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    niesugiyasio

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    niesugiyasio

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    原作軸の冬のエルリ

    #エルリ
    auricular

    エルヴィンはシガンシナでの冬のある日を思い出していた。あの年はなかなか冬らしくならなかったところに、急な冷え込みが訪れたのだった。エルヴィンは寒がりな方ではないが、突然の寒さにいくらかおののいた。
    凍てつくような空気に、思わず身を縮こまらせる。吐く息が白い。桶の水に氷が張っている。空はすでに明るいが、まだ日は差し始めていない。早朝の道を、ウォール・マリアの農地に向かう人々と、シガンシナ区の市中に向かう人々が行き交っている。
    エルヴィンは道の向こうにちいさな背中を見つけた。自由の翼のついた外套に、ちいさな頭。彼が何をしているのか、すぐには分からなかった。その場で足踏みをしては一歩動き、また足踏みをしている。足踏みといっても行進の訓練のような規則的なものではなく、地面を見下ろしながら無心に、かつ不規則に土を踏んでいる。しばらく見ていれば分かった。霜柱を踏んでいるのだ。音や感触が小気味よいのだろうか、背中が楽しそうだ。子どもみたいだ、と思ってしまう。鉄面皮と言われるほど表情の変わらぬエルヴィンの頬が綻ぶ。地下街は年間を通してさほど気温が変わらないと聞く。つまり、彼にとって、初めての冬だ。これまでに霜が降りる日はあったが、霜柱ができるほどに冷え込んだのは今朝が初めてだ。彼は冬を堪能している。
    馬車が一台通り過ぎるのを待ち、エルヴィンは道を過ぎって彼に近づいた。気配に気づいたのだろう、リヴァイが振り向く。何か用か、と言いたげな顔をした彼に向かって腕を伸べ、その頭を撫でる。見る間に表情が険しくなった。エルヴィンは動じないが、気の弱い者なら漏らしてしまったに違いない。彼が怒るのも無理もない。いい年をして頭を撫でられるというのは気分の良いことではなかろう。
    「手を乗せやすいところにあったものでな」
    「そうか」
    「そうだ」
    およそ筋の通らない言い訳であったがこの場はやり過ごせたようだ。エルヴィンはあたかも忙しいようなふりをして立ち去った。
    充分に遠ざかってから、手のひらを見る。それにしても、小さな頭だったな。なんとも、かわいらしい。彼の背、表情が脳裏に蘇ってくる。エルヴィンはまたも頬を弛ませた。それから、自分が滑稽になる。まったく、似つかわしくないからだ。

    その午後のことだ。巨大樹の森で訓練があった。
    「リヴァイ!」
    エルヴィンの声はよく通る。遙か遠方にいたリヴァイがエルヴィンの方を向く。
    放たれたアンカーがエルヴィンの上方に刺さる。ワイヤーの巻き取り音とともにリヴァイが飛来する。
    「何だ」
    声が上から降ってくる。エルヴィンは首を反らして見上げねばならなかった。
    「少し、遠いようだが」
    言えば、彼はワイヤーを伸ばした。いくらか降りてきたので近づいたがまだ見上げねばならなかった。
    「何だ」
    彼はこれ以上降りてくるつもりがなさそうなので、見上げたまま指示を与えれば彼は「了解だ」と飛び去っていった。
    滅多なことでは動じぬエルヴィンだが流石に考えた。これは、エルヴィンが頭を撫でたことと無関係ではあるまい。いつまでも俺の頭がてめぇの手を乗せやすい位置にあると思うなよ。といった姿勢のあらわれだろうか。
    以降、エルヴィンがリヴァイを呼びつけると、それが立体機動装置をつけている時なら、彼はエルヴィンより頭の位置を高くとった。リヴァイの心持ちは分からぬままだが、エルヴィンは彼を見上げながら話すのを、なかなか気に入った。組織上、リヴァイはエルヴィンの部下である。しかし部下という枠に嵌まらないのが彼である。もちろん上官のようには思わないし、同期とも違う。彼は彼でしかなく他の何にも例えようがないが強いていえば天使である。天使というのは今は絶えた昔の宗教の概念であるらしい。残っている絵画からして背に羽根の生えた生き物で神の遣いと思われる。実在したわけでなく、空想上の生き物ではあろう。だから、リヴァイは実は人間ではなく天使なのだ!と思っているわけではない。ただ、天使のようであるのだ。彼に対しては命令をするというより願いごとでもするような感覚があるからだろう。叶えるも叶えぬも彼の自由。彼はただエルヴィンに従ったりしない。命令を下したとしてそれを実行するかどうかは彼が決める。決定権は常に彼が握っている。向こうはどう思っているか知らないが、エルヴィンはそう感じている。だから、見上げて話すのがそぐわしいように思われるのだ。

