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    むらた

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    むらた

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    この前ツイートした真友の話 いつかぜんぶ書けたら支部にあげる

    真友かきかけ 斯波真次の夜は遅い。
     その日──というか、もうすでに翌日になっていた──真次が帰宅したのは深夜2時のことだった。カードキーを取り出してオートロックを解除し、玄関の小さな明かりをつける。車の鍵を壁のフックにかけようとして、床に取り落としてしまい、それは小さな音を立ててフローリングを転がっていった。舌打ちが出る。
     今日は、なにもかも、思い通りにならない1日だった。
     そりゃあ、全てが思い通りにいく仕事の方が稀なのだが、今日は特にひどかった。依頼人は遅刻、謝罪なし。それだけならまだいい、その上、臆病で馬鹿なくせにプライドは一丁前な依頼人の出しゃばりのおかげで、真次は当初の計画以上の人数との乱闘を強いられる羽目になった。そいつが今後も利用できそうな金ヅルでなければ、その場で首を絞め上げていたかもしれない。
     そういうわけで、真次はもう疲れ切っていたし、何より最高に苛立っていた。鏡を見ずとも、自分が信じられないほどひどい顔をしている自覚はあった。靴を脱ぎ、コートと背広を玄関に放り投げて、大股でリビングへ進む。
     リビングは真っ暗で人影は無く、隅にある冷蔵庫が稼働する微かな音だけが聞こえてきた。仕事で遅くなる時もあるから、先に寝ていてくれ、と同居する初めの日に伝えたのだから当然のことだった。
     まっすぐ洗面台へ向かって、石鹸で念入りに手を洗う。だいぶ手荒なこともしたから、ひょっとしたら指に唾液や血が付いているかもしれない。真次はやや几帳面の気があるので、そんな手で家中べたべた触りまわることは耐えられなかった。それに、こんな手では到底彼に触れる訳がない。
     眠る彼を起こしてしまわないよう、足音を立てないようにフローリングを移動して、扉の前でぴたりと止まる。いつもなら必ずノックをして返事を待ってから入るのだが、真次はノックも声をかけることもせず、ゆっくりとドアノブを捻って真っ暗な部屋にそっと入った。
     真次には日課があった。それをしないと到底生きていけない、というわけではないが、気づいたら何度も何度も繰り返しやっている。それをしないと、小骨が喉に引っかかったかのような小さな違和感が残る。夜寝る前の軽いストレッチとか、朝起きた後の一杯のコーヒーだとか、もはや日常に溶け込んで、無意識下でやっていることに近かった。
     規則的な寝息が聞こえる。部屋の隅にあるベッドに歩み寄り、そっと覗き込んだ。そのベッドの中で、真次の同居人である片切友一は、毛布に包まれて静かな寝息を立てていた。
     はああ、と深くて長いため息が真次の口をついた。身体を付き纏っていた疲労感が、途端にどっと重力を持ってのしかかってくる。部屋の椅子を引いてきて、腰掛ける。はあ、疲れた。
     こんな風に疲労困憊で帰ってきた日、真次は必ず友一の部屋に入り、その寝顔を眺めていた。ブサイクだなあ、と笑いものにしたいわけでも、眠っている間に何か嫌がらせをしたいわけでもなかった。
     緩やかに閉じられた瞼。曲線を描いて下がる眉。力が抜けた半開きの薄い唇。
     唇の端に光る涎を親指で軽く拭ってやる。先程までの苛立ちと緊張が、煙のように失せていくのが分かった。
     気が抜ける、とでも言うのだろうか。この間の抜けた寝顔をみていると、いつも、張り詰めた糸が切れたように気が緩んでしまう。この寝顔の前で、気を張ったままでいることが馬鹿らしくなる。
     

     
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