セフレ京→(←)友 月に1回、バイトと部活の両方が被らない日曜日。俺のアパートから徒歩5分の小さなラブホテルの一部屋、費用は京持ち。ゴムは必ず着ける。3時間でしこたまヤッて、終わったらそのまま解散。
それが、俺たちの関係の全てだ。
「先輩はさ、結局、僕以外とでもこうなってたんでしょ」
いつの間にか降り始めた雨が小さく窓を叩く。事後特有の気怠さと眠気に抗って、友一は隣で冷えた水の入ったペットボトルを呷る京へとゆっくり視線を移した。小さなベッドライトだけがぼんやりと部屋を淡く照らしていた。京の頭はちょうど光を遮る位置にあったので、その表情はぼやけていて、友一には京が今どんな顔をしているか分からなかった。
「どういう意味だよ」
「そのままの意味だよ。頼まれれば、僕以外にも抱かれたんでしょって話」
台詞の割に口調には全くの抑揚がなく、淡々と淀みなく話すので、友一には京が何を考えてるのか完全に分からなくなってしまった。
「……だとしたらどうなんだよ」
「…………別に」
京はそう言うなり、そっぽを向いて寝転がった。
一体何が言いたいんだ。いつもの憎らしくなるほど理路整然とした話し方は見る影もなく、こんな奥歯に物が挟まったような言い方は紫宮京らしくない。友一は強烈な違和感に眉をひそめた。
そういえば、行為の途中からコイツは様子が変だった。京の背中をぼんやり見つめながら、友一はそのきっかけを思い出そうと細い記憶の糸を辿りはじめる。
いつもと同じように、脱いで、出して、挿れて。後孔に奥まで収まる熱を感じながら、目を緩く閉じて深呼吸をして、荒い息を少しずつ整えていた。友一が違和感に気がついたのはその時だった。
視線を感じる。そりゃ、二人して性行為に耽っている訳だから、目の前の京からの視線を感じるのは至極当たり前のことなんだけど、視線の色が違う。
京はぎゅっと眉根を寄せ、何事か我慢しているような、苦しそうな、苦虫を噛み潰したような顔になっていた。そんな顔をしてどこを凝視しているのかと視線を目で追いかける。
口か。京は何故か、友一の唇にじっと視線を送り、小さくため息をついた。最初は口元に何かゴミでもついているのか、と思ったが、それならそんな目で見ないし、そもそもすぐに指摘してくるだろう。京が僅かに唇の端を噛んだ。あぁ、そうか。そういえばしたことなかったっけ。
京の首に両腕をがばりと回し、その辛気臭い面を思い切り引き寄せて、驚いたその肉厚な唇が開く前に、自分の薄い唇をしっかりと押し当てた。
眼の前のべっこう色の瞳が僅かに見開かれ、戸惑ったような吐息が漏れた。あれ、違ったか。
「……っ先輩、ダメでしょ、キスは好きな人としなきゃ」
「もう別にいい、天智ともしたし……」
「っ、天智くんと?何で?」
「……うーん、成り行きで……?」
「……ふーん」
戸惑いの色がすっと消え、その代わり、京の表情に翳りが見えた。わざと無感情を装うような、暗く寂しい顔になった。
だけど、乱暴に抱かれるようなことはなかった。友一の腰を掴む強さも、昇り詰めるために性器を擦り上げる手つきも、最奥を突き上げる腰の動きまでも、全てが友一の身体を気遣ういつも通りの京だった。そのくせ、いつまで経っても瞳を歪めて沈んだ顔をしているものだから、そのアンバランスさが鮮烈に目に焼きついたのだ。