーでできる組合の仕事と葡萄の管理、義妹は怪しいところへ魔物を退治しに行くことに決定した。魔物や宝盗団であれば女性のガイアの姿を見られても問題ないだろう。騎士団に報告されても、罪人の気が狂ってしまったと適当に言っておけばいい。
     会議中も男性のガイアは義姉妹の関係が気になって仕方なかった。義妹には神の目も武器もある。魔物はガイアひとりで難なく討伐できる程度の低いものだ。それなのに、義姉はやるべきことが終わり次第自分も駆けつけると言って聞かない。そして義妹はそれを快く受け入れているし、何なら嬉しそうだった。
     義姉妹を見ていると、ガイアは吐き気が催す。もしディルックの成人の日に自分の正体を打ち明けなかったら、今頃自分はディルックに対してこのように甘ったれ、ディルックもまた自分を甘やかしているのだろうか。もしくは父を失った悲しみに溺れるディルックの気持ちに弟として適切に寄り添えていたら、旅から帰って来てすぐにガイアの方から和解の為に動いていたら…様々な可能性を考えては脳内から消す。あり得ないし、そんな展開は望んでいない。
     ガイアは騎士団での仕事を早急に片付けると、誰にも言わずにモンドの北東へと向かった。民家は少なく、人通りが少ない。ほとんど木に覆われ、獣が行き交う場所だ。ーーーきっとここにいる。
     木々の隙間から見えるのは荷馬車に貨物、倒れている人間が数人。ガイアは土を思いっきり踏み込み、倒れる人々の真ん中に立っている人物の身体の中心を貫く勢いで剣を突いた。
     カキーーン…と音が周囲に響く。ガイアの剣は全く同じ剣で躱された。後ろに足を踏み出し、後退して相手と距離を取る。ガイアと対峙している相手は、全く同じ顔の女性のガイアだ。
    「ほう。意外に良い動きをするじゃないか。この襲撃も想定済みか?」
    「当然だろう。自分の考えていることは分かる。性別が違うだけの自分とは言え、信頼をするには早い。泳がして仕留める。いつもやっていることだ」
     剣を振り上げる。男の方も女の方も同時だった。本当に考えが同じなようだ。元素の力を使用していないのに、強大な氷元素の気配を感じる。実力が拮抗しているなら、戦う時間と労力は無駄である。ガイアは二人とも剣を下ろした。
    「随分とディルックに甘えてるからどれだけ弱いのかと心配してたんだぜ?」
    「男のお前には分からないだろうが、女というだけで世の中不利なんだ。人並み以上に努力している」
     昨晩のディルック同士のやり取りに負けず劣らず、緊張感のある空気である。一瞬の隙も見せてはいけない。相手は一瞬の隙をついて攻撃をすることに秀でている。なぜなら相手は自分なのだから。
    「男のディルックとは和解していないようだな。それは男であるからこその甘えだ」
    「性別で何が違う?女なら何の気なしに甘えられるのか?」
    「いつまでも生殖機能が備わっている男と違って女は世継ぎを残すのに期限がある。だからきちんと公言しないと周りが見合い相手を送りつけてくる。ラグヴィンドの優秀な血筋を残せと。だから義姉さんは若いうちから誰もが納得する理由を掲げて公言しないといけないんだ。私という存在を」
     性別と関係性だけが違うと思っていたが、どうやら周囲の環境が異なるようだ。男のガイアは女のガイアの言葉に、耳を傾ける。
    「その点男ならもっと歳をとっても相手の女性が若ければ世継ぎを残すことができるから周りもそう追い立てないだろう。屋敷の雰囲気でそう感じ取ったよ。たとえ今は義弟に夢中になっていたって、後々冷静になってくれればいい。その時に世継ぎを作ればいいってみんな思っている。気持ちに余裕がある」
    「あの屋敷の人間がその認識だと思ったのか?俺たちはもう兄弟じゃない。もう赤の他人だ」
    「そうやって自分の感情から逃げたいなら逃げ続けるといい。あらゆることから逃げて、後で悔いるといいさ」
     ガイアは男だが、女のガイアが言いたいことを理解できないことはない。しかし決定的に理解できない点がひとつある。ガイアはディルックに許されたくない。ディルックはガイアが裏切り続けていたことを許している。そんなことは分かっている。だからたとえ空気が悪くても食事に誘うのだ。
     それでもガイアはディルックの手を簡単に取れない。取ってしまったら、今までの自分を否定するようだった。ガイアは今の関係性で満足している。変わろうとなんて思っていない。ディルックに嫌われてもいい。ディルックにガイアの陰の献身を報いてもらわなくていい。すべてはガイアが好きでやっていることだから。
     ディルックの手を取ってしまったら、人間は欲深いからもっともっとと欲しがってしまう。己の浅ましさを知っている。甘えたくもない。自立したい。だからディルックの手を取ることができないのだ。許さないで欲しい。
     この国ではほぼすべての人間がディルックの味方だ。だからガイアはディルックの敵のままでいたい。ガイアまでディルックに絆されてしまったら、ディルックの牙の鋭さがなくなってしまう。騎士団時代の心優しいディルックが悪かったとは言わない。だけどあの時は仲間を切り捨てることができず、結果的にディルックはかばって怪我ばかりしていた。それが今のディルックはすべて自分でやるようになった。他人の為に怪我を負うことはなくなった。敵意は以前と比べ物にならない。研ぎ澄まされていて、理想と言ってもいい。それはディルックが絶望して灯す敵意を忘れていないからだ。
     ガイアは完全にディルック側の人間に、味方になりたくない。ディルックの敵意が消えないように、この世界はまだ何も解決していないのだから。
     仲良くなることが、関係性の最善ではない。すぐに人は家族は仲良くあるべきだと主張する。それが間違っているとは思わないが、すべての人間に適用されるとは思わない。
    「モンドとカーンルイア、どっちが大事かなんてもう答えが出ているくせに」
     女のガイアは悲痛な声で言った。義妹のガイアの心はモンドと決めているようだ。モンドを選んだからには義姉であるディルックが他の人の手に渡ることを何としても阻止したいらしい。義弟であるガイアはまだ決められない。カーンルイアを選ぶことで、救えるものだってあるのだ。
    「ここにいるってことは、お前は義兄さんのことを想っているということだろう」
     自分たちの周りで倒れているこの商人たちは、ワイナリーに一矢報いようとしている集団だ。それらの情報を独自に収集し、ガイアはディルックに知られないように内密に粛清している。アカツキワイナリーがモンドで、テイワット大陸で有名でい続けるには、このように陰の努力をしないといけない。
    「お前、義兄さんに俺のことを話すなよ」
    「さぁどうかな。お前の出方次第だな」
     女のガイアはニヒルに笑う。ガイアの想いを、女のガイアから男のディルックにバラされては堪ったものではない。それだけは阻止したい。
     なぜなら、自分が逆の立場だったら絶対にあることないこと吹き込んで二人の関係を拗らせて掻き乱すからだ。
    「ほら、次の任務の時間が近い。早く行って来い」
     女のガイアに言われ、苛立ちを覚えながらガイアは足早にその場を去った。何としても義兄のディルックと女のガイアの接触を阻まないといけない。昨晩は大人しそうに見えたが、ガイアの最大の敵はもう一人のようだ。
     こうして、気の休まない日々が始まったーーー。

     第一話 おわり
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