    不意にこうしたことを思い出したのは、霜柱を踏んだからだ。
    ウォール・マリアに冬が訪れていた。一年前の冬とはまるで違う。シガンシナが襲撃を受け、人類はウォール・マリアを喪った。
    奪還作戦と銘打ってはいる。だがエルヴィンは知っている。恐らく誰もが知っているだろう。口減らしのため、人口の二割を壁外へ出した。
    かつてはそれなりの街だった廃墟が戦場になった。もう殆ど全滅した。作戦は遂行したといえるだろう。そろそろ撤退を告げるべき時だ。
    一歩先にまた霜柱をみつけたので、それを踏む。小気味よい感触だ。なんだか楽しい。子どもの頃を思い出す。父の面影が過ぎる。俺は何のために調査兵団に入ったんだったか? 開きかけた蓋はしかし閉じねばならない。俺は人類のために戦っているのだ。そう言い聞かせねば。
    巨人が襲いかかる。だがエルヴィンは動じない。彼が迫っているからだ。飛来したリヴァイが巨人の項を削ぐ。
    彼は一旦エルヴィンが背にしていた建物の屋根に取りつき、それから降りてきた。頭の位置は、エルヴィンより上だ。エルヴィンは彼を見上げた。彼がちいさな手を伸べて、エルヴィンの頭を撫でる。エルヴィンは虚を突かれた顔つきで彼を見ることしかできなかった。
    「手を乗せやすいところにあったものでな」
    彼は仄かに笑ったようだ。愛想はない。だが慈しみが伝わってくるようだ。労りを感じる。
    「そうか」
    「そうだ」
    エルヴィンは周辺で最も高い建物に上り、撤退を告げた。
    退路確保のための行動に移ったリヴァイを見る。
    お前がいることで俺は強くなれるみたいだよ。
    口には出さず、そう告げる。お前がいる限り俺は大丈夫だ。何が大丈夫なのか。エルヴィン自身、分からない。命の保証はない。ただ、過たない。そんな確信を得て安心し、各部隊に指示を下し始めた。
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    niesugiyasio

    PAST原作軸エルリ連作短編集『花』から再録15『空』
    終尾の巨人の骨から姿を表したジーク。
    体が軽い。解放されたみたいだ。俺はこれまで何かに囚われていたのか? 空はこんなに青かっただろうか?
    殺されてやるよ、リヴァイ。
    意図はきっと伝わっただろう。
    地鳴らしは、止めなくてはならない。もとより望んだことはなく、地鳴らしは威嚇の手段のつもりだった。媒介となる王家の血を引く巨人がいなくなれば、行進は止まるはずだ。これは俺にしかできないことだ。
    エレン、とんだことをやらかしてくれたもんだ。すっかり信じ切っていたよ。俺も甘いな。
    また生まれてきたら、何よりクサヴァーさんとキャッチボールをしたいけれど、エレンとも遊びたいな。子どもの頃、弟が欲しかったんだよ。もし弟ができたら、いっぱい一緒に遊ぶんだ。おじいちゃんとおばあちゃんが俺達を可愛がってくれる。そんなことを思っていた。これ以上エレンに人殺しをさせたくないよ。俺も、親父も、お袋も、クサヴァーさんも、生まれてこなきゃよかったのにって思う。だけどエレン、お前が生まれてきてくれて良かったなって思うんだ。いい友達を持ったね。きっとお前がいい子だからだろう。お前のことを、ものすごく好きみたいな女の子がいるという話だったよな。ちゃんと紹介して貰わず終いだ。残念だな。
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    TRAINING好きじゃないと言わなくちゃいけないへいちょ。まず、口うるさい。
     リヴァイの一挙手一投足について、ああだこうだと言う。机に向かってまっすぐ座れ、茶を飲む際に音をたてるな、食事は残さず全部食べろ、上官の話を聞くときにらみつけるな、同じ班の兵士とはうまくやれ、字は丁寧に書け、椅子で寝ないでベッドで寝ろ。無視をしてもこりずに何度も言ってくる。
     ハンジなどは、あんなに細かく言ってくるなんて、愛だよね、と呆れたように言う。
    「お母さんでもないのに、普通、大の大人に対してああは言わないでしょう。あ、別にリヴァイが小さいからエルヴィンには子供に見えているんじゃないかなんて言ってないよ」
    「うるせえ」
     たいして必要無いであろうときも、エルヴィンはリヴァイを近くに置いておきたがる。
    「リヴァイ、王都での会議に同行しろ」
    「リヴァイ、訓練には私も参加する」
    「リヴァイ、次の壁外調査では私の直属として動いてもらう」
     隙あらばずっと、エルヴィンは独り言ともつかないことを言い続けている。
    「王都に新しい店ができていてな、川沿いの四番街の先だが、もともとあのあたりは住宅街だったのに、最近は商店が増えている。住民たちの生活が安定して豊かになっているから 2195

